2025年1月17日からテレビ東京で始まった【法廷のドラゴン】1話のネタバレと感想をまとめています。
奨励会で将棋のプロ棋士を目指していた天童竜美だが、なれずに弁護士資格を取得する。彼女は法廷を将棋盤にたとえ、詰め将棋をするように裁判を進めていく。今回は盗まれた品を取り返して欲しいという依頼人の頼みだが、既に示談がされていて……。
【法廷のドラゴン】1話のあらすじ
歩田法律事務所にやってきた天童竜美(上白石萌音)は、採用試験をして欲しいと自ら願い、今回の依頼を歩田虎太郎(高杉真宙)と一緒に担当する。
今回の依頼は香坂絹子(松坂慶子)の家に、押し売りならぬ押し買いをしに来た人物が、持っていってしまった小物入れを取り返して欲しいという依頼だった。
後に押し買いをした男・桐丘祐也(水石亜飛夢)は逮捕されるが、絹子の家から持って行った小物入れは見つかってなかった。
さらに絹子の息子・宏紀(山中崇)が勝手に相手側と示談をしてしまっていた。勝つのは難しいという歩田だが、竜美は絹子を何とか助けてあげれないか考え始め……。
2話→
【法廷のドラゴン】1話のネタバレ要約
小物入れを隠し持っていて、オークションサイトで売りさばこうとしていることに気付いた竜美は、小物入れについて調べると実は高価なものでないことがわかった。
裁判で小物入れについて桐丘に直接尋問するが、あの手この手でのらりくらりと逃げようとする。しかし、竜美は追い詰めて、小物入れが実はオルゴールだったことを桐丘の口から言わせる。
誰もオルゴールとは今まで言っていないのにそういったのは、一度はあの小物入れを手にした証拠だと追い詰められた瞬間、相手側の弁護士が和解を申し出た。
オルゴールの中には息子の妻が妊娠した際に、両親へ宛てた感謝の手紙が入っていた。それを改めて読んだ息子は、妻との離婚を考え直し、家族共に暮らすことを選択した。
【法廷のドラゴン】1話の詳細なネタバレ
新人弁護士
裁判所の静寂を切り裂くように、天童竜美(上白石萌音)は静かに動き出した。彼女は隣の弁護士が置いた資料を興味深そうに見つめ、手元にメモを取り始めた。その動きは不自然ではあったが、奇妙なほど滑らかで、誰も注意を払わなかった。竜美はそれらを小さな封筒にまとめ、「封じ手」と書いて歩田虎太郎(高杉真宙)に渡した。
その後、虎太郎は事務所に戻り、依頼人に慰謝料がゼロだった理由を、説明しなければならない事態に追い込まれた。誠意を込めて謝罪したが、依頼人の怒りは収まらず、声を荒らげて事務所を後にした。
沈んだ空気の中、竜美が渡した封筒のことを思い出した虎太郎は、それを開けて中を確認した。そこには、今日の裁判の判決が正確に予想された形で記されていた。乾利江(小林聡美)は驚愕し、「あらかじめ判決を予想していたの?」と疑問を投げかけた。
数日後、竜美は「歩田法律事務所」の募集広告を見つけ、直接事務所を訪れた。彼女は「試験をしてもらえないか」と自ら申し出る。その真剣な眼差しと不思議な存在感に、虎太郎と利江は圧倒された。事務所の歴史を背負い、若くして所長となった虎太郎にとって、この突飛な女性の存在は未知の可能性を感じさせるものだった。
その日の夜、竜美は自宅に戻り、静かに明日の準備を始めた。書類を整えながらふと目に留まったのは、一枚の古びた写真。そこには、若き日の竜美と駒木兎羽(白石麻衣)が写っていた。駒木の眼差しを見つめる竜美の表情には、どこか決意と後悔が入り混じった色が宿っていた。彼女は写真を握りしめ、小さく息を吐いた。
その夜、誰にも見えない将棋盤の駒が、静かに動き始めたかのようだった。
新たな依頼
