【海に眠るダイヤモンド】最終話のネタバレと感想をまとめています。
島から出る小船に乗るのは幼子を抱えたリナと鉄平だった。彼らはなぜ島から逃げるように出て行ったのか?やがて訪れる端島閉山の時、それぞれの人生が分かれていく……。
【海に眠るダイヤモンド】最終回のあらすじ
朝子(杉咲花)にプロポーズをしようと決めた鉄平(神木隆之介)は、その晩、朝子と待ち合わせをすることにした。とうとうその時が来たと待ちわびた朝子は、喜んで鉄平のことを待った。
しかし鉄平は来なかったと、いづみ(宮本信子)は言う。その日を最後に彼の姿を見ることはなかったと。玲央(神木隆之介)は納得がいかず、賢将(清水尋也)の息子である孝明(滝藤賢一)のところに行って話しを聞く。
すると鉄平の日記は10冊ではなく、11冊あったという。残り1冊は誰がどこへやってしまったのか?実は意外な人物が隠していて……。
【海に眠るダイヤモンド】最終回のネタバレ要約
澤田が自分がリナと進平の子供である誠だと明かし、隠していた11冊目の日記を渡してその時のことを話す。いづみは澤田を責めずに許した。
朝子にプロポーズをする晩、誠がさらわれ、鉄平は取り返しに向かう。
進平に殺された鉄の兄が誠を殺そうとすると、鉄平は自分が鉄を殺したと言って敵になる。その隙に誠を奪還し、用意していた船でリナと一緒に島を出て行った。
その結果、鉄平は長年敵討ちで追われ続ける流浪の身となってしまい、朝子とは結婚できず天涯孤独の身で生涯を終えた。
【海に眠るダイヤモンド】最終回の詳細なネタバレ
駆け落ち
鉄平(神木隆之介)を探し出すことで母のいづみ(宮本信子)が納得して引退できると考える和馬(尾美としのり)。しかし、鹿乃子(美保純)は断固として鉄平を敵視していた。「鉄平は池ヶ谷家の敵。父がどれだけそいつに苦しめられたか」と語る鹿乃子の言葉は、重く響いた。
ある日、鉄平と虎次郎(前原瑞樹)の間で朝子(杉咲花)の話題が上がった。「信じていいんですか?」と尋ねる虎次郎に、鉄平は迷いなく「はい」と答えた。その誠実さが、彼の言葉に力を与えた。
父の一平(國村隼)が亡くなって四十九日が過ぎ、墓のことも考え始めた鉄平。リナ(池田エライザ)、母のハル(中嶋朋子)、そして誠(小林昌樹)の四人で静かな生活を送る中、ある日、机の上に封筒が置かれていた。その中身を見た鉄平は言葉を失った。
封筒には鉄平の写真が入っていたが、その顔にはたばこで押し付けた跡が残されていた。写真に刻まれた憎しみに心を揺さぶられた鉄平は、このことを賢将(清水尋也)に相談した。賢将は「やっかみじゃないか」と慰めたが、その言葉だけでは解決できない不安が残った。
鉄平の思考は過去へと向かう。誠の出生届が出せなかった問題をどう解決したのか。兄の進平(斎藤工)の妻、栄子(佐藤めぐみ)の死亡届が未提出であることを利用し、リナを栄子ということにして誠の出生届を出した。
その方法に、自分の行いは正しかったのかと疑念を抱き、和尚(さだまさし)のもとを訪れる。「俺は弱くなったのかな。間違っていることをそれはおかしいって昔は言えてた。それがだんだん、言えないことが増えていって。兄貴は正しくないことをした。ただきっとその時に一番だと思えることをした。そんな兄貴を俺が簡単に間違っていると言っていのか?」そう語る鉄平に、和尚は静かに答えた。「人はそれぞれ全宇宙の中でたった一人の自分として生まれます。あなたはあなたの道を行けばよか」
その翌朝、鉄平は決心を固め、朝子の食堂を訪れた。「今日の夜、話があるんだけどさ」と誘いをかけた。しかし、その夜、鉄平は現れなかった。やがて、島中が大騒ぎになる。鉄平がリナと駆け落ちしたという噂が、瞬く間に広がっていった。
澤田の正体
いづみは静かな声で語り始めた。「私の中には、まだあの夜の私がいるの。鉄平が来るのを待っている私が。未練がましいわね」彼女の言葉は、過去への想いと現実の間で揺れる心情を映し出していた。
ライト(西垣匠)が玲央(神木隆之介)に近況を話し出した。「ホストクラブ、起訴されたらしいよ。そのまま閉店するっぽい」その情報に借金はどうなるのか玲央は考える。地道に返すのも悪くないと思っていた。
