『さよならノワール』第9話では、少女誘拐事件が発生し、被疑者が20年前にも同じような事件を起こしていたことが判明します。
20年前の誘拐事件の被害者――それは、鴨居の妹だった。
この記事では、鴨居の家族に20年前何が起きたのか、なぜ鴨居が警察官になったのかを整理しながら、20年経ってようやく始まった被害者支援について考えていきます。
第9話3行まとめ
- 少女誘拐事件の被疑者・熊沢学は、20年前にも鴨居の妹・晶子を誘拐していた
- 鴨居は妹の事件をきっかけに警察官となり、長年にわたって熊沢の情報を集め続けていた
- 熊沢と対峙した鴨居を、夏海と絵梨子が20年越しの被害者として支援した
第9話あらすじ
新宿中央署の管轄で、9歳の少女が誘拐される事件が発生。少女は自力で逃げ出して保護されるが、被疑者の熊沢学は逃走中だった。
熊沢は20年前にも8歳の少女・立花晶子を誘拐。晶子は逃げようとして、ベランダから転落して死亡してしまった。そして、その晶子が鴨居の実の妹だった。
鴨居は新宿中央署の捜査に加わろうとするが認められず、その後も独自に熊沢の行方を追い続ける。鴨居が被害者遺族だったことを知った夏海たちは、20年前に十分な支援を受けられなかった鴨居を、今から犯罪被害者として支援することに。
やがて鴨居は先回りし、ついに本人と対峙する。熊沢は20年前の事件について身勝手な言葉を吐き、ナイフで鴨居に襲いかかるが、駆けつけた捜査員によって逮捕された。
その後、絵梨子は鴨居から20年間抱えてきた思いを聞く。妹を迎えに行くのが遅れた自分を責め続けていた鴨居に、絵梨子は「鴨居さんは悪くない」と伝える。その言葉を受け、鴨居は20年間抱えてきた思いを初めて涙とともに吐き出した。
鴨居の妹・立花晶子に何があったのか
熊沢は20年前にも8歳の晶子を誘拐していた
今回、9歳の上川陽菜を誘拐した熊沢学は、20年前にも同じような事件を起こしていました。
当時18歳だった熊沢が連れ去ったのは、8歳の少女・立花晶子。鴨居卓海の実の妹です。
熊沢の自宅へ連れ去られた晶子は、翌日、逃げようとしてベランダから飛び降りて死亡しました。
犯人の実名は伏せられ、被害者家族は報道にさらされた
事件当時18歳だった熊沢は、実名を報道されませんでした。
一方、被害者である晶子の家族は「悲劇の遺族」として連日のように報道され、プライバシーまで暴かれていきます。
加害者側の情報が守られる一方で、被害者家族の生活は世間にさらされてしまいました。
その影響もあってか、鴨居の両親は相次いで病気になり亡くなりました。
中学生だった鴨居は親類の養子となり、名字も「立花」から現在の「鴨居」へ変わります。
20年前の事件は、晶子の命だけでなく、鴨居の家族のその後まで大きく変えることになりました。
鴨居はなぜ警察官になったのか
「警察官になれば調べられる」と考えた
事件当時、熊沢は18歳だったため実名は明かされず、鴨居たち被害者家族にも名前は知らされませんでした。
熊沢に復讐したいと思っていた鴨居は、「警察官になれば犯人について調べられる」と考えるようになります。
実際、警察官採用試験では鴨居が犯罪被害者遺族であることも慎重に検討されました。
それでも、被害者家族だからこそ事件解決への思いが強いとして採用され、鴨居は警察官として歩み始めます。
つまり鴨居が警察官になった原点には、晶子の事件と熊沢への強い思いがありました。
熊沢の情報を長年集め続けていた
鴨居の机からは、「MK資料」と書かれたUSBメモリが見つかりました。
中には熊沢について調べた情報が残されており、少なくとも10年ほど前から記録していたことが分かります。
熊沢の祖父が住んでいた汐浦の住所も、この資料の中に残されていました。
表向きは普段どおり刑事として働きながら、鴨居は長い間、晶子を奪った熊沢を追い続けていたのです。
五十畑はなぜ被害者支援へ転じたのか
20年前は熊沢の環境を考慮すべきだと考えた
20年前の事件当時、五十畑は熊沢と面談していました。
熊沢はヤングケアラーで、家庭環境にも問題を抱えていたことから、五十畑はその事情を考慮すべきだと考えます。
そして熊沢について、処分を考えるうえで家庭環境にも目を向ける必要があるという意見書を提出しました。
