東野圭吾さんが2014年に発表した社会派サスペンス小説を映像化した、WOWOW「連続ドラマW 東野圭吾『虚ろな十字架』」。
死刑制度や被害者遺族、そして「人の命を奪った者に償いの道はあるのか」という重いテーマを描く本作で、第1話から中原道正と妻・小夜子は、娘・愛美を殺害されるという悲劇に見舞われます。
犯人・蛭川和男には一度は無期懲役判決が下されますが、控訴審で死刑に。しかし、望んでいたはずの死刑判決が出ても、中原夫妻の苦しみが終わることはありませんでした。
そして物語は「9年後」へ。離婚した元妻が何者かに殺害され、新たな事件が動き始めます。
この記事では、第1話で描かれた愛美殺害事件と蛭川の裁判、死刑判決後も救われなかった中原夫妻の姿、そして9年後に起きた元妻殺害事件について整理していきます。
第1話3行まとめ
- 中原道正と妻・小夜子の娘・愛美が、強盗目的で侵入した蛭川和男に殺害される
- 蛭川は一審で無期懲役となるが、控訴審で死刑判決が下される
- それでも中原夫妻は事件から立ち直れず離婚し、「9年後」に小夜子が何者かに殺害される
第1話あらすじ
ペット葬儀の仕事をする中原道正は、かつて妻・小夜子と娘・愛美の3人で暮らしていた。
ある日、小夜子が買い物に出ている間に自宅へ強盗が侵入。帰宅した小夜子は、トイレで拘束されたまま亡くなっている愛美を発見。
やがて犯人として逮捕されたのは、過去に強盗殺人事件を起こして無期懲役となり、仮出所していた蛭川和男という男だった。
蛭川は犯行を認めるが、裁判では殺害場所や殺意について供述を変え、一審では無期懲役判決が下される。納得できない中原夫妻は控訴審に臨み、新たな証拠や証言によって蛭川には死刑判決が下された。
しかし、裁判が終わっても2人の苦しみは消えず、やがて一緒にいることさえつらくなり離婚。
そして物語は「9年後」へ。
中原は刑事・佐山から、小夜子が何者かに刺殺されたことを知らされる。葬儀に参列した中原が再び元妻の死と向き合う中、警察署には町村作造という男が現れ、「女を殺した」と自ら出頭してくるが……。
娘が自宅で殺害される
事件当時、小夜子は愛美を自宅に残して買い物へ出ていました。帰宅すると玄関の鍵が開いており、室内は荒らされた状態。小夜子が愛美を探すと、トイレで両手両足を拘束されたまま倒れている姿を発見します。
愛美の死因は首を絞められたことによる窒息死でした。
逮捕されたのは蛭川和男、48歳。
蛭川は金に困り、留守だと思った中原宅へ空き巣目的で侵入。その後、現金を見つけて逃走しようとしたものの、愛美に顔を見られていることを思い出して引き返し、首を絞めて殺害したと供述しました。
蛭川は今回の事件以前にも、26年前に強盗殺人事件を起こし、無期懲役判決を受けていました。しかし服役後、半年ほど前に仮出所していたことが判明します。
蛭川の裁判で殺害時の供述が変わる
取り調べでは「トイレで殺害」と供述
蛭川は取り調べの段階では、愛美をトイレに閉じ込めた後、その場で首を絞めて殺害したと供述していました。
司法解剖では、愛美の首に強い圧迫痕が残っており、3分以上は首を絞め続けていたと推測されます。
単に静かにさせるためだったとは考えにくく、検察側は蛭川に明確な殺意があったと主張しました。
法廷では「玄関で首を絞めた」と変更
ところが裁判になると、蛭川は愛美の首を絞めた場所を「トイレ」から「玄関」へ変更します。
取り調べで違う内容を話した理由については、長時間の取り調べで疲れてしまい、刑事の言うことに合わせてしまったと説明しました。
玄関で衝動的に首を絞め、その後、愛美が死んだとは思わないままトイレへ移したというのが、裁判での蛭川の主張でした。
殺意はなく衝動的な犯行だったと主張
蛭川は「静かにしてほしかっただけ」で、愛美を殺すつもりはなかったと主張します。