いづみは墓参りの支度を進めていた。彼女は澤田(酒向芳)とともに墓を訪れ、静かに祈りを捧げた。
鹿乃子は幼い頃、父に母との馴れ初めを尋ねたことがあった。「お母さんには他に大好きな人がいたんだよ」と父が答えたのを覚えている。その人が他の女性と駆け落ちしたことも知っていた。「そんな男を今でも思う母さんっておかしいよね」と鹿乃子は呟くように言った。
一方で、和馬は子どもたちが鉄平の手がかりを探しに、とある家を訪れていることを話していた。その家は古賀孝明(滝藤賢一)という人物のものだった。
玲央はその家で、孝明に家族や兄弟が元気かどうかを尋ねた。元気だと聞き、玲央はほっとしたように微笑んだ。星也(豆原一成)と千景(片岡凜)は孝明に、朝子の孫だと自己紹介をしていた。孝明は鉄平の日記について語り始めた。「日記は父の遺品にありました。朝子さんに渡すようメモが残されていたんです。ただ、それをすぐ渡すべきかどうか、迷いもありました」
孝明の話によれば、メモにはこう書かれていた。「渡したほうが朝子のためか、そうじゃないのか、わからなかった」孝明は続けた。「父は時間の流れにかけたんだと思います。日記が朝子さんの手に渡るのも渡らないのも、それもまた神の思し召しだと」
玲央たちはその話を鹿乃子たちに報告したが、玲央の中には納得できない思いが残っていた。「鉄平が本当に駆け落ちしたのか?それがどうも腑に落ちないんだ」
玲央はさらにいづみに続きの話をした。「孝明さんによれば、鉄平の日記は10冊じゃなくて、実は11冊あったらしいんだ」その瞬間、澤田が突然車を発進させ、逃げようとした。玲央たちが追及すると、澤田は観念して語り始めた。「11冊目は、会社の金庫に隠してあります」
「なぜ隠したの?」と問い詰めるいづみに、澤田は静かに答えた。「読ませたくなかったんです」
その言葉を受けて、澤田は自身の秘密を明かした。「実は私は、端島で生まれました。澤田は妻の旧姓で、旧姓は荒木、父は進平です」澤田は荒木誠だったのだ。
その告白に場が凍りついた。澤田はさらに続けた。「あの日のことを自分は小さすぎて覚えていません。でも後に母から聞きました」その言葉には、長い年月を超えて秘められてきた真実が詰まっていた。
あの夜のこと
リナが家に戻ると、誠の姿が見当たらなかった。代わりに机の上には一通の封筒が置かれていた。封を切ると、中には「誰が殺した?」という言葉が、小鉄の写真の裏に書かれていた。リナの顔から血の気が引いた。
「向かいの空き家から、ずっとこっちを監視してたんだろうな」鉄平が険しい表情で写真を見つめながら言った。リナは動揺しながら、誠がさらわれたことを彼に知らせに行った。
母に事情を説明すると、怒りに震えた声で「何がどうなってるの!」と問い詰められた。しかし鉄平は毅然とした口調で言った。「兄貴が決めたことなんだ。俺が何とかする」
島のどこかに隠された誠を探すため、鉄平は頭を巡らせた。「船が三つ、隠されてる。誠はまだこの島にいるはずだ」一方で、リナは「私が出ていけば返してもらえる!」と叫んだが、鉄平は即座に制した。「それじゃ解決にならない」
鉄平は窓の外に、「子供を返せば門野鉄のことを話す」と書いた紙を掲げ、「北東の角で待つ」と付け加えた。島の暗闇の中でそのメッセージが何者かに届いたのか、鉄平は一人その場へ向かった。
しばらくして、鋼市(三浦誠己)という男が行李を持って現れた。「持ってきた」その声には冷たい威圧感があった。男は門野鉄の兄だと名乗り、いきなり問い詰めた。「鉄をどこにやったとや?」
「死んだ」鉄平は低い声で答えた。その瞬間、鋼市の目が鋭く光った。「誰がやったんか!」と迫る鋼市。鉄平が答えに詰まると、男は行李にアイスピックを突き刺した。その刹那、赤子の泣き声が響き渡った。
鉄平は覚悟を決め、「俺が殺した」と静かに言った。鋼市は怒りに燃えながら鉄平に詰め寄った。その瞬間、鉄平は砂を投げつけ、相手の視界を遮ると同時に、誠を奪い取って走り出した。
背後から響く鋼市の怒声を振り切り、小舟に飛び乗った鉄平は叫んだ。「死体は俺が始末した。悔しかったら俺を殺してみろ!」そのまま小舟を漕ぎ出し、リナと一緒に暗い海へと消えていった。