その意見だけが理由ではありませんでしたが、結果として熊沢は逆送されず、保護処分となります。
少年院を出た熊沢から届いた手紙に謝罪はなかった
4年後、少年院を出た熊沢から五十畑のもとへ一枚のハガキが届きました。
そこには、祖父の家でのんびり釣りを楽しんでいることや、五十畑への感謝が書かれていました。
しかし、晶子や遺族への謝罪の言葉は一言もありませんでした。
鴨居の両親が亡くなったことを知った
さらに五十畑は、その頃に鴨居の両親が相次いで亡くなったことも知りました。
事件によって傷ついたのは晶子だけではなく、残された家族も長く苦しみ続けていたのです。
五十畑は、自分が加害者の背景を理解しようとする一方で、被害者や遺族がその後どのように生きていくのかまで見ていなかったことを痛感します。
「被害者に目を向けていなかった」と後悔した
五十畑は、この経験をきっかけに被害者支援へと軸足を移しました。
第6話で鴨居が、以前は加害者の人権について活動していた五十畑に「手のひらを返したみたいですね」と言っていた理由も、今回ようやく明らかになります。
五十畑にとって熊沢の事件は、自分の考え方を大きく変えた原点だったのでしょう。
そして20年後、熊沢が再び誘拐事件を起こしたことで、五十畑は「責任の一端は自分にもある」と感じ、今度は鴨居を支える側に立とうとしました。
鴨居は熊沢に復讐しようとしていたのか
祖父の家で熊沢を待っていた鴨居
鴨居は新宿中央署の捜査への参加を断られたあと、単独で熊沢を追い、祖父が住んでいた汐浦へ向かいました。
祖父はすでに亡くなっていましたが、熊沢にとって唯一かわいがってくれた存在であり、その家は安心できる場所だったと考えたためです。
そして鴨居の読みどおり、熊沢は祖父の家へ戻ってきました。
熊沢自身の口から20年前の真相を聞こうとした
熊沢と対峙した鴨居は、すぐに手を出したわけではありません。
20年前の事件について、本当に「妹が欲しかっただけ」だったのか、晶子の服を切ったのは熊沢なのかと問いかけます。
鴨居が求めていたのは、まず熊沢自身の口から真相を聞くことでした。
しかし熊沢は、それまで語っていた「妹が欲しかった」という話は弁護士に言われた嘘だったと明かし、晶子についても「逃げ出して勝手に死んだ」と言い放ちます。
熊沢に襲われても手を出さなかった
熊沢はナイフを取り出し、鴨居に襲いかかりました。
それでも鴨居は熊沢に手を出さず、駆けつけた新宿中央署の捜査員によって熊沢は取り押さえられます。
鴨居はかつて復讐を考えていたことを絵梨子にも認めています。
ただ、実際に熊沢を目の前にしても一線を越えなかったことを考えると、少なくともこの時の鴨居は、復讐だけを目的に熊沢を追っていたわけではなかったのでしょう。
「残念ながら」という言葉に残った感情
熊沢が逮捕されたあと、捜査員から「手を出していないか」と確認された鴨居は、「残念ながら」と答えました。
冗談めかした一言ではありますが、20年間抱えてきた怒りや憎しみが完全になくなったわけではないことも伝わってきます。
鴨居は熊沢を許したわけでも、過去をきれいに乗り越えたわけでもありません。
それでも実際には復讐を選ばなかった。
その事実こそが、20年前から止まっていた鴨居の時間が少し動き始めた瞬間だったのかもしれません。
コラム|「忘れること」は裏切りなのか
「自分が悪い」と思うことで悲しみを抱え続けていた
鴨居は、晶子を迎えに行くのが遅れたことを20年間、自分の責任だと思い続けていました。
もちろん、晶子を誘拐したのは熊沢です。鴨居が部活動で遅くなったことと、熊沢が事件を起こしたことは本来まったく別の問題です。
それでも鴨居は、「自分が時間どおりに迎えに行っていれば」という考えから抜け出すことができませんでした。
どうにもできなかった出来事だからこそ、自分に原因を求めることで、その悲しみを抱え続けていたのかもしれません。
晶子を思い出さない時間が増えた自分を許せなかった
刑事として働くようになった鴨居は、日々の事件に追われるうち、少しずつ晶子のことを思い出さない時間が増えていきました。
