『Tシャツが乾くまで』第8話では、充との話し合いのあと、咲子が突然家を出てしまいます。
咲子の行方を探す充は、直人や千鶴、樹生、宮内らに話を聞くうち、自分が知っている咲子と、周囲が知っている咲子の姿が少しずつ違うことに気づいていきます。
この記事では、咲子が家を出たあとの出来事や、充が知らなかった咲子の人物像、樹生が充へぶつけた思いを整理しながら、「人を知る」とはどういうことなのかについても考えていきます。
第8話3行まとめ
- 充との話し合いのあと、咲子は突然家を出て海辺の町へ向かう
- 樹生は充に「あんたが死ねばよかった」と、あずさを失った本音をぶつける
- 充は周囲から話を聞くうち、自分の知らなかった咲子のさまざまな顔に気づいていく
第8話あらすじ
充との話し合いのあと、咲子はスマートフォンだけを持って突然家を出てしまう。
咲子の行方を探す充は、樹生や直人、千鶴、宮内らに話を聞いて回る。その中で樹生から「あんたが死ねばよかった」と、あずさを失った悲しみと憎しみを真正面からぶつけられた。
さらに充は、周囲が語る咲子の人物像が、自分の知っている咲子とは少しずつ違うことに気づく。
しかも樹生たちは、それぞれ咲子から「無事だから安心してほしい。ただし充には黙っていてほしい」と連絡を受けていた。
一方の咲子は海辺の町までたどり着き、そこで子どもたちと一緒にいる謎の男性のもとを訪れていた。
咲子は家を出て海辺の町へ向かった
充との話し合いのあと、咲子は突然家を出てしまいます。
財布やカバンは自宅に置いたままで、持っていったのはスマートフォンだけでした。
充はコインランドリーや喫茶「ひこうき」、樹生のもとなど心当たりを探して回りますが、咲子の居場所は分かりません。
その中で充が気になり始めたのは、自分が知っている咲子と、周囲が語る咲子の姿が少しずつ違うことでした。
そこで充は、自分の知らない咲子についてもっと知ろうと、周囲の人たちを「ひこうき」に集めることにします。
一方の咲子は、海辺の町まで移動していました。
なぜ家を出たのか、なぜその町へ向かったのかは、この時点ではまだ明らかになっていません。
樹生は充に「あんたが死ねばよかった」と本音をぶつける
あずさが自分から長野についていったことを樹生は察する
咲子を探すため樹生の家を訪れた充は、あずさの仏前で手を合わせます。
その前に樹生は、事故の日のことについて充へ確認しました。
充はこれまで、あずさを長野へ誘ったのは自分だと話していました。
しかし樹生は、あずさの性格を知っているからこそ、本当はあずさのほうから「ついていく」と言ったのではないかと察します。
さらに、充があえて自分のせいにし、樹生から恨まれようとしていたことにも気づきました。
樹生は、最初から本当のことを聞かされても信じなかっただろうと認めます。
それでも、充が勝手に樹生の気持ちを想像し、怒りの矛先まで用意することは違います。
充には、相手を思いやっているようで、その感情まで自分の中で決めてしまうところがありました。
「どっちか1人でよかったなら、お前が死ねよ」
充があずさの仏前で手を合わせていると、樹生はついに抑えていた本音を口にします。
「お前が死ねばよかったのにって思ってますよ。何であずさが……」
そしてさらに、
「どっちか1人でよかったのなら、お前が死ねよって一生思い続けますよ」
と充へぶつけました。
樹生にとっては、充がどんな事情を抱えていたのか、なぜ失踪したのかは関係ありません。
自分が愛していたあずさは死に、充は生きて帰ってきた。
そのどうしようもない現実への悲しみや憎しみを、初めて本人へ直接ぶつけたのでしょう。
充は初めて自分が残した傷の大きさと向き合う
これまでの充は、自分がいなくなることで咲子がどう感じるか、樹生が何を思うかを、自分なりに想像して行動していました。
しかし、それはあくまで充の中で作った「相手の気持ち」です。
樹生から真正面に憎しみをぶつけられたことで、充は初めて、自分の行動が他人の人生に残した傷の大きさを実感したように見えました。
充は涙を流しながら、「すみませんでした」と改めて謝ります。