朝子はその夜、鉄平との約束を信じて待ち続けた。だが、朝が来ても鉄平は現れなかった。彼女の胸には、言葉にならない思いがただ静かに広がっていた。
鉄平との決別
鉄平が島を出たという話は、瞬く間に賢将と百合子(土屋太鳳)の耳にも届いた。リナとともにいなくなった理由については、二人にも見当がつかなかった。ただ、静かに重く広がる喪失感だけが心を締め付けた。
食堂ではその話題で持ちきりだった。「連れて行った子供は、鉄平の子供だったんじゃないか?」と囁く声もあった。そのたびに、百合子の怒りは燃え上がった。「鉄平もリナも許さない!」と声を震わせていた。
一方で、朝子はそんな百合子の怒りよりも、ハルが島で受ける視線を気にしていた。「きっと私より、ハルさんのほうがつらいはずだわ」と思い、心を痛めていた。
ある日、百合子は首にかけていたペンダントを外し、朝子に手渡した。「これはお守りよ。きっとあなたの力になってくれるわ」その言葉には、百合子なりの慰めと祈りが込められていた。
その頃、虎次郎はさりげなく朝子に近づき始めていた。食堂でのやりとりや出前の際の言葉に、ささやかな好意が滲んでいたが、朝子の心はどこか遠くにあった。
出前の器を取りに行った帰り、朝子は引っ越しの支度をしているハルと偶然出くわした。無言で見つめ合った後、朝子はハルの家に上がり込んだ。
「どこに行くんですか?」と尋ねると、ハルは力なく答えた。「まだ決めてないの。どこにいるかわからないし、鉄平からも連絡はない」その言葉を聞き、朝子は胸の奥で小さな痛みを覚えた。
「あの日、鉄平と約束していたんです」そう告げる朝子に、ハルは目を伏せて「ごめんね」とだけ言った。その謝罪の一言に、朝子は堪えきれず涙を流した。ただ泣くしかできなかった。
帰り道、朝子は鉄平とのこれまでの日々を思い返していた。二人で過ごした時間、交わした言葉、そして叶わなかった約束。思い出に浸りながら、一人静かに涙を流した。
食堂に戻ると、カウンターの隅に置かれていたガラス瓶が目に入った。それは、鉄平との思い出を象徴するような存在だった。しばらく眺めた後、朝子は意を決したようにその瓶を手に取って捨てた。鉄平への未練を断ち切ろうとするかのように、深い息をついた。
一生の罪
朝子は虎次郎とともに長崎へ遊びに行くようになり、やがて二人は結婚した。その後、二人の間には鹿乃子と和馬が生まれ、家庭を築いていった。
現代では、和馬がキッチンに立ち、ちゃんぽんを作っていた。用意された皿の中には、澤田の分もあった。ふと、和馬は話し始めた。
「父がね、母には本当は好きな人がいたって言ってた。でも、それを自分が幸せじゃないとは言えないだろうってさ。きっと、それでも自分は幸せに暮らしてるって自慢したかったんだろうな」
澤田は静かに聞いていた。そして、自分がいづみを知っていて秘書になった理由を話し始めた。彼は50歳を過ぎて職を失い、子供たちが成人したことで、残りの人生を人のために使いたいと思ったという。いづみの秘書の求人を見つけたとき、妻も賛成してくれた。しかし、鉄平の日記が出てきたとき、彼は慌てた。過去の罪が明らかになることが怖かったのだ。
澤田は深々と土下座しながら朝子に謝罪した。「本当に申し訳ありませんでした」と言葉を絞り出す澤田に、いづみは手を差し伸べた。
「あなたに罪なんてない。進平兄ちゃんとリナさんと誠、あなたたちがいたから、この家族に会えたのよ」そう語るいづみの手は、温かく澤田の手を包み込んでいた。「あなたが生きてて、また会えてよかった」
澤田の目に涙が浮かぶ中、いづみは微笑んだ。
その一方で、鉄平の過去の行動も明らかになった。誠がさらわれ、傷を負った事件の後、鉄平はすぐに長崎の病院で誠の処置を頼んだ。その足で警察に向かい、狙われていることを訴えたが、鉄の死体が見つかっていない以上、事件にはならないと取り合ってもらえなかった。
「死体も存在しない男を、すでに死んだ男が殺して自分が狙われているなんて、誰も信じないよな…」鉄平のその後の消息は澤田にもわからないままだった。
澤田は残していた11冊目の日記を玲央に手渡した。そして玲央はそれをいづみに渡した。いづみは緊張した様子で、「読めるかしら」とつぶやいたが、玲央は「昔のことだから、ゆっくり読めば大丈夫」と優しく答えた。