翌朝、天童竜美は早速事務所内の環境を整えるべく動き出した。物置部屋となっていた和室を見渡し、手際よく片付けを始める。その手は、まるで将棋盤の駒を並べるように無駄がなく、あっという間に彼女専用の部屋が完成した。襖の向こうから乾利江が顔を出し、新たな依頼が舞い込んできたことを伝えると、竜美は興味深げに話を聞いた。
やってきた依頼人は、半年前に不用品買取業者に被害を受けたという初老の女性・香坂絹子(松坂慶子)だった。その業者は勝手に家に上がり込み、無理やり持ち出していった物の中に、亡くなった夫が贈ってくれた思い出の品である小物入れが含まれていたという。犯人の桐丘祐也(水石亜飛夢)は既に窃盗容疑で逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けていたものの、盗まれた小物入れは見つからないままだった。
「なんとか小物入れを取り戻してほしいんです」と必死に訴える絹子。前回の裁判資料も手渡され、竜美はすぐに目を通し始めた。その集中した眼差しの奥には、何かを計算するかのような鋭い光が宿っていた。
資料を読み終えた竜美は、冷静に状況を整理した。被害品が現存しない場合、物品返還を法的に要求するのは困難だ。通常ならば金銭での賠償を求めるのが最善策となる。しかし、問題は依頼人が息子の宏紀(山中崇)によって知らない間に示談を成立させられていたことだった。「勝つのは難しい」と虎太郎は正直に告げたが、依頼人の必死の訴えに、心を動かされるものがあった。
さらに調査を進めると、桐丘が単なる実行犯であることが判明する。その裏には、リサイクルショップの店長である丸橋和登(續木淳平)が存在しており、彼も執行猶予付きの有罪判決を受けていた。刑事裁判での代理人は、大手法律事務所であるセブンスランク法律事務所が担当していた。「桐丘の父親が大手精密機器メーカーの取締役だから、コネで引き受けたんじゃないか?」と利江が推測する一方で、竜美は何も言わず考えに没頭していた。
「過去の判例を見ても、示談の後で物品請求をするケースはほとんどないわ」と利江は心配そうに声をかける。「勝ち目が薄いんじゃない?」
虎太郎も迷いを抱えつつも、「それでも、なんとか力になってあげたい」と決意を固めた。その時、竜美が唐突に口を開いた。
「裁判は駒の損得より速度です」その言葉に含まれる確信に、虎太郎と利江は驚いた。竜美はすぐさま資料を手に取り、計画を練り始める。その姿は、盤面を見据えながら次の一手を考える棋士そのものだった。彼女の目には、すでに見えない勝利への道筋が浮かんでいるようだった。
箱はどこへ?
夜、自宅に戻った竜美を迎えたのは、思いがけず父の辰夫(田辺誠一)だった。虎太郎も辰夫の存在に驚き、「お父さんが裁判官だったなんて…」と呟きながらも、どこか居心地の悪そうな様子だった。
竜美が今回の物品返還請求事件について、以前父が担当した同様の裁判例を調べるために戻ったと知り、辰夫は無言で資料を差し出した。その間、リビングの空気は張り詰め、辰夫と虎太郎の会話はぎこちなかった。二人の間に漂う微妙な緊張感をよそに、竜美は冷静に資料を確認した。
やがて竜美は「似たケースで、示談を無効にした裁判例があった」と口を開いた。その事例では、被告が示談当時に盗まれた物品を隠し持っていたことが証明されたため、返還請求が認められたという。虎太郎はその話に興味を持ち、「もしその証拠が掴めれば、今回も勝てるかもしれない」と希望を見出した。辰夫の厳しい視線を背に、歩田は気まずそうに早々とその場を後にした。
翌日、事務所で一人考え込む竜美。その背中を見ながら、利江は竜美の過去を調べていた結果を虎太郎に話した。「彼女、将棋連盟の奨励会で三段まで昇段してたみたいよ。女性初のプロ棋士になるって期待されてたらしいけど、なぜ弁護士に?」と利江が首をかしげる。そんな時、竜美が突然現れ、桐丘のスマホの履歴を見せてきた。
