『Tシャツが乾くまで』第5話では、バス事故からまもなく一年が経ち、咲子と樹生の関係にも大きな変化が訪れました。
咲子はこれまで充に頼っていたことを自分でできるようにし、充のものを捨てながら、ようやく前へ進もうとします。
ところがその直後、玄関の扉を開けると、そこに立っていたのは充でした。
サブタイトル「誰にも迷惑かけないなら」という言葉を通して、咲子と樹生の関係、そして誰かと生きることの難しさを改めて問いかける、大きな転換点となった第5話について解説します。
第5話3行まとめ
- バス事故からまもなく一年が経ち、咲子と樹生は互いにとって「別の、大切な人」になっていた。
- 咲子は充を、樹生はあずさを少しずつ手放し、それぞれ前へ進もうとする。
- しかし咲子が充のものを捨て始めた直後、充が突然「ただいま」と帰ってきた。
第5話あらすじ
バス事故からまもなく一年。咲子と樹生は毎週コインランドリーで顔を合わせ、ときには一緒に食事をするような関係になっていた。
一方、咲子の前から姿を消した充は、今も直人と連絡を取り続けていた。事故現場を訪れた樹生は偶然直人と出会い、充が今も直人と連絡を取っていること、そして帰るつもりがあるのかどうかは分からないままだと知る。
咲子は千鶴との会話を通して、樹生が自分にとって大切な存在になっていることを改めて意識する。しかし心の中にはまだ充が残っており、樹生から「僕と翔が瀬尾さんのお宅へ引っ越すのはありですか?」と提案されても、すぐには受け入れられなかった。
その後、咲子は直人の計らいによって充からの電話を受ける。咲子は自分が充と話しながら、樹生のことばかり考えていたことに気づく。咲子の中で既に樹生は、充とは別の「大切な人」になっていた。
咲子はこれまで充に頼っていた高い場所の物を自分で取るため脚立を購入し、充のスリッパや歯ブラシ、靴などを捨て始める。
だがその直後、玄関のチャイムが鳴る。扉を開けた咲子の前に立っていたのは、一年近く姿を消していた充だった。
事故から一年、咲子と樹生の関係の変化
事故からまもなく一年が経ち、咲子と樹生の関係は大きく変化していました。
2人は毎週コインランドリーで顔を合わせ、ときには一緒に食事をし、買い物へ出かけるようになります。
毎週のコインランドリーが楽しみになった咲子
咲子は千鶴に、毎週土曜日のコインランドリーを楽しみにしていると明かします。
以前の咲子にとってコインランドリーは、充の失踪やあずさの死をめぐる疑惑を樹生と話す場所でした。しかし一年近くが経った今では、樹生と会えることそのものを楽しみにする場所へと変わっています。
ただし、この時点で咲子は、樹生を恋愛相手として見ていません。咲子自身も「いい人だな」と思いながら、「だけど、ちょっと違う」と話しています。
樹生は咲子との3人暮らしを提案
一方、樹生はさらに一歩踏み込みます。
自宅の更新を控えた樹生は、咲子に「僕と翔が瀬尾さんのお宅へ引っ越すのはありですか?」と突然提案しました。
当然ながら咲子は驚き、「なしです」と即答します。
樹生は一緒に住む理由について「寂しいからです」と答えますが、誰でもいいわけではないと語ります。
つまり樹生が咲子を、自分と翔の生活の中に迎えたいと思うほど、大切な存在として意識しているということです。
しかし咲子は、自分も寂しいことを認めながら、「そういうことは今はまだ考えられない」と改めて断りました。
咲子にとって樹生は「別の、大切な人」になった
そんな咲子が自分の気持ちをはっきり自覚したのは、充と電話で話した後でした。
これまで咲子は、もし充と話せたら、自分の何が悪かったのか、どうすれば再び夫婦に戻れるのかを冷静に聞こうと思っていました。
ところが実際に充の声を聞くと、咲子が口にしたのは、あずさの死によって苦しみ続けている樹生や翔のことでした。
充と話しているのに、樹生のことばかり口にしていたのです。
そこで初めて、樹生が充の代わりではなく、「また違う、別の、大切な人」になっていることに気づきます。
第2話では、咲子は樹生の匂いや背丈に充を重ねていました。しかし一年を経た第5話では、樹生はもう充の面影を探すための相手ではありません。
2人の関係は、伴侶を失った者同士の支え合いから、互いをその人自身として大切に思う関係へ変わり始めていたのです。
咲子が充を手放すまで
樹生が自分にとって大切な存在になっていた一方で、咲子の心から充が完全に消えたわけではありません。
咲子がどのように充を手放そうとしたのかを見ていきます。
一年たっても充は心の中からどかなかった
千鶴から樹生との関係について聞かれた咲子は、毎週コインランドリーで会うのが楽しみだと話しながらも、「まだいるんです、どかない限り他の人にはならない」と充への思いを口にします。
充が帰ってくる可能性を完全には捨てきれず、自宅にも充のスリッパや歯ブラシ、靴などが残されたままでした。
1人でも生活はできている。それでも、充が戻ってくる場所だけは残していたのです。
脚立を買ったことが示す「1人で生きる」準備
咲子の変化を象徴していたのが、ホームセンターで購入した脚立です。
これまで高い場所にある物は、充に取ってもらっていました。脚立を買えば「充が帰ってこないことを認めてしまう」ような気がして、なかなか買うことができなかったのです。