相手を思いやることと、相手の気持ちを勝手に決めることは同じではありません。
樹生の言葉は、充にとって自分の事情では処理できない、他人の痛みそのものだったのだと思います。
充が知らなかった咲子の顔とは
充は咲子の行方を探すうち、周囲の人たちがそれぞれ違う咲子像を持っていることに気づきます。
そこで直人、千鶴、樹生、宮内を「ひこうき」に集め、自分の知らない咲子について話を聞くことにしました。
母親にとっては「穏やかで優しく思慮深い娘」
充が咲子の母親へ電話すると、母親は咲子について「この世で一番穏やかで、優しくて、思慮深い女の子」だと語ります。
しかし充が知っている咲子は、それだけではありません。
咲子は親との関係に強いわだかまりを抱え、親が亡くなっても心から悲しめないだろうと話していました。
母親が知っている娘の姿と、充が知っている咲子の姿には、大きな隔たりがあります。
直人にとっては「明るくて充がいないと生きていけない人」
直人にとって咲子は、明るく前向きな人物でした。
さらに、以前充が盲腸で入院した際に咲子がひどく落ち込んでいたことから、「瀬尾さんがいないと生きていけない」とまで考えています。
しかし樹生は、それを否定します。
この1年、充がいない状態でも咲子は仕事を続け、1人でできることを増やしながら生活してきたからです。
千鶴にとっては「飽き性で新しいもの好き」
長く咲子を知る千鶴が語ったのは、充の知る咲子とはまた違う姿でした。
充と出会う前の咲子は、飽き性で新しいものが好き。何かあっても切り替えが早く、後を引かない人物だったといいます。
充にとっては意外な話でした。
長く一緒に暮らしていても、充と出会う前の咲子については、まだ知らないことがたくさんあったのでしょう。
樹生にとっては「1人でも生きていける人」
直人が「咲子は充がいないと生きていけない」と話す一方、樹生から見た咲子は正反対でした。
充がいなかった1年間をそばで見てきた樹生には、咲子は1人でも生きていける人に見えています。
もちろん、実際には咲子も樹生に支えられていました。
それでも樹生が見ていたのは、充とは違う環境の中で生きていた、この1年の咲子です。
どの咲子も「本当の咲子」だった
母親、直人、千鶴、樹生。
それぞれが語る咲子は、まるで別人のようです。
しかし、誰か1人だけが間違っているわけではないのでしょう。
親の前で見せる顔、友人に見せる顔、夫に見せる顔、充がいなかった1年間に樹生へ見せた顔。
人は相手や場所によって違う顔を見せますが、そのどれかだけが偽物というわけではありません。
充は咲子を長く知っているつもりでした。
しかし今回、自分が知っている咲子もまた、彼女の一面にすぎないことに気づき始めたのでしょう。
コラム|人を知る楽しさは「予想外」が増えていくことなのかもしれない
「どうせ理解されないから言わない」が秘密を増やす
第8話では、「どうせ言っても理解されないから言わない」という考え方が何度も登場しました。
樹生の同僚・佐竹は、妻に黙って元カノと会っています。正直に話しても信じてもらえず、揉めるだけだからというのが理由でした。
これは充とあずさにも通じます。
2人も毎月第3金曜日に会っていることを伴侶へ話していませんでした。何もやましいことはしていないと思っていても、説明したところで理解してもらえないと考えていたからです。
その場の衝突を避けるだけなら、黙っていたほうが楽です。
しかし後から知られれば、今度は「なぜ黙っていたのか」という新たな不信まで生まれます。
短期的には省エネでも、長い目で見れば、かえって大きなエネルギーを使うことになるのかもしれません。
人は相手を「こういう人」と決めたほうが楽
母親、直人、千鶴、樹生が語る咲子像は、それぞれ違いました。
人は相手を「優しい人」「明るい人」「1人でも生きていける人」と整理したほうが接しやすくなります。
毎回「この人はいったい何を考えているのだろう」と一から考えていたら疲れてしまうからです。
しかし実際の人間は、そんなに単純ではありません。
相手や場所、その時の状況によって違う面が出てくるのは、むしろ自然なことでしょう。
