【法廷のドラゴン】3話のネタバレと感想をまとめています。
殺人で起訴された被告人の弁護を担当することになった竜美たち。刑事裁判は有罪率が99.9%と高く、しかも相手は“東京地検のAI”の異名を持つ検察官だった。竜美はAIに勝つ事はできるのか?
【法廷のドラゴン】3話のあらすじ
殺人事件の弁護の依頼が入り、天童竜美(上白石萌音)と歩田虎太郎(高杉真宙)は東京拘置所へ接見へ行く。依頼人の幹本篤信(戸次重幸)は、動画配信者の栄田陽人(福井俊太郎)を階段から突き落として殺害した疑いで逮捕起訴された。
竜美は単刀直入に殺害したのかを尋ねると、幹本は「やってません、私は無実です」と即答した。
刑事裁判は有罪率99.9%、検察が起訴した段階でほぼ有罪という状況だった。しかも担当検事は“東京地検のAI”の異名を持つ、浅村市郎(野間口徹)だった。
竜美はAIに勝つことができるのか?
←2話|4話→
【法廷のドラゴン】3話のネタバレ要約
被害者の栄田は失踪したはずの幸彦が、別の場所で別人として暮らしていたことを発見する。そして幹本のことを脅し、さらに幸彦も事件当日、公園に呼び出していた。
幸彦がしつこく食い下がる栄田を振り払った瞬間、階段から栄田は転落してしまった。警察を呼ぼうとする幸彦だが、失踪宣告が認められれば妙子も自由の身になり、あの家から出られると言って幹本が止める。
幹本は妙子を思って失踪宣告が認められる、10月10日まで裁判を何とか引き伸ばそうとする。
しかし、妙子は幸彦を助けられなかったことを悔やみ、自らを罰するかのように7年間松篠家にいた。さらにその日を迎えても、失踪宣告も出さずにいた。
幸彦も幹本も妙子のためを思ってしていたことが、結果的に妙子を苦しめていた。
【法廷のドラゴン】3話の詳細なネタバレ
弁護の依頼
東京拘置所の冷たい空気が、天童竜美(上白石萌音)と歩田虎太郎(高杉真宙)の肩を覆っていた。建物の入り口に黒い服を着た長髪の女性が立っていた。彼女の目はどこか遠くを見ているようで、まるで彼女自身が何か重たいものを抱えているかのようだった。竜美はちらりとその女性を見たが、すぐに目を反らし、接見室に足を踏み入れた。
幹本篤信(戸次重幸)、被告人。松篠建設を辞めてから、飲食店で働いているという。彼がどんな人物かはまだわからない。しかし、今回の事件は簡単ではないだろう。
「事件が起きたのは9月13日です。何があったのか、教えてください」竜美は静かに言った。
幹本は少しだけ黙り込んでから、ゆっくりと口を開いた。
「その日は仕事帰りにふらっと入った店で飲んでいました。そこで、見ず知らずの男と隣り合わせになったんです。その男が、動画を見ろとかしつこく絡んできて……」
幹本は声を震わせながら続けた。
「あまりにもしつこくて、つい怒ってしまったんです」
その後、幹本はその男と口論を繰り広げ、店を出てまっすぐ家に帰ったという。翌朝、高台の公園でその男の遺体が発見された。死因は頭部打撲による脳挫傷。死亡推定時刻は午後11時から午前0時の間。公園の階段を転げ落ちて死亡したようだった。
被害者の栄田陽人(福井俊太郎)は幹本と揉めた後、店を出てからそのまま命を落とした。警察は栄田が飲んでいた店を突き止め、幹本との口論があったことを確認した。
「殺害したのですか?」
竜美が問いかけると、幹本はすぐに答えた。
「やってません、私は無実です」
その言葉は力強く、迷いのないものだった。竜美は一瞬、彼の目を見つめ、何かを感じ取ったようだった。
事務所に戻った竜美と虎太郎は、机の前に座りながら、これからの戦いについて話し合っていた。