その中には海外のオークションサイトが含まれており、そこに依頼人が言っていた小物入れに酷似した品が出品されていた。竜美が指し示すその品は、なんと時価500万円で取引されているという。「もし桐丘がこれを見て、高値で売れると気付いたとしたら?」と竜美が問いかける。利江も「主犯の丸橋には渡さず、こっそり一人で懐に入れようとしてたのかも」と推測した。
虎太郎は真剣な表情で頷き、「この小物入れだけ返還されなかった理由になるかもしれない」とつぶやく。全員がこの一筋の可能性に光を見出し、新たな手を進める準備を始めた。勝負は始まったばかりだが、竜美の読みはすでに何手も先を見据えていた。
裁判デビュー
裁判初日。緊張感が漂う法廷に足を踏み入れた天童竜美は、初めての舞台にも関わらず、その眼差しは冷静だった。傍聴席の隅には彼女の父、天童辰夫の姿があった。裁判官としての立場を外れ、娘の法廷デビューを見守るためにこっそりと訪れたのだ。
開廷前、歩田虎太郎は竜美に民事裁判の初回について説明をした。「民事の場合、第1回期日は訴状と答弁書の陳述、それに次回期日の指定といった事務的な作業が続くだけだよ」と彼が告げると、竜美は微笑んで答えた。「言うならば、対局序盤の駒組みですね」
法廷内で被告側の席を見ると、5人の弁護士が並んでいた。その圧倒的な数に驚く虎太郎をよそに、竜美は冷静にその様子を見つめ、「玉を金2枚、銀、桂馬、香車の5枚の駒で囲っていますね」とぽつりと呟いた。そして目を細め、「この陣形は…この裁判、どんな定跡を指すか見えました」と意味深に語った。
事務所に戻ると、竜美は将棋盤を取り出し、穴熊囲いについて説明を始めた。「穴熊は、王様を盤の端に移動させて、香車、桂馬、銀、金2枚で守る最強の守備力を持つ戦術です。今回の裁判、まさにこれと同じですよ」
虎太郎が「それがどう裁判と関係するの?」と尋ねると、竜美は続けた。「被告の父親は大手精密機器メーカーの取締役。代理人は有名ローファームの弁護士。つまり、穴熊囲いのように完璧に守りを固めた布陣なんです。こちらも守りを固めて、相穴熊に持ち込むのが最善手です」
守備偏重の作戦に見えたが、竜美は駒がぶつかり始めると激しい攻め合いが始まることが多いと説明した。「攻める駒とは、つまり証人。いかに強力な証人を盤上に投入できるかが、勝敗を分けるカギになります」
「でも、なぜ将棋で語るの?」と不思議そうに尋ねる虎太郎に、竜美はきっぱりと言った。「この裁判に勝つためです。そのためにも、あの小物入れが高価なものだったと証言してくれる証人を見つけなければなりません」
そして竜美は早速、香坂の家を訪れる準備を整えた。その表情には、ただ将棋の勝負と同じく、先を読み切る自信と覚悟が宿っていた。
証人探し
竜美は香坂の家を訪れ、小物入れについての手がかりを求めた。「あの小物入れを買った店を教えていただけませんか?」と尋ねると、香坂は少し困った顔をして答えた。「あれはね、息子が生まれた時に主人がお祝いに買ってきてくれたものだから、どこで買ったかは分からないのよ。でも、大切にしていたのは確かよ」しかし、それを証言してくれる人について尋ねると、香坂は首を傾げた。「誰かいたかしらね…」
行き詰まりを感じた竜美は、香坂の息子である宏紀に直接話をしに行くことを決意した。宏紀は8年前まで実家で暮らしていたという情報を頼りに、彼に会いに向かった。「小物入れがどれだけ大事にされていたか、証言していただけませんか?」と頼み込むと、横から彼の妻・聡子(宮菜穂子)が遮った。「無理ですよ。その人、会社がすべてなんですから」