しかし咲子はついに脚立を購入し、自分の手でミシンを下ろします。その後は充のスリッパや歯ブラシ、靴をゴミ袋へ入れました。
これは単に充を嫌いになったということではありません。
充がいなくても、自分の生活を自分で成り立たせていく。咲子が「充の帰りを待つ生活」から抜け出し、1人でも前へ進もうとする意思が表れていました。
ですが皮肉にも、その決意をした直後に充は帰ってきました。
樹生もあずさを手放す
咲子が充を手放そうとしていた一方で、樹生もまた、亡くなったあずさとの関係に一区切りをつけようとしていました。
「元気でね」に込められた別れ
自宅の更新を前に、樹生はあずさの服を手に取ります。
そこに現れたあずさは、もう服を捨ててほしいと樹生に話します。しかし樹生は、服を捨ててしまえば、あずさの姿が二度と見えなくなるような気がして捨てられませんでした。
そして樹生はあずさに「俺はあずさと生きてたかったんだよ」と涙ながらに本音をぶつけます。
それに対してあずさは、「もういないんだから選べないよ」と返しました。
そこで樹生が最後に伝えたのが、「元気でね」という言葉です。
亡くなった相手に「元気でね」と言うのは少し不思議な言葉ですが、だからこそ、樹生なりの別れだったように感じます。
忘れるわけでも、嫌いになるわけでもない。ただ、これ以上あずさを自分のそばに引き留め続けない。
そう決めたことで、樹生の前からあずさの姿は消えていきました。
あずさの死を誰かのせいにしないと決めた
樹生の変化は、あずさの死についての受け止め方にも表れています。
宮内はあずさについて「殺されたようなもんだ」と口にし、充と出かけなければ事故に遭わなかったという見方をします。
しかし樹生は、充があずさを無理に連れ回したのではなく、あずさ自身が頼んだのかもしれないと考えていました。
そして「あずさ側の僕らは、そういうことにしておけばいいと思います。余計に人を恨まなくて済むし」と話します。
真相が分かったわけではありません。それでも樹生は、あずさの死を誰かのせいにし続けることから降りようとしていました。
あずさへの執着だけでなく、怒りや恨みまで少しずつ手放すこと。それもまた、樹生が前へ進むために必要な別れだったのではないでしょうか。
コラム|「誰にも迷惑かけないなら」の意味を考える
第5話のサブタイトルは「誰にも迷惑かけないなら」です。この言葉は、千鶴の恋愛にも、咲子と樹生の関係にも共通していました。
一見すると自由で優しい考え方ですが、突き詰めていくと、誰かと深く関わることそのものの難しさも見えてきます。
千鶴は誰かを傷つけないため恋愛を終わらせた
千鶴はこれまで、拓真が既婚者であることを知りながら関係を続けていました。
それでも付き合っていたのは、拓真の妻も含めて当事者全員が納得しており、「誰にも迷惑をかけていない」と考えていたからです。
しかし拓真が妻と別れ、千鶴だけを選ぼうとしたことで、その前提は崩れます。
千鶴は喜ぶどころか、「じゃあ、私たちもお別れだね」と関係を終わらせました。
好きだから一緒にいるのではなく、誰かを傷つけないことを優先する。
千鶴は今回、サブタイトルの言葉をもっともはっきり実行した人物だったように思います。
咲子と樹生は関係に名前をつけないことを選んだ
一方、咲子と樹生は少し違う答えを出します。
樹生から3人で暮らすことを提案された咲子は、一度ははっきり断りました。
しかしその後、咲子は樹生が自分にとって「別の、大切な人」になっていることに気づきます。
それでも、恋人になるのか、家族になるのかを決める必要はないと考えました。
咲子は「はっきりした関係じゃなくても一緒にいていい」と話し、お互いに心地よく、誰にも迷惑をかけないのであれば、それでいいのではないかと考えます。
樹生もまた、関係をはっきりさせたいわけではなく、このまま曖昧でいてよいのか焦っていただけだと認めました。
2人は恋愛へ進むことよりも、今ある関係を壊さないことを選んだのです。
誰にも迷惑をかけない関係は本当に存在するのか
ただ、「誰にも迷惑をかけない」を徹底するのは簡単ではありません。
誰かと深く関われば、その選択によって別の誰かが傷つくことがあります。本人たちに悪意がなくても、関係が変わることで影響を受ける人は出てきます。
そして、それを完全に避けようとするなら、最も確実なのは誰とも深い関係を結ばず、1人でいることなのかもしれません。
第5話では咲子が脚立を買い、これまで充に頼っていたことを自分でできるようになりました。
充を手放したからといって、必ずしも樹生を選ばなければならないわけではありません。
誰かの妻になることでも、誰かの恋人になることでもなく、まず1人で立てるようになること。
「誰にも迷惑かけないなら」という言葉は、咲子が最後に誰を選ぶのかではなく、自分自身で生き方を選ぶことへ向かう暗示にも見えます。
もちろん、第5話の時点ではそこまで断定できません。
ただ、咲子が充を待つだけの人ではなくなり、樹生との関係にも名前を求めなくなったことを考えると、この回は「誰と一緒になるか」より、「自分はどう生きたいのか」を考え始めた転換点だったようにも見えました。
宮内は昔からあずさを知っていた?