日記を抱えたまま、玲央は提案した。「行ってみよう、今度こそ端島へ。あの夜の朝子さんを迎えに行こう」その言葉にいづみは静かに頷き、新たな決意を胸に抱いた。
流浪の身
和馬がIKEGAYAの新たな社長に就任した。会社の売却は取りやめになり、鹿乃子たちは新規事業を立ち上げることになった。それは廃材を利用した木のバイオマス発電事業だった。会社の未来を支えるため、新たな一歩が踏み出された。
その一方で、いづみと玲央は長崎を訪れていた。二人は大浦天主堂に足を運び、静かに過去に思いを馳せた。
鉄平の日記の続きが明らかになる。そこには、鉄平と賢将が長崎の大浦天主堂でようやく再会した記録が綴られていた。
時を遡ると、ハルが長崎に戻り、リナと誠と三人で暮らしていた日々が描かれる。そんな彼らの元に鉄平が訪ねてきた。鉄平は自分が近くにいると危険だと考え、一緒に住むことを断った。そして、朝子にも自分の存在を知らせないで欲しいと頼んだ。朝子に危険が及ぶことを恐れてのことだった。
それ以降、鉄平は点々と各地を渡り歩く生活を送ることになった。彼は朝子を待たせ続ける自分を責め、手紙を書いては破り捨てる日々を繰り返した。弟を殺した俺が死ぬまで、幸せも安息も与えない、そういうことだろうと鉄平は思っていた。
現在、鉄平は肥料工場で働いていると賢将に話した。そして、端島の閉山について尋ねると、賢将は静かに「本当だ」と答えた。二人はそれ以上言葉を交わさず、ただ遠い過去と未来を思うように、共に長崎の風景を見つめていた。
端島が閉山
辰雄(沢村一樹)が百合子たちの家を訪れた。閉山の決定後、賢将がどれほど苦労しているのか心配してのことだった。辰雄の問いに、賢将は「いずれこうなるとみんなわかっていました。でも問題は鉱員たちの再就職先です」と答えた。
求人自体は多かったものの、その多くは35歳以下が対象だった。年配の鉱員たちは次の仕事を見つけるのが難しく、不安を抱えていた。一見条件が良さそうな求人も、国からの助成金目当てで鉱員を採用し、二年目から条件を悪化させるという噂が広がっていた。組合の人々は全国を駆け巡り、好条件で鉱員を受け入れてくれる会社を必死に探していた。
さらに、不安は仕事だけではなかった。端島では家賃が月10円、光熱費や水道代も込みという破格の生活費だったが、本土では家賃が月4000円にもなる場所もあった。給料も端島のほうが遥かに高く、鉱員たちは新しい生活に適応できるのか不安だった。
そんな中、鉄平は賢将と会い、自分が働いてよかった会社や見つけた求人の資料を渡した。「この資料を鉱員たちの役に立ててほしい」と頼む鉄平に、賢将は「朝子は今、すっかりお母さんだよ。悔いが残るのは、それだけじゃないだろう」と諭した。鉄平は朝子が幸せそうに写っている写真を見て安心しつつも、「俺は帰らないほうがいいんだよ」と、島に一度でもいいから戻るよう告げる賢将の説得を断った。
賢将は鉄平がくれた資料を鉱員たちに配った。「この就職先を見つけてくれたのは古賀さんですか?」と訊かれると、「違います。端島のことを一番に考えているやつがくれました」と答えた。
閉山の日、尾高(棚橋ナッツ)がみんなの前で語った。「今思えば、あの組合選挙で鷹羽炭連を選んだからこそ、イデオロギーではなく経済闘争に集中でき、閉山まで一丸となって十分な退職金を確保することができました。我々は端島の炭鉱員としてよく闘いました。胸を張って、今日という日に誇りを持ちましょう!」
その言葉に多くの人がうなずき、涙ぐんだ。やがて端島閉山のニュースは全国紙でも大きく報じられた。黒字操業で終えたにもかかわらず、「端島沈没」とセンセーショナルな見出しが踊った。
閉山後、それぞれの人生は新たな道を歩み始めた。鉄平も、賢将も、そして鉱員たちも、端島での日々を胸に抱えながら、それぞれの未来へと向かっていった。
テッケン団は永遠に
鉄平と賢将が再び顔を合わせた。静かな街角、遠くで踏切の音が響いている。
「いつまで続けるつもりだ?」と賢将が問いかけると、鉄平は少し考え込んだように笑い、「俺を追いかけているあいつが諦めるまで」と答えた。