その言葉をきっかけに、夫妻の間で口論が始まった。「あっちの話も相談してみたら?」と妻が皮肉を込めて言うと、宏紀は困惑しながらも竜美に「分かりました。出廷します」と約束をしてくれた。
事務所に戻った竜美と虎太郎たち。証人として宏紀を得たものの、依頼人の小物入れを桐丘が隠し持っているという決定的な証拠が見つからないことに、虎太郎と利江は頭を抱えた。そんな中、竜美は再び将棋盤を前に、状況を整理し始めた。
「この盤面で言えば、王は絹子さん。そして飛車は宏紀さん」竜美は駒を置きながら説明を続けた。「穴熊が互いに完成した後、相手が積極的に動いてくるなら、3五歩から戦いの火蓋が切って落とされるでしょう」
「つまり、相手側がどんな手を打ってくるかで、こちらの攻め方も変わるということ?」と虎太郎が尋ねると、竜美は頷いた。「その通りです。ただ、先に仕掛けるには相手の一手を見極める必要があります」
竜美の予想する3五歩の戦いの始まりとは、つまり裁判の中で相手の動きを引き出す一手。その鍵となるのが宏紀の証言だった。全ての駒が揃い始めた今、勝負の行方は盤上だけではなく、法廷という新たな戦場へと移ろうとしていた。
まさかの悪手
裁判の日。宏紀が証人として出廷し、虎太郎が小物入れについて問いかけた。「お母様が大切にしていた小物入れについて、何か覚えていらっしゃいますか?」その質問に対し、宏紀は表情を曇らせながら答えた。「正直、特に大切にしていたようには思えませんでした」
その瞬間、竜美の表情が固まり、彼女の中で警鐘が鳴り響いた。「これは罠だ…」彼女は小声で呟いた。さらに宏紀は「母は最近、少しボケてきているんです。盗られたと勘違いしているのかもしれません」と話し始めた。その言葉が法廷に冷たい空気を漂わせた。
竜美は心の中で苦々しく感じた。「穴熊を崩すどころか、大駒である飛車を失ってしまった…完全な悪手だった」法廷での失策を痛感しながらも、表情には出さず裁判を見守った。
事務所に戻った竜美たちは反省会を始めた。竜美は自分の読みの甘さを認めた。「宏紀さんが伏共商事の営業三課で精密機器を担当していること、そして彼の家に被告の父親の会社のパンフレットがあったことに気付いていながら、それを軽視してしまいました」
利江は「今日の証言も、宏紀さんが本気でそう思っていたのなら偽証にはならないわ」と冷静に分析する。その意見に虎太郎も頷きながら、「訴えの取り下げも考えたほうがいいかもしれない」と提案した。
しかし、竜美は目を閉じ、将棋盤を思い浮かべながら言った。「現在の局面を評価値で言えば、こちらが30%、先方が70%。まだまだ逆転の目はあります」
「将棋と裁判は違うんだ!」虎太郎は声を荒らげた。「人は駒じゃないし、こんなことを続ければ親子の関係は泥仕合になるだけだ!」
それでも竜美は毅然とした態度で答えた。「それでも私は…勝ち目が残っているのに、投了なんてことはできません」そう言い放つと、自分の部屋にこもり、盤面を見つめるように次の一手を考え始めた。
虎太郎と利江は、その背中を見つめながら、それぞれ複雑な思いを抱えていた。勝負を諦めない竜美の強さと危うさを、二人は痛感していたのだった。
竜美の過去
夜、虎太郎は天童竜美の実家を訪ねた。竜美が事務所で自分の部屋に閉じこもってしまったことを報告すると、彼女の父、辰夫は静かに頷きながら言った。「あの子は、勝負事となると誰よりも負けず嫌いなんだ」その言葉に、虎太郎は改めて疑問を抱いた。「なぜ、そこまで勝ちにこだわるんでしょうか?」
辰夫は苦い笑みを浮かべて答えた。「無理もない。あの子は、勝つことしか求められない世界で生きてきたからね」歩田が「それは…奨励会のことですか?」と尋ねると、辰夫は静かに頷いた。