さらに被告人質問では、中原夫妻に向かって謝罪し、「死んでお詫びするのが筋だと思うが、自分としては償わせてほしい」と涙ながらに訴えました。
弁護人の平井肇も、蛭川は犯行を反省しているとして、計画的な殺人ではなく衝動的な犯行だったことを強調します。
平井弁護士の弁護には妙な違和感が残る
もちろん、被告人の利益を守り、刑を少しでも軽くしようとするのは弁護人の役割です。
ただ、第1話の平井の弁護には、事実を確認するというより、蛭川に有利な説明を後から組み立てているように見える場面がありました。
特に後の控訴審では、トイレへ向かった足跡が2つ残っていたことについて、平井が「愛美が気になって様子を見に戻ったのではないか」と問いかけると、蛭川は助け舟を得たようにうなずきます。
蛭川自身の記憶なのか、それとも弁護側が示した筋書きに合わせているのか。
第1話の時点では判断できませんが、蛭川の供述にはどこかすっきりしない違和感が残りました。
一審判決は無期懲役
「死刑じゃなかったら耐えられない」と願う小夜子
裁判を傍聴していた小夜子は、蛭川が供述を変えたことや、蛭川の反省を強調する弁護側の主張に強い不信感を抱いていました。
裁判の行方を不安がる小夜子は、「もし死刑じゃなかったら耐えられない」と中原に漏らします。
娘を奪われた2人にとって、蛭川が死刑になることは、事件に区切りをつけるための唯一の答えのようになっていました。
無期懲役判決に納得できない中原夫妻
しかし、一審で言い渡された判決は無期懲役。
小夜子は、愛美を殺した蛭川が生き続けることを受け入れられず、「どうして私たちが惨めな思いをしなくてはいけないのか」と涙を流します。
検察は控訴する方針を示しますが、控訴審で死刑判決につなげるには、蛭川の犯行が衝動的なものではなく、明確な殺意に基づくものだったと示す新たな証拠が必要でした。
控訴審で明らかになった愛美の涙と2つの足跡
愛美はトイレに入れられた後も生きていたのか
控訴審で争点となったのは、蛭川が愛美の首を絞めたのが本当に玄関だったのか、そしてトイレへ移された時点で愛美がまだ生きていたのかという点でした。
検察側は、蛭川が愛美をトイレへ閉じ込めたあと、いったん金品を探すためにその場を離れ、再び戻って殺害したと主張します。
もしそれが事実なら、犯行はその場の衝動によるものではなく、一度離れたあと改めて殺害を決意したことになります。
ハンカチに残された涙が新たな証拠に
検察側が新たな証拠として示したのが、小夜子が事件当日に持っていたハンカチでした。
小夜子は、トイレで発見した愛美の顔が涙で濡れていたため、そのハンカチで拭いたと証言します。
死後に涙を流すことはないため、検察側はこれを「愛美はトイレに入れられたあとも生きていた」ことを示す証拠だと主張しました。
一方、弁護側の平井は、小夜子自身の涙が愛美の顔に落ち、それを娘の涙だと思い込んだ可能性を指摘します。
問い詰められた小夜子も、最後には「分かりません」と答えるしかありませんでした。
トイレへ向かった2つの足跡
さらに検察側は、現場にはトイレへ向かった足跡が2つ残されていたことを指摘します。
蛭川の供述ではトイレへ行ったのは一度だけのはずでした。
そのため検察側は、蛭川が一度愛美をトイレへ閉じ込めたあと、再び戻って殺害したのではないかと追及します。
加えて、愛美の口に詰められていたスポンジボールに含まれる唾液量から、小学生低学年の子どもなら約10分間は生活反応があったと推定されることも示されました。
弁護側は「様子を見に戻った」と反論
これに対し平井は、蛭川がトイレへ2度向かったとしても、それが殺害のためだったとは限らないと反論します。
愛美が気になり、様子を確認するために戻ったのではないかと蛭川に問いかけると、蛭川はその言葉にうなずきました。