賢将は鉄平がまさか相手を殺したりしないか、不安だった。察した鉄平は「殺そうとは思わないよ。終わんなくなる」と答えた。
賢将は静かに頷いたあと、ふと視線を落として言った。「端島の記録を残そうと思うんだ。お前のこともちゃんと書きたい。協力してくれないか?」
その言葉に鉄平はしばらく黙っていたが、やがてバッグから「いいものがある」といって日記を取り出し、賢将に手渡した。ただし、11冊目は渡さずにいた。
賢将は驚きながらも日記を受け取った。鉄平はさらに自分の手でページを破り取り、朝子のことが書かれている箇所を黒く塗りつぶした。「駆け落ちしたていなのに、これが残ってたらおかしいだろ?」と皮肉を込めて笑った。
「妙なところに気が回るな」と呆れたように言う賢将に、鉄平は「外勤だからな」と肩をすくめた。
話が途切れた瞬間、踏切の遮断器が降り、二人の間に遮るように線路が横たわった。賢将は線路越しに鉄平に話しかけ続ける。「住むとこが決まっても、端島には手紙が届かないだろ?東京の本社に送ってくれよ」
賢将の言葉を遮るように、鉄平は声を張り上げた。「賢将!百合子と子どもたち、大切にしろよ!元気でな!」
その言葉に、賢将の胸は締めつけられた。「泣くなよ、俺まで泣きたくなるだろ」と茶化す鉄平。しかし賢将は堪えきれず声を震わせた。「仕方ないだろ!俺たちテッケン団なんだから!」
鉄平は笑いながら振り返り、「いつの話してんだよ」と軽く手を振って歩き出す。その背中を見送りながら、賢将は叫んだ。「解散はしないからな!」
振り向かずに片手を挙げて応じた鉄平。その姿は次第に遠ざかり、夜の闇に溶けていった。
端島最後の日
朝子は静かに百合子のもとへ歩み寄り、長い間手にしていたペンダントを差し出した。「これ、返すね」その言葉に百合子は少し驚きながらも、受け取ったペンダントを見つめた。
「最後の日まで店を開けるつもりよ」朝子が告げると、百合子も微笑んで答えた。「私も最後の日までここにいるわ」
虎次郎は新たな道を歩むことを決め、東京のホテルに採用されることが決まった。一方で、朝子もまた未来への決意を口にする。「大検を取って、園芸の大学に入りたいの。端島の朝子じゃない、別の朝子になってみたいの」
和尚もまた、自身の選択を話した。「御本尊を一緒に長崎のお寺に移すよ」
「端島のこと、忘れちゃうのかな…」と呟く朝子に、和尚は穏やかな声で応じた。「『前後際断』っていう言葉があるとよ。過去には生きられないし、未来にも生きることはできない。だから今、この瞬間に最善を尽くすんだ」
「過去には意味がないってこと?」朝子が問い返すと、和尚は柔らかく首を振った。「意味のなかことは一つもありません。よかことも、悪かことも、全部ば抱えて、一生懸命生きていく。それが人間たい」
端島は、かつての賑わいが嘘のように閑散としていた。朝子は少し重たい荷物を手に、静かに街を歩いていた。通り過ぎる風景が次々と記憶を蘇らせる。笑い声、涙、そして消えていった人々の顔。
そして、朝子は最後の船に乗り込んだ。甲板に立つと、辰雄の姿が目に入る。「どうしても見たかったんだ」と言う辰雄の横顔には、どこか穏やかな表情があった。
百合子も船上で朝子に声をかけた。「長かったようで、あっという間だったわね」百合子のその言葉に、朝子は少し目を伏せて答えた。「お別れ、できた?」
朝子は静かに頷いた。「全部、置いてきた」その言葉には、決意と少しの寂しさが滲んでいた。船はゆっくりと動き出し、端島が少しずつ遠ざかっていった。
ギヤマン
いづみたちはフェリー乗り場に立ち、波の音を聞きながら静かに出航の時を待っていた。玲央は手にした11冊目の日記を眺め、ゆっくりとページをめくる。そこには切り取られた箇所が丁寧に挟み込まれており、鉄平の想いが未だに息づいているようだった。
その日記の中には、誠の熱のことで長崎の病院に行った際の出来事が書かれていた。混雑する病院の待合室で、リナが「少しどこかに行ってきたら?」と息抜きを勧める。鉄平は一度病院を後にし、ずっと気になっていたギヤマンを見に行った。しかし、それは非売品で、購入は断られてしまう。