「奨励会に入るだけでも難しいのに、そこから6級からスタートして、勝てば勝つだけ上に行ける。でも、負けが重なると居場所がなくなり、最後には何もかも失うんだ。下手な法律よりもよほど厳しいルールだよ」虎太郎はその話に言葉を失った。勝ち負けが全てを決める世界。その厳しさが、竜美の性格を形作ったのだと理解し始めた。
「それで、なぜ弁護士になったんですか?」と虎太郎が聞くと、辰夫は少し遠い目をして答えた。「奨励会を辞めた時、竜美は完全に目標を失って、自分の部屋に引きこもってしまったんだ。その時、香澄が弁護士になることを勧めた」
辰夫が竜美の部屋の前で戸惑っていると、香澄(和久井映見)が六法全書とどらやきをお盆に乗せて現れた。「負けず嫌いで、勝つためには寝食も忘れて打ち込むあの子には、法廷という将棋盤がぴったりなのよ」と微笑む香澄。「きっちりと勝ち負けがつく世界で、竜美はまた進む道を見つけられると思ったの」
事務所に戻った虎太郎は、竜美の様子を伺いながら戸越しに話しかけた。「竜美先生のご両親に会って、奨励会の頃のことを少しだけ聞いてきました。僕は将棋のことは全然知らないし、正直、難しそうで苦手なんですけど、一つだけわかったことがあります。先生がいたのは、一局の勝ち負けで人生が大きく変わる、そんな世界だったんだなって」
しばらく静寂が続いたが、虎太郎はさらに言葉を続けた。「あの頃の竜美先生は、自分のためだけに勝つことに疲れちゃったんじゃないかって、お母さんがおっしゃってました。だから、誰かのために戦える弁護士という道を勧めたって」
「だからあの子は今、自分からまいりましたなんて、絶対に言えないの」香澄は虎太郎にそう告げていた。「先生が絹子さんのために戦っているのなら、僕ももう少し探してみます。絹子さんがこれ以上傷つかずに、笑顔を取り戻せるような…その、一手を」
その言葉に応えるように、ゆっくりと部屋の戸が開いた。竜美は静かに立っていた。「訴えは取り下げない」その言葉を受け、虎太郎は真剣な眼差しで頷いた。「わかりました。一緒に戦いましょう」二人の間には、法廷という盤上で次の勝負を迎える覚悟が共有されていた。
勝ち筋
翌日、天童竜美と歩田虎太郎は、丸橋が経営するリサイクルショップを訪ねた。竜美が小物入れについて尋ねると、丸橋は「知らない」と即答した。その態度に違和感を覚えた虎太郎が「桐丘が自分のものにしたという可能性は?」と問いかけると、丸橋の表情が一変した。「まさか、里麻のやつが何か吹き込んだのか?」と口走り、焦りの色がにじんだ。
この発言を手がかりに、竜美と虎太郎は桐丘の恋人・里麻(柿澤ゆりあ)に話を聞きに向かった。彼女に小物入れの箱を見せると、里麻は目を逸らしながら「知るわけないでしょ!」と声を荒らげた。その妙に過剰な反応に、二人は疑念を深めた。
竜美は冷静に推理を進めた。「桐丘は小物入れを里麻さんに預けて、オークションサイトで売ろうとしていたのではないでしょうか。自分で出品すると足がつくことを警戒していた可能性があります」その分析に歩田も頷いた。
その後、事務所で利江がネット通販を調べ、小物入れと同じデザインの品を見つけた。しかし、それは5800円で売られており、高価なものではなかった。その事実に一同は驚き、竜美は「もう一度絹子さんに会いに行きましょう」と提案した。
絹子の家を訪れると留守だったが、孫の陽葵(吉田萌果)がやってきて「おばあちゃんは多分買い物中だと思う」と教えてくれた。陽葵の案内で近くの公園に向かうと、彼女は両親のことについて祖母に相談していた話を始めた。