また、首を絞められた際には通常より多く唾液が分泌される可能性があるとして、スポンジボールの唾液量だけでは、愛美がトイレで約10分間生きていたとは断定できないと主張します。
検察と弁護側で、同じ証拠からまったく異なる事件の姿が示されることになりました。
控訴審で蛭川に死刑判決
死刑判決に涙を流して安堵する中原夫妻
控訴審の判決で、蛭川には死刑が言い渡されました。
その瞬間、中原と小夜子は涙を流しながら安堵します。
一審では無期懲役となり、「もし死刑じゃなかったら耐えられない」とまで思い詰めていた2人にとって、ようやく望んでいた判決が出たことになります。
一方、死刑判決を聞いた蛭川はその場で失禁し、中原夫妻に視線を向けることもないまま退廷していきました。
裁判が終われば苦しみも終わるはずだった
中原と小夜子は、蛭川が死刑になれば事件にも区切りがつき、自分たちの苦しみも少しは終わると思っていたのかもしれません。
しかし、裁判が終わっても2人の生活に平穏が戻ることはありませんでした。
愛美を奪った男に死刑判決が出ても、愛美がいない現実そのものが変わるわけではありません。
むしろ、目標にしていた裁判が終わったことで、2人は改めて「これからどう生きていけばいいのか」という問題と向き合うことになります。
コラム|死刑判決が出ても遺族は救われなかった
判決後も中原は酒を飲み、小夜子の言葉を聞かない
死刑判決が出ても2人の生活は元には戻りません。
中原は昼間から酒を飲み、仕事にも行かなくなります。小夜子が仏壇について話しかけても、まともに向き合おうとしません。
裁判が終われば少しずつ日常を取り戻せるはずだったのに、むしろ2人の間には大きな空白が残っていました。
自分の首を絞める小夜子が示していたもの
特に印象的だったのが、小夜子が1人になった時、自分で自分の首を絞めるような仕草をする場面です。
愛美は首を絞められて殺されました。
その死に方を自分の体でなぞるような小夜子の姿からは、死刑判決が出てもなお、彼女の心が愛美の死から離れられていないことが伝わってきます。
それと同時に家族3人で幸せだった頃の、自分はもう死んだといっているようにも感じました。
犯人への刑罰が決まっても、遺族の中では事件が終わっていない。そのことを象徴する場面だったように思います。
お互いの顔を見るだけで幸せだった頃を思い出す
やがて小夜子は、中原の顔を見ること自体がつらいと打ち明けます。
中原も同じでした。
相手を見ると、愛美が生きていた頃の幸せな家族の姿を思い出してしまう。2人にとって、本来は支え合うはずの相手の存在さえ、失ったものを思い出させるものになってしまったのです。
だからこそ、2人は嫌いになって別れるのではありません。
一緒にいることが苦しいからこそ、離れることを選びました。
犯人が死刑になっても奪われた日常は戻らない
蛭川への死刑判決によって、司法上は1つの決着がつきました。
しかし、それで愛美が戻ってくるわけでも、中原と小夜子の生活が事件前に戻るわけでもありません。
第1話で描かれていたのは、犯人がどんな刑罰を受けるかという問題だけではなく、刑罰によっても取り戻せないものがあるという現実だったように思います。
死刑判決は2人が望んだ結末でした。
それでも、2人が本当に欲しかったのは蛭川の死ではなく、愛美と過ごしていた何気ない日常だったのかもしれません。
中原と小夜子は離婚し別々の人生へ
小夜子は実家へ戻ることを決め、中原もそれを受け入れます。さらに中原は、1人でこの家に残るのもつらいとして、家を処分することを提案しました。
その後、2人は愛美の部屋を片付けながら娘との思い出を振り返り、それぞれ別の人生を歩むことになります。
「9年後」元妻が何者かに殺害される
元妻は鋭利な刃物で心臓を刺されていた
物語は「9年後」へ。
ペット葬儀の仕事を続けていた中原は、かつて愛美の事件を担当した刑事・佐山と再会します。