その時、鉄平の脳裏にふと一人の顔が浮かんだ。端島で共に働いていた鉱員の一人が、今では長崎でガラス職人をしていることを思い出したのだ。鉄平はその職人を訪ね、いくばくかの授業料を渡してギヤマンの作り方を教わることにした。それからは病院に行く合間を縫ってガラス工房に通い、試行錯誤を繰り返した。そして日記にはこう綴られていた。
「今、私は世界でただ一つのダイヤモンドを作っている」
日記の別のページには、端島が閉山してからの生活が記されていた。閉山から一年が経ち、鉄平が働いている職場には時折「元端島の鉱員」という人々が訪れていた。しかし、その多くは鉄平が島を離れた後に来た人たちで、誰も鉄平に気づくことはなかった。
鉄平はその日記に静かにこう記していた。「住めば都と言うが、端島以上の場所を今も見つけることができない。私は未だに端島の夢を見る。夢の中で、私は外勤詰め所にいる。昼には銀座食堂でちゃんぽんを食べに行く。捨てられないものを後生大事に抱えたまま、往生際の悪い男でいる自分に気づく。端島は今、どんな姿をしているのだろう」
その一節を読み終えたいづみは、ふと遠くを見つめた。その視線の先には、静かに揺れる海が広がっていた。
島に眠るダイヤモンド
いづみたちはフェリーではなく船で端島を目指した。波間を進む船上で、いづみは風を受けながら懐かしい記憶に思いを馳せていた。玲央もまた静かに景色を見つめている。船が端島に近づくにつれ、かつての賑わいを想像し、その場所に辿り着ける喜びが胸の奥から湧き上がってきた。
やがて船が到着し、一行は島に上陸した。目の前に広がるのは緑が生い茂った景色。かつての端島とはまるで違う風景だった。いづみたちを案内してくれた船長(栄信)は、祖父が端島の炭鉱夫だったことを話し始めた。
「よく銀座食堂の話をしていたんです。だから朝子さんの名前に聞き覚えがありました」船長は特別な想いを込めて、いづみたちを特別に島内へ案内してくれることになった。
いづみは興奮を隠しきれず、足早に奥へ進む。目の前に広がる風景に触れるたびに、あのころの記憶が鮮明に蘇ってくる。危ないから気をつけてと言われても、いづみはそんなことをお構いなしに、ただ先へと進んだ。
そしてたどり着いたのは、かつての端島銀座。「あそこが外勤の詰め所よ」いづみは指を差しながらそう言った。
船長もまた思い出話を語る。「10年以上前、まだここが世界遺産になる前のことでした。その時、外勤の詰め所を目指してきた人を船に乗せたことがあります」玲央がすかさず尋ねた。「その人の名前、荒木鉄平ですか?」
船長は少し考え込んだ。「そんな感じだったかもしれません。でも、すごく複雑そうな表情をしていましたよ。国がここを世界遺産に含めるって騒いでた頃でね。その人は『ここは俺たちのふるさとで、住んでいた人たちの記憶が残っている場所だ』って言ってました」
玲央はさらに尋ねた。「その人は島に何をしに?」船長は懐かしそうに語った。「島に入れなくなる前に、上のほうの階に何かを置いていくって。確か、ダイヤモンドだと言ってたけど、宝石じゃなくて花瓶だと言ってましたよ」
その言葉を聞いた途端、いづみは胸の奥から抑えきれない感情が溢れ、走り出してしまった。しかし、危険だと玲央や船長たちにすぐに止められた。
「いづみさん、落ち着いて!」玲央が必死に呼びかける。「離して!」と叫ぶいづみの目には熱い涙が浮かんでいた。あの頃と同じ場所に立ちながら、鉄平の置いていった想いに触れたいという気持ちが強く込み上げていたのだ。
端島の思い出
玲央は船長から聞いた話を和馬に電話で報告した。和馬は電話の向こうで静かに耳を傾けていたが、途中でため息をつき、「母さんのこと、頼むな」と短く告げた。その声には、言葉以上の重みが感じられた。
電話を切ると、玲央はいづみの様子を見た。彼女は黙ってしょんぼりと座り込んでいる。いつもの快活な姿が影を潜めていた。「船長が乗船名簿から鉄平さんの住所を探してくれるって言ってる」と声をかけると、いづみは少しだけ顔を上げたが、まだどこか遠い目をしていた。
「いづみさんの端島の友達はもう誰もいないんだね」と玲央がつぶやくと、いづみは小さく頷いた。「弟の竹男さんも亡くなっていたって……」その言葉に、いづみは深く息をつき、目を伏せた。
玲央はその沈黙に耐えられず、そっと話題を変えた。「何色だったんだろうね、鉄平さんのダイヤモンドって」