「お父さんが仕事で遠くに行くことになって、お母さんは私の受験のために都内に残るって言ったの。それで喧嘩が耐えなくなって、別居だの離婚だのって…」陽葵は不安そうな顔で言葉を続けた。「私、2人と離れたくないっておばあちゃんに言ったら、『なんとかしてあげる。2人が仲直りできる魔法の箱があるの』って言ってくれたの」
この話を聞いた竜美は、ふと考え込んだ。「あの小物入れには、値段以上の別の価値があったのかもしれません」その表情は、何か新たな糸口を見つけたかのように輝いていた。
その夜、事務所に戻った竜美は次回の本人尋問について虎太郎に頼んだ。「私に、この一局の指し手を任せてもらえませんか?」その眼差しには揺るぎない決意が宿っていた。
一人になった竜美は部屋で将棋盤を見つめながら、盤面とにらみ合った。駒を一つ一つ慎重に動かし、何度も配置を確認する。そして静かに呟いた。「この一局…勝ち筋が見えました」彼女の声には、次の一手への確信が込められていた。
裁判の結果
裁判当日、天童竜美は法廷に対局に挑む棋士の如く袴姿で現れた。その凛とした佇まいに法廷内がざわめく中、彼女の眼差しは鋭く、覚悟に満ちていた。
被告人尋問が始まり、竜美が最初に問うた。「あなたは、問題の小物入れを持っていますか?」被告は平然と「ありません」と答えた。竜美はその答えを受け流しながら考えた――たとえ玉が逃げても、追い詰めれば必ず正気が見えると。
反対尋問が進む中、竜美は眼鏡を外し、一瞬静かに考え込んだ。その姿はまるで将棋盤を見つめ、次の一手を練る棋士のようだった。そして、彼女は矢継ぎ早に質問を投げかけた。
「窃取した物品をすべて丸橋さんに渡しましたか?」
「もちろんです」
「一つも隠匿していないと断言できますか?」
「当たり前です」
竜美は一拍置いてから、オークションサイトの画像を見せた。「これは、問題の小物入れに酷似したものが500万円で出品されている画像です。この品を見たことはありませんか?」被告は動揺を隠しつつ、「ありません」と答えた。
竜美はさらに攻め込んだ。「出品者は、あなたの恋人である里麻さんです。それでも見たことがないと断言しますか?」
「だから、見たことありません!」
「では、逮捕直前に海外のオークションサイトを、頻繁に見ていた記録が公判で残っていることについては?」と詰め寄ると、被告は「そんなの覚えていません」と言葉を濁した。
竜美は勝負手を放った。「500万円で売られている品を見て、それを丸橋さんに渡すのが惜しくなり、里麻さんに出品を頼んだのではありませんか?」
「そんなことするわけないでしょう!」
だが、その瞬間、傍聴席にいた丸橋が感情を抑えきれず声を荒らげた。すると焦った桐丘は思わず「あんなガラクタ、ボロいし音も鳴らないし!」と叫んだ。
竜美は冷静に言った。「やはり、あなたは気づいていましたね」そして小樽のショップのカタログを提示し、「問題の小物入れは、19世紀の美術品を模したオルゴールだった」と説明した。
竜美の視線が鋭さを増した。「今まで誰も小物入れを“オルゴール”とは呼びませんでした。それなのに『ボロいし音も鳴らない』と発言したのは、あなたが一度そのオルゴールを手にした証拠です」その瞬間、傍聴席から母の声が聞こえた。「詰んだわ」
その後、被告側の弁護士が和解の申し出を行い、「速やかにオルゴールを回収し、原告に返還することを条件に和解したい」と提案した。
虎太郎は依頼人と協議の上で返答することを告げ、裁判は一時休廷となった。法廷という盤上での竜美の一局は、見事な攻め手で形勢を逆転し、勝利を目前にしていた。
ドラマの結末
裁判が終わり、戻ってきたオルゴールを依頼人の絹子に手渡す場面は、竜美にとって特別な瞬間だった。「一局を通して難しい将棋でしたが、なんとか勝てました」と竜美は笑顔で言った。絹子は涙ぐみながら、オルゴールを両手で抱きしめた。