「刑事裁判は有罪率99.9%。検察が起訴した時点で、ほぼ有罪が決まり」
乾利江(小林聡美)が言った。
「しかも相手の検事が、東京地検のAI、浅村市郎」
利江の言葉には少しの嫌悪感が含まれていた。
竜美はその言葉に興味を示した。
「AI…?」
「AIが人に勝つ確率が99.9%だとすれば、今回の公判は、まるでAI相手に将棋を指すようなものだ」
虎太郎が説明する。
「たとえ相手がAIだとしても、0.1%は勝てる確率があるということ。最初から負けると思っていては絶対に勝てません。諦めたら、そこで投了です」
その言葉には、竜美自身の決意が込められていた。
公判前整理手続き
公判前整理手続きの日、竜美と虎太郎は裁判所に向かった。すでに法廷では、検察側の浅村市郎(野間口徹)が冷静沈着に進行を取り仕切っていた。竜美はその中でも一つ、気になる点を見逃さなかった。
「タクシーの車載カメラの映像を証拠請求します」
浅村が言ったその瞬間、竜美は思わず目を見開いた。
その映像には、犯行推定時刻の数分前、現場の公園の裏口近くで客待ちしていたタクシーが映っていた。映像には、被害者・栄田陽人が公園に入る様子、そして数分後に幹本篤信がその後を追うように公園に入っていく姿が映し出されていた。
その後、幹本に対して虎太郎が問い詰める。
「なぜ、犯行現場に行ったことを隠していたんですか?」
幹本は少し迷ってから答える。
「駅に行く近道だから、通り抜けただけです」
「証拠映像がある以上、検察は間違いなくその点を追及してくる。もし誤って転落させてしまったのであれば、過失致死を主張すれば量刑を軽くできる」
虎太郎は冷静に提案する。
「否認を続ければ、公判は長引き、裁判員の心象も悪くなるだけです」
だが、幹本は首を振った。
「それじゃ意味がないんです」
彼は呟き、続けて強く否定した。
「とにかくやっていない」
接見が終わり、外を歩きながら、竜美と虎太郎は話を続けた。竜美は考え込んだ様子で、思わず口に出す。
「被害者が都市伝説系の動画配信者だったのに、所持品の中にスマホがなかった。おかしいと思いませんか?」
「それに、幹本さんの自宅や職場も家宅捜索されているが、スマホは見つかっていない」
虎太郎が言うと、竜美は何かにひらめいたように顔を上げた。
「意味がないって言ってましたね、幹本さんは」
竜美はつぶやきながら歩き続けた。「彼は何か大事なものを隠している気がする」
その瞬間、彼女はふとある考えが浮かび、虎太郎と一緒に自宅へ戻った。
AI戦の攻略法
竜美の家に到着すると、虎太郎は思わず立ち止まった。リビングに入ると、父・辰夫(田辺誠一)が法衣を着て立っている姿が目に入った。その姿に、虎太郎は縮こまったように感じた。竜美の父は元々、刑事裁判を担当していたという人物だった。
「見つけた」
竜美が2階から下りてくる。
「数年前に最強のAIソフトが作られましたが、そのAIに勝つ特殊な戦法があったんです」
竜美は棋譜を見せながら話す。
「普通の駒組みに見えますが、人間が指した2八銀が、AIを倒すための特殊な一手だったんです。その後、AIに悪手を指させるためのハメ手を繰り出す。そのハメ手こそが、プログラム上のバグを利用したたものでした」
虎太郎はその話にすぐ食い気味に口を挟んだ。
「それでどうやったら東京地検のAIに勝てるんだ?」
竜美は一瞬黙ってから答えた。
「それはまだ。ただ、勝てる手があるというのを伝えたかっただけです」
「それのためだけに、僕をここに連れてきて、ご両親も巻き込んでいるわけ?」
虎太郎は呆れたように言った。竜美は少し苦笑いしながら、うなずいた。
セレブ・ミッシングとは?