いづみは少し驚いたように玲央を見つめ、口元にわずかな微笑みを浮かべた。
「代わりになるかわからないけど、いづみさんに見せたいものがあるんだ」玲央は鞄からタブレットを取り出し、テレビ画面に接続する。それは孝明の家にあった8ミリフィルムを、動画データにしたものだった。画面に映し出されたのは鉄平の姿だった。その瞬間、いづみの顔がぱっと明るくなった。
玲央は初めて見る鉄平の顔と、自分の顔を指差して似ているかをいづみにきく。いづみの記憶の中では玲央と鉄平はそっくりだったはずなのに、改めて見比べて見るといづみは似ていないと答えた。
玲央もじっと画面を見つめていた。「全てがむなしく見えるのは、きっと年を取りすぎたせい」といづみがぽつりとつぶやいた。「玲央はまだ若いけど、私が青春を過ごしていた頃と、そんなに変わらない歳のはずなのに……ただ、声をかけたかったのかもしれない。どうかした、元気ないね?って、外勤さんみたいに」
玲央はその言葉を聞きながら、画面の鉄平に手を伸ばした。「そっか、俺は鉄平に声をかけられたんだな……」感慨深げにそうつぶやいた。
その時、玲央のスマホが鳴った。画面には船長の名前が表示されている。玲央が電話に出ると、船長は明るい声で告げた。「鉄平さんの住所が見つかったよ」その一言が、玲央といづみの心に希望の光を灯した。
【海に眠るダイヤモンド】最終回の結末
鉄平のことを探し続けてきた玲央たちは、ついに市の職員の山口(麻生祐未)から話を聞く機会を得た。職員は鉄平が市のボランティアとして活動していたことを語り、「この建物も鉄平さんが寄贈してくれたものなんですよ。今は地域の寄合所になっています」と説明した。さらに、鉄平が1990年ごろにこの家を購入し、遺産を残す相手がいないため寄贈したこと、そして8年前に亡くなったことを話してくれた。
「葬式には賢将さんが来て、鉄平さんの遺品を引き取ったそうです」と職員は続けた。鉄平は老人や子供たちの話し相手をよくしており、その姿はまさに「外勤」の延長のようだった。「外勤をしてたのね」といづみは小さくつぶやいた。
窓を開けると、庭には色とりどりのコスモスが咲き乱れていた。その先に広がる海の先に端島が見える。鉄平はいつもここから端島を見ていた。いづみは胸に手を当て、「誰もいなくなってしまったけど、ここにあるわ。私の中に」と目を閉じた。
いづみの心の中には、端島で過ごした日々の風景が鮮明に蘇った。リナ、百合子、朝子が抱き合い、その場には進平もいた。そして、若い頃の朝子と向き合う自分の姿が浮かぶ。「私の人生、どがんでしたかね?」と尋ねる朝子に、いづみは「うん、朝子はね、きばって生きたわよ」と微笑みながら答えた。
二人は笑い合い、そこに鉄平がやってきた。「おまたせ」と声をかける鉄平。「待ちくたびれた」と朝子は立ち上がり、鉄平が差し出した花に目を輝かせた。「キラキラしてる」とつぶやく朝子に、鉄平は言った。「朝子、俺と結婚してください」と。そして朝子は涙を流しながら「はい」と笑顔で答えた。
場面は変わり、廃墟となった端島の一室。そこには青い花瓶がひっそりと飾られている。それは、鉄平が作ったギヤマンだった。
現代――いづみは玲央がいるカフェを訪れた。玲央は髪を黒く染め、落ち着いた様子で仕事の話をしていた。彼はツアーガイドの仕事を始めており、和馬が緊急連絡先になっていた。「最初は日本だけど、いつかは海外も案内するよ」と玲央が話すと、いづみはインスタを始めたことを告げた。星也は法律事務所のインターンをしているという。
「なんでツアーガイドになったの?」といづみが尋ねると、玲央は答えた。「知らない場所があって、そこを説明できるようになれば、俺がいる意味がある気がするんだ」いづみは微笑みながら言った。「いる意味なんて誰にでもあるし、誰にだってないのよ」
玲央はふと遠くを見るような目をして続けた。「知らない土地に行ったらさ、考えるんだよ。もしかしたらここにも鉄平が来てたのかもしれないって。そしたら誰も他人に思えなくなる。もしかしたら鉄平が声をかけた人かもしれないし、その子供かもしれないし、孫かもしれない」