知らない一面があっても、それまでの相手が嘘になるわけではない
知らなかった一面を見たとき、「そんな人だと思わなかった」と感じることがあります。
しかし、新しい一面が見えたからといって、それまで知っていた相手が全部嘘だったわけではありません。
充の知る咲子も、千鶴の知る咲子も、樹生の知る咲子も、どれも咲子です。
相手を知ることは、1つの正解にたどり着くことではないのかもしれません。
むしろ「そんなところもあるんだ」と予想外が増えていくことこそ、人を知っていく面白さなのではないでしょうか。
秘密は「自分だけが特別」という感覚を生む
実は宮内、千鶴、直人、樹生には、それぞれ咲子から連絡が来ていました。
咲子は無事であることを伝えたうえで、「充には黙っていてほしい」と頼んでいます。
それでも全員が黙っていたのは、頼まれたからだけではありません。
宮内は、自分だけに秘密を共有してくれたと思い、少し優越感があったことを認めています。
秘密を共有すると、「この人は自分にだけ特別な顔を見せてくれた」と感じやすくなります。
充とあずさの第3金曜日にも、どこか似たところがあったのかもしれません。
秘密は2人の距離を縮める一方で、その関係を外から閉ざすものにもなります。
分かり合えなくても、一緒にいたいと思えるか
価値観や好みまで、すべて相手と一致させる必要はありません。
咲子がかぼちゃを好きでも充は苦手。咲子が花火を苦手でも、充が見たいなら別の人と楽しめばいい。
そんな違いまで、無理に合わせる必要はないでしょう。
ただし、異性と2人で会うことや借金など、相手の人生や信頼にも影響することは話が違います。
全部を理解し合う必要はなくても、相手を巻き込むことについては隠さない。そのくらいの誠実さは必要なのでしょう。
1人でいれば、もっと自由に生きられます。
それでも誰かと一緒にいたいと思うなら、その人といるために多少の不自由も引き受けることになります。
理解できない部分があっても、「この人といるのは面白い」と思える。
人を知る楽しさは、予想どおりであることではなく、予想外が増えていくことなのかもしれません。
第8話で残された謎
咲子が訪ねた海辺の男性とは何者なのか
海辺の町までやってきた咲子は、そこで子どもたちと一緒にいる男性と再会します。
男性は咲子の名前を呼び、子どもたちも自然に咲子へ懐いているように見えました。
咲子と以前から親しい関係であることは間違いなさそうですが、どのような人物なのか、第8話では明らかになっていません。
咲子はなぜそこへ向かったのか
咲子は財布やカバンを置いたまま家を出たにもかかわらず、海辺の町までたどり着いていました。
偶然立ち寄ったというより、最初からこの男性を訪ねるつもりだった可能性が高そうです。
充との話し合いをきっかけに、なぜ咲子はこの場所へ向かったのでしょうか。
これまで充も知らなかった咲子の一面と、海辺の男性との関係が、今後の鍵になりそうです。
まとめ|誰も「本当の咲子」を1人では知っていなかった
第8話では、咲子が突然家を出たことをきっかけに、充は周囲の人たちから咲子について話を聞いていきました。
しかし、母親、直人、千鶴、樹生が語る咲子の姿はそれぞれ違います。
それは誰かが咲子を見誤っていたというより、咲子が相手によって違う一面を見せていたということなのでしょう。
そして、それは咲子に限った話ではありません。
人は誰でも、相手や場所によって見せる顔が変わります。
1つの人物像だけで相手を理解したつもりになるのではなく、「まだ知らない一面がある」と思っていたほうが、案外うまく付き合えるのかもしれません。
一方で、「どうせ理解されないから」と秘密を作れば、後から大きな不信につながることもあります。
すべてを分かり合う必要はなくても、相手の人生に関わることは隠さない。
そのくらいの誠実さと、「知らないあなたもいる」と受け入れる余白の両方が、誰かと一緒に生きるには必要なのかもしれません。
そして咲子自身もまた、充の知らない場所へ向かいました。
海辺で再会した男性は何者なのか。
第8話の最後に現れた新たな咲子の一面が、次回どのようにつながっていくのか気になります。