一方、宏紀は複雑な表情でつぶやいた。「裁判には勝てたけど、取引先のメンツが潰れちゃったよ…」すると孫の陽葵が、「おばあちゃんはボケてないよ。パパがママの悪口を言うのを、ボケたふりして聞き流してただけだよ」と教えてくれた。
絹子は静かに微笑みながら語った。「聡子さんの悪口を聞いたら、息子側につくことになっちゃうからね。それはできないと思って、知らないふりをしてたのよ」宏紀は呆れたように「なんでこんなもののために裁判なんかしたんだよ」と声を荒らげたが、竜美が「中を開けてみてください」と促した。
オルゴールの底を開けると、中には一通の手紙が入っていた。音が鳴らなかったのは、この手紙が原因だった。手紙は宏紀が両親に宛てた感謝の手紙だった。聡子が陽葵を授かった時、宏紀が初めて柄にもなく書いたものだったという。
手紙には、彼を育ててくれた両親への感謝の気持ちと、自分も両親のように聡子や陽葵と幸せな家庭を築きたいという決意が綴られていた。それを父親が大切に保管し、オルゴールにしまっていたのだ。
「この手紙を取り戻すために、私は裁判をしたのよ」と語る絹子。宏紀は驚きながら手紙を握りしめ、「悪かった、おふくろ…」と謝った。絹子は優しく微笑み、「家族を置き去りにしたら、元も子もないでしょう?」と諭した。
オルゴールのネジを巻くと、音楽が静かに流れ出す。その場にいた全員がその音色に耳を傾け、宏紀は妻の聡子を連れてきて、「聡子、大事な話がある」と切り出した。そして、3人で仲良く帰っていく後ろ姿を、竜美と虎太郎は静かに見送った。
絹子は竜美の手を握り、「お二人にお願いして本当によかった。本当にありがとう」と感謝を伝えた。その言葉に竜美は驚きながらも、静かに微笑んで頷いた。
事務所に戻ると、竜美は早速、今回の裁判を振り返った。「感想戦は大事です。上達には欠かせませんから」と語り、宏紀を証人に呼んだのは悪手だったと反省した。
盤面を整理しながら竜美は気づいた。「9筋に香車が4つ並んでいます。香坂さんたち家族4人が仲良く揃った姿ですね」その言葉に虎太郎と利江も微笑んだ。
竜美は深々と頭を下げ、「今回の裁判を通じて学びました。弁護士の仕事は、将棋と違ってただ勝つだけではなく、勝つことで依頼人を笑顔にできるのだと。ありがとうございました」その謙虚な言葉に、歩田は感動し、正式に竜美を事務所の一員として採用することを決めた。「これからもよろしくお願いします」と竜美が笑顔で言うと、利江も温かく迎えた。
その時、電話が鳴り、吉田からの連絡が入った。「損害賠償請求の被告側の代理人にならないか」との話だった。請求額はなんと1億円だという。
それを聞いた虎太郎は驚愕したが、竜美の目はすでに次の一局を見据えていた。その眼差しには、また新たな戦いへの闘志が燃えていた。
2話→
【法廷のドラゴン】1話のまとめと感想
親子の絆を取り戻すため、小物入れをなんとか取り戻したかった依頼人の願いを、相穴熊で破ったという話でした。
将棋を知らないと見ていてつまらないのではないか?そんな心配は無用のドラマです。大事な部分に関しては分かりやすく教えてくれますので、安心して見ることができます。
上白石萌音さんが女流棋士役という、誰が考えたのか絶妙なキャスティングです。まさに女流棋士役がよく似合う女優さんの一人だと思います。それだけで面白そうなのに、脇を固めるキャストやゲストも絶妙でした。
なんでも将棋になぞらえてうざったいという人は見れないとは思いますが、普通にリーガルドラマが好きな人は楽しめると思います。
今後どんな戦法が出てくるのか?将棋ファンも納得するような戦い方を、見せてくれることに期待です。
2話→