竜美と虎太郎は、幹本篤信の写真を見せながら、凸撃ボーイズの他のメンバーに話を聞きに行った。
しかし、メンバーたちは口を揃えて言った。
「見たことないな、そんな人。栄田は最近、全然動画を上げてないし」
その言葉に、竜美は少し眉をひそめた。
「栄田は先月、辞めようとしていたんだ」
「辞める?でも、どうして?」
虎太郎が尋ねると、メンバーは続けた。
「借金もあったみたいだし、どうするつもりかって聞いたら、『完済できてお釣りが来る』って言ってた。10月10日を過ぎれば確実に手に入るって」
メンバーは続けて、栄田が最後にアップしようとしていた動画の予告を見せてくれた。そのタイトルは、「セレブ・ミッシングの真相に迫る!」というものだった。内容は、富裕層や有名人が突然失踪したという都市伝説に迫るものだった。
サムネイルに映っていたのは、松篠建設の本社ビルだった。幹本が去年まで勤めていた会社だ。
事務所に戻ると、利江が松篠建設の話を始めた。
「7年前、松篠建設の社長の息子、幸彦が失踪して、週刊誌でも取り上げられてた」
「松篠建設って、非上場の同族会社だよな?」
虎太郎が言うと、利江は頷いた。
「3代目の社長、松篠一幸氏の一人息子が幸彦。幸彦は平成29年10月10日に姿を消した」
栄田が調べていたのは、その幸彦(三浦貴大)の失踪事件だったのだ。
「それだけじゃない」
利江は続ける。
「『松篠建設社員Mが失踪した四代目跡取りの妻と不倫』って、ネットに書き込まれていた。それで激怒した社長が、社員Mを強制退社させたという噂があった」
その噂を聞いて、竜美と虎太郎は顔を見合わせた。去年、幹本が松篠建設を辞めたタイミングと一致している。
「社員Mが幹本さんだったのか?」
虎太郎が疑問を投げかけた。
竜美は思案しながら言う。
「栄田さんはもしかしたらこの不倫に関するネタで、金を脅し取ろうとしていたのかもしれない」
「幹本さんが隠そうとしていたのは、もしかしたら不倫に関する何かだったのか?」
虎太郎が言うと、竜美はじっと考え込んだ。確かに幹本があれほど否認し続けていた、理由が見えてきた気がした。
親子の確執
竜美と虎太郎は、松篠一幸(牧村泉三郎)の家に行く。その顔にはどこか冷たい表情が浮かんでいた。
「幸彦は死にました」
一幸は淡々と告げた。その言葉に、竜美は一瞬動揺を隠せなかった。
「7年前、彼は家を出てから消息を断ちました」
一幸が続ける。
「富士の樹海近くで見つかった車の中には、遺書めいたメモだけが残っていた」
竜美は黙って聞き続けた。幸彦が残したメモやその後の出来事を、一幸はあまり感情を込めずに話す。会社を守るため、松篠建設は彼の失踪を隠し、弁護士に行方不明届けを出させたのだという。
その時、女性が茶を持って部屋に入ってきた。竜美はその姿にふと気づいた。彼女は拘置所で会ったあの女性だった。
竜美はその女性を一瞬見つめ、すぐに一幸に向き直った。
「幹本さんの話を聞かせてください」
一幸は苦笑いを浮かべる。
「辞めた社員のことなんて、いちいち覚えていませんよ」
言葉を返す間もなく、一幸は立ち上がり、無言で部屋を出て行った。竜美と虎太郎は顔を見合わせ、今の一幸からは何も引き出せなかったと理解する。
次に、竜美は幸彦の妻・妙子(入山法子)に話を聞くことにした。
「幸彦さんはなぜ自殺したのでしょうか?」
竜美の問いに、妙子はゆっくりと語り始めた。
「彼は幼い頃から画家になりたいという夢がありました。大学も美大に行きたかったけど、お義父様が許さず、経営学科に進学させられました」
妙子は少し目を閉じる。
「卒業後は松篠建設に入り、人事部門の取締役として、リストラや降格を担当させられました。それが彼にとっては非常に大きなストレスとなっていたのです」
それでも幸彦は、絵を描くことで精神的にバランスを取ろうとしていた。しかし、父親は描いていた絵を取り上げて踏みにじったという。
「お義父様は、彼から夢も心のよりどころも奪ってしまったのです」
妙子の声には、長年の悲しみと怒りが滲んでいた。
竜美は妙子を見つめながら、さらに質問を続けた。
「幸彦さんがいなくなって、あなたはなぜこの家に留まっているのですか?生死が不明な状態が3年以上続けば、離婚もできるはずなのに」
竜美はさらに話を進める。
「拘置所にも来ていましたよね」
妙子は目を伏せる。
「幹本さんは、幸彦さんの大学時代からの親友でした。社内でも、唯一心を開いて話せる人だったのです。幸彦さんが失踪してから、いろいろ相談に乗ってもらっていました。今回の事件を知って驚き、面会に行こうとしましたが、家族ではないからと断られてしまいました」
その言葉に、竜美はしばらく考え込み、何か重要な手がかりを掴んだような気がした。
裁判開始
事務所に戻ると竜美と虎太郎は、妙子の話に基づいて新たな推理を始めた。
「妙子さん、怪しいですね」
利江が声を低くして言った。彼女は慎重に続ける。