いづみはその言葉に静かにうなずいた。「だーれもいなくなっても、玲央が覚えててくれるのね」と微笑む。
玲央は夢を見るように話した。「見たはずのない景色を夢に見る。広大な海原、海に浮かぶいくつもの島。何千万年もの昔に芽生えた生命が海の底で宝石へと変わる。見えなくてもそこにある。ダイヤモンドのように」
そして最後に、玲央はキャリーケースを引いて空港へと向かった。彼の中に、鉄平の記憶と端島の物語が鮮やかに息づいていた。
登場人物のその後
端島の人々
- 鉄平:リナと端島を出た後、所在を転々として暮らす。8年前に亡くなり、遺産を残す相手もいない天涯孤独の身で生涯を終えた
- 朝子:虎次郎と結婚し、鹿乃子と和馬を生む。ガーデニングや緑化事業をするIKEGAYAを興して会社を大きく成長させた
- 賢将:百合子と結婚後、端島の閉山まで島で過ごす。その後東京へ異動。鉄平の葬式に現れ、遺品を全て引き取った
- 百合子:賢将と結婚後、3人の子供を出産。20年近く前に病気で亡くなった。子供たちはみな病もなく元気に育ち現在も健在
- 進平:前妻栄子との籍を抜いてなかったため、リナとは事実婚状態に。その後、誠を授かる。坑内火災が発生した際、消火に向かい一酸化炭素中毒で亡くなる
- リナ:鉄平の助言で進平の前妻である栄子のふりをして誠の出生届を出す。鉄平と島を出た後、ハルと誠と3人で長崎で暮らす。その後、自身の店を持った
- 一平:端島の復活を知った後、肺を患い亡くなった
- ハル:リナと鉄平が島を出て行った後、自分も島を出て行き長崎に移住。そこでリナと誠と3人で過ごした
- 辰雄:端島の炭鉱長を退任後、東京へ異動。端島閉山の際には島へ行き、最後の日を見届けた
- 虎次郎:朝子と結婚し、端島閉山後は東京のホテルの料理人になった
- 竹男:島を出た後、朝子よりも先に亡くなっていた
- 和尚:閉山後、本尊と共に長崎の寺へ移った
現代
- 玲央:ホストクラブが潰れた後、ツアーガイドになった
- いづみ:社長退任後、インスタを始めたり悠々自適に暮らす
- 和馬:いづみから会社を引き継ぎ、社長に就任した
- 鹿乃子:夫の雅彦と一緒に新たな会社を興した
- 澤田:リナと進平の子供である、荒木誠だといづみに明かして謝罪をする。辞職しようとするがいづみは引き止め、その後も秘書として勤めている
- 星也:大学卒業後、法律事務所でインターンをしている
- 千景:無事大学を現役で卒業した
【海に眠るダイヤモンド】最終回のまとめと感想
端島は閉山し、鉄平は朝子と一緒になれずに流浪し続けた結果、最後は端島の見える家で過ごして亡くなったという話でした。
ごく簡単に上辺だけをかいつまんで話せば、鉄平は兄とリナのせいで人生を狂わされ不幸になって死んだ。とも言えます。しかしこのドラマを最後まで丁寧に視聴した人たちからすれば、そういう話ではないと分かります。
人生はいくつもの分かれ道があり、どちらか一方を選択した結果、現在があります。和尚の言うように過去にも未来にも生きられないのです。鉄平はあの時、進平と同じく一番いい選択をしたのでしょう。
人のためにずっと尽くしてきた人間が、なぜ最後に不幸にならなければならないのか?ドラマなのだからハッピーエンドでいいのではないか?確かにそれも一理あります。しかしこのドラマは「人生って色々あって今があるよね。あなたもそうでしょ?」と、自分たちに語りかけてくるような終わり方を選択しました。だからこそ、このドラマは心に残ります。
玲央は結局何者だったのか?その答えはありません。いづみは鉄平に玲央が似ていると思っていましたが、いざ見比べてみると似てないといいます。彼女の記憶の中だけで、勝手にそう思っていたともいえますが、別の説を考えてみました。
それは鉄平が様々な地をさまよっていた時、たまたまどこかで知り合った誰かと、できた子供がいてそれが玲央の父だったという説です。最後に玲央は「鉄平が声をかけた人かもしれないし、その子供かも孫かもしれない」というような話をします。それこそが玲央だったというオチです。
そして今度は玲央が世界を駆け巡り、またどこかで知り合った誰かと子供が生まれて孫が生まれる。そうして種は途絶えずに繋がっていく。まるで花の種のように。