それ自体は不自然なことではありません。
絵梨子も「人は悲しみを忘れる能力がある」と伝えています。
しかし鴨居にとって、晶子を思い出さないことは、自分だけが先へ進んでしまうことのように感じられたのでしょう。
妹を忘れることと、妹を裏切ることが、鴨居の中ではどこかで結びついていたように見えます。
熊沢の再犯まで自分の責任だと思ってしまった
さらに熊沢が20年後に再び少女を誘拐したことで、鴨居の罪悪感は別の形にまで広がります。
鴨居は、「熊沢がまた事件を起こしたのは俺のせいだ」とまで考えていました。
自分が熊沢を追い続け、何かできていれば今回の事件も防げたのではないか。
しかしそれも、熊沢が起こした犯罪の責任を鴨居自身が背負おうとしているにすぎません。
鴨居は、晶子を救えなかった責任だけでなく、20年後の被害者まで救えなかった責任を自分に課そうとしていました。
絵梨子は「鴨居さんは悪くない」と伝えた
そんな鴨居に、絵梨子は何度も「鴨居さんは悪くない」と伝えました。
さらに、妹を守れなかったと自分を責める鴨居へ、「鴨居さんは、いいお兄ちゃんです」と告げます。
それは20年間、鴨居自身が認めることのできなかった答えでした。
晶子を迎えに行くのが遅れたことも、熊沢が再び事件を起こしたことも、鴨居の責任ではありません。
絵梨子は過去を変えようとしたのではなく、鴨居が20年間背負い続けてきた責任を、本人のものではないと返そうとしたのでしょう。
悲しみを忘れることは、大切な人を忘れることではない
大切な人を失ったあと、いつまでも同じ強さで悲しみ続けることはできません。
日常を送り、別のことを考え、笑う時間が増えていく。それは大切だった人の存在を軽くすることではないはずです。
鴨居が晶子を思い出さない時間が増えたのも、妹への思いが薄れたからではありません。
20年間忘れられなかったことよりも、晶子のことを大切に思いながら、自分の人生も生きていくこと。
それを認められるようになることが、鴨居にとって本当の意味で前へ進むことなのかもしれません。
第9話で残された謎
鴨居と五十畑は今後どのように向き合うのか
第8話で2人が顔を合わせた際、意味ありげに見つめ合っていた理由も今回明らかになりました。
ただし、鴨居が五十畑と熊沢の20年前の関係をどこまで知っているのかは、まだ分かりません。
五十畑は当時の自分を悔やみ、熊沢の再犯にも責任を感じています。20年前の事件をめぐって異なる立場にいた2人が、今後どのように向き合うのか気になるところです。
夏海は山崎を捜すのか
鴨居への支援を終えたあと、夏海は「あいつはいい刑事になる、きっと。私教えられたな」と語りました。
そして続けて、「私も決着つける。もう忘れたふりはしない」と決意します。
夏海が指しているのは、失踪した山崎のことだと考えてよさそうです。
第5話では、高坂から横浜のカジノで山崎に似た男を見たという情報も得ていました。
それでも夏海はこれまで、「生きているなら自分の意思でいなくなった」と山崎を捜そうとはしていませんでした。
鴨居が20年間避けられなかった過去と向き合ったことで、夏海もまた、自分が目をそらしてきた山崎の失踪と向き合う決意をしたのでしょう。
果たして夏海は山崎を捜し始めるのか。そして山崎は本当に生きているのか、物語の大きな謎が再び動き始めそうです。
まとめ|20年経っても、支援を始めるのに遅すぎることはない
第9話では、鴨居が20年前の誘拐事件で妹・晶子を亡くした被害者遺族だったことが明らかになりました。
当時の鴨居は十分な支援を受けられないまま、自分を責め続けてきました。
しかし夏海たちは、20年前の事件だからといって「今さら支援しても遅い」とは考えませんでした。
過去を変えることも、悲しみそのものを消すこともできません。それでも、今も残っている傷に寄り添うことはできます。
第9話は、事件からどれだけ時間が経っていても、支援を始めるのに遅すぎることはないと描いた回だったのではないでしょうか。
そして鴨居が過去と向き合ったことで、夏海もまた「もう忘れたふりはしない」と決意しました。
次に20年前ではなく、1年前から止まっている時間と向き合うのは、夏海なのかもしれません。