第5話では、これまで詳しく語られてこなかった宮内とあずさの関係にも、新たな疑問が生まれました。
あずさが育った施設を訪れる
あずさが育った児童養護施設の職員・平岡光江が、事故のことを知って樹生を訪ねてきます。
その後、樹生、実樹、宮内の3人は、あずさがかつて暮らしていた教会の施設を訪れました。
これまで宮内は、あずさが働いていた古書店「上々堂」の店主として描かれてきました。しかし今回、あずさの過去に関わる場所へ宮内も同行したことで、2人の関係がそれだけではなかった可能性が出てきます。
昔のあずさを知っているような宮内
気になるのは、平岡と宮内が話していた場面です。
あずさの幼少期を知る平岡が「あのあずさが結婚して」と話すと、宮内は「あの子がね」とまるで昔のあずさを見ていたかのように自然に応じていました。
このやり取りだけでは、宮内が実際いつからあずさを知っていたのかまでは分かりません。
ただ、少なくとも平岡との会話には、あずさの過去について何らかの共通認識があるようにも見えます。
そしてアップになった宮内の手元には、手帳のようなものがありました。それが誰のものなのか、何が書かれているのかは分かりませんが、意味深なシーンでした。
第5話で残された謎
充はこの一年どこで何をしていたのか
充は事故直前にバスを降り、その後も直人とは連絡を取り続けていました。
しかし、この一年間どこで暮らし、何をしていたのかは分かっていません。
なぜ今になって帰ってきたのか
充は咲子の様子を気にしながらも、一年近く帰ろうとはしませんでした。
それにもかかわらず、咲子が充のものを捨て始めたタイミングで突然帰宅します。
なぜ今になって戻ることを決めたのかは、第5話では明らかになっていません。
あずさと長野へ向かった理由は何だったのか
咲子は電話で、なぜあずさと一緒に長野へ向かったのかを充本人に尋ねました。
しかし充は答えず、2人の目的は依然として不明です。
南千須の住所は何だったのか
充のスマートフォンには、長野県南信州市南千須の住所が残されていました。
咲子は実際にその場所を訪れましたが、充はおらず、住人も充を知らないと話しています。
なぜ充がこの住所をメモしていたのかは分かっていません。
宮内とあずさの関係とは
第5話では、宮内があずさの幼い頃から知っているようにも見える場面がありました。
平岡との関係や、宮内がいつあずさと知り合ったのかについては、まだ明らかになっていません。
咲子は帰ってきた充と再び夫婦になれるのか
咲子は充への気持ちを整理し、ようやく前へ進もうとしていました。
一方で樹生は、充とは別の「大切な人」になっています。
そんなタイミングで帰ってきた充と、咲子は再び夫婦として向き合うことができるのでしょうか。
充の帰還によって、第5話まで積み重ねてきた咲子と樹生の関係も、再び大きく揺れることになりそうです。
まとめ|前を向いた咲子を、過去がもう一度つかまえた第5話
第5話では事故から1年近くが経ち、咲子と樹生はそれぞれ、充とあずさを少しずつ手放そうとしていました。
樹生はあずさに「元気でね」と別れを告げ、咲子も脚立を買い、充がいなくても自分で生活できるようになろうとします。
さらに2人は、恋人や家族といった名前を無理につけなくても、互いにとって大切な存在として一緒にいればいいのではないかと考えるようになります。
サブタイトルの「誰にも迷惑かけないなら」は、一見すると2人の関係を肯定する言葉です。
しかし誰かと深く関われば、まったく誰も傷つけないことは難しくなります。それを突き詰めた先には、誰かを選ぶのではなく、1人で生きるという選択さえ見えてきます。
咲子が脚立を買ったことも、そんな未来へ向かう小さな一歩だったのかもしれません。
ところが、ようやく充のものを捨て始めたその日に、充本人が「ただいま」と帰ってきました。
第1話から待ち続けていたはずの帰還なのに、今の咲子にとっては単純に喜べる出来事ではありません。
ようやく過去から足を抜いて前へ進もうとした咲子を、その過去がもう一度つかまえたような幕切れでした。
帰ってきた充と咲子が何を話すのか。そして1年という時間を経た2人が、もう一度夫婦として向き合うことができるのか。
物語はここから、大きく動き出しそうです。