そこで佐山から、小夜子が何者かに殺害されたことを知らされました。
小夜子の遺体は自宅マンション近くの人通りが少ない路上で発見され、鋭利な刃物で一突きされていました。その傷は心臓まで達していたといいます。
中原は離婚後ほとんど連絡を取っていなかった
中原と小夜子は離婚後、一度も会っていませんでした。
離婚から1年ほどは小夜子から何度かメールが届いていたものの、その後は連絡も途絶えていたといいます。
中原は、お互いに愛美の事件を忘れたくて別れたのだと佐山に話しました。
その後、中原は小夜子の葬儀へ参列します。遺影を前に焼香をあげる中原は、長く会っていなかった元妻の死を改めて突きつけられることになります。
葬儀の直後、町村作造が警察へ出頭
そのころ警察署には、町村作造という男が現れていました。
町村は自ら警察へ出頭し、「女を殺した」と告白します。
小夜子を殺害した犯人なのか、それとも別の事情があるのか。
第1話は、町村の突然の出頭によって新たな事件が動き始めるところで幕を閉じました。
第1話で残された謎
元妻を殺害したのは本当に町村なのか
第1話の最後、町村作造は警察署へ出頭し、「女を殺した」と自ら告白しました。
ただし、この時点では小夜子殺害について具体的な供述内容までは明らかになっていません。
本当に町村が小夜子を殺害したのか、それとも出頭には別の理由があるのか。事件の真相は第2話以降へ持ち越されました。
町村はなぜ自ら出頭したのか
仮に町村が小夜子を殺害した本人だとしても、なぜ自ら警察へ出頭したのかは分かっていません。
逃げるのではなく、自分から罪を告白したことには何か理由があるのでしょうか。
町村が何者なのかも含め、第1話ではほとんど情報が示されていません。
元妻は離婚後に何をしていたのか
中原と小夜子は離婚後、一度も会っておらず、連絡も長く途絶えていました。
そのため、中原は小夜子がその後どのような生活を送っていたのかをほとんど知りません。
なぜ小夜子が殺害されたのかを知るためには、離婚後の彼女の足跡をたどることが重要になりそうです。
蛭川の供述変更に意味はあるのか
愛美殺害事件では、蛭川が取り調べと裁判で殺害場所について異なる供述をしています。
さらに裁判では、平井弁護士の提示した説明に蛭川が乗るように見える場面もありました。
単に刑を軽くするための弁護戦略だったのか、それとも事件そのものにまだ明かされていない事情があるのか。
現時点では判断できませんが、第1話で残った違和感の1つとして覚えておきたいところです。
まとめ|死刑になっても事件は終わらなかった
第1話では、娘・愛美を殺害した蛭川に死刑判決が下されるまでと、その後の中原夫妻の姿が描かれました。
一審では無期懲役だったものの、控訴審では愛美がトイレに入れられた後も生きていた可能性が示され、最終的に蛭川には死刑判決が言い渡されます。
しかし、中原と小夜子が望んでいた判決が出ても、2人の生活が元に戻ることはありませんでした。
裁判が終わったあと、愛美がいない現実だけが残り、2人は一緒にいることさえ苦しくなって離婚します。
そして「9年後」、今度は小夜子が何者かに殺害されました。
犯人を罰することと、遺族が救われることは同じではない。第1話は、その重い現実を突きつけるような始まりでした。
「女を殺した」と出頭してきた町村は、本当に小夜子殺害の犯人なのか。そして中原が知らなかった、離婚後の小夜子の人生とはどのようなものだったのか。
第2話では、小夜子の死をきっかけに、止まっていた過去が再び動き始めそうです。
なお、第1話のエンドロール後には、
「東野圭吾先生のご逝去に際し、謹んで哀悼の意を表します。本作のドラマ化を制作者一同心より感謝いたします」
という追悼テロップが表示されました。その言葉も含めて静かな余韻を残す第1話となりました。