「あくまで仮説ですが、松篠幸彦さんの失踪前から、妙子さんと幹本さんが不倫関係にあった可能性がある。もしそうだとしたら、それが幸彦さんの失踪や自殺の原因だったのかもしれません」
竜美はその可能性にじっと考え込みながら答える。
「栄田さんがその真相に行き当たって、幹本さんを脅迫した…それが彼の動機になった可能性がある」
利江が続ける。
「幹本さんはその脅迫を拒否し、逆に栄田さんを…」
その瞬間、虎太郎が慌てて口を挟んだ。
「それだと、幹本さんが殺意を持って殺害したことになってしまいますよ!」
竜美は一瞬静かに考える。
「そうですね… それは確かに動機としては強いですが、現段階ではまだ確証がない」
ちょうどその時、東京地裁から電話がかかってきた。
「追加の証人申請の件です。浅村検事が妙子さんを証人として要請しました」
電話の内容を伝えられ、竜美は驚きながらも、次の展開を迎える準備をした。
裁判が始まると、妙子が証言台に立った。彼女はしっかりとした態度で尋問を受けることとなった。
「幹本さんと男女の関係があったのでは?」と浅村検事が尋ねた。
妙子はすぐに首を横に振り「事実無根です」と否定した。
続いて検事が質問を変えた。
「幹本さんから栄田さんについて、何か聞いたことがありますか?」
妙子は少し間を置いてから答えた。
「恐喝されていると言われました」
その瞬間、虎太郎が立ち上がり、質問を投げかけた。
「その恐喝されたのは、いつのことですか?」
「9月13日の夜、電話で聞きました」妙子が答える。
「それは事件の日ですね」
虎太郎が続けた。
「午後11時半過ぎ、死亡推定時刻と一致します」
妙子はその時の様子を思い出すように、ゆっくりと言った。
「公衆電話から幹本さんが電話してきました。その時、叫び声が聞こえました。栄田という男が突き落とされたと…でも、突き落とした人のことは暗くて、よく見えませんでした」
虎太郎は地図を広げ、電話ボックスの位置を示しながら言った。
「電話ボックスからは階段がかなり離れているので、幹本さんが実際に突き落とすのは不可能だと思います」
その言葉に妙子はうなずきながら言った。
「幹本さんには不可能だと思います」
こうして、妙子は幹本の関与を否定した。しかし、その証言が今後の証拠となるのか、裁判の行方を左右する重要な要素となることは間違いなかった。
事件現場での再確認
虎太郎は接見室で幹本に問い詰めた。
「なぜ犯人を目撃したことを言わなかったんですか?」
幹本は黙って答えなかった。その沈黙が、まるで何かを隠しているように感じさせた。
その後、竜美が幹本に近づき、静かに尋ねた。
「妙子さんの証言によって、無罪になる可能性が出てきたのに、どうして心から喜ばないんですか?」
幹本は竜美の言葉を聞いた瞬間、そそくさと席を立ち、部屋を出て行った。竜美はその背中を見送りながら、彼が何かを隠していることを確信した。
その頃、弁護士が松篠幸彦の失踪から7年が経過したことを伝え、失踪宣告の手続きを進めると告げた。
「これでようやく成仏できるだろう」と一幸が語り、妙子が話し始めた。
「お願いがあります」彼女の声は、どこか不安を含んでいた。
一方、事件現場の階段で、虎太郎と竜美は再びその場所を確認していた。電話ボックスと階段の位置がかなり離れていることを実感し、竜美は言った。
「相手のミスに救われた、というより…私には仕組まれたようにしか思えません」
虎太郎が納得するように頷く。
「確かに、幹本さんが実際に犯行を行ったのなら、電話ボックスからの距離は問題になりそうだ」
そして、竜美は虎太郎に「突き落とされた場所に立ってみて」と促した。竜美は電話ボックスからその様子を見守る。
「妙子さんは暗くてよく見えなかったと言っていたけれど、実際はすごくよく見える」と竜美は驚いた。
「幹本さんは犯人の顔を見ていたに違いない」と確信した。
自宅で事件を整理していた竜美は、翌日、事務所に向かうと、すぐに幸彦が失踪した時の記事を持ってきた。そこに書かれていた重要な日付に気づいた。
「10月10日、栄田さんが金を手に入れると言っていた日。今日は10月11日、失踪から7年が経過している。法律上、もう死亡したものとみなされます」竜美は冷静に言った。
その日、妙子は幸彦の遺産を相続できることになる。そして、栄田はその日まで待って、遺産をゆすり取ろうとしていた可能性がある。
「妙子さんは遺産目当てで松篠家にとどまり、幹本さんと関係を持っていたのか?」と虎太郎が疑問を呈する。
「そうだとすれば、全てが繋がる」竜美は考え込む。
「そして、松篠幸彦さんの失踪宣告がまだ申請されていないということは、妙子さんがその申請を待っているからだ」
利江が情報を提供した。「待ってほしいと言っているらしいです」
その言葉を聞いた竜美は、しばらく考えた後、決意を固める。
「この一局、勝ちを読み切りました」彼女は確信に満ちた顔で宣言した。
新たな証言と真相の解明
接見の日、竜美は袴を着て現れ、その姿で幹本を見つめながら言った。
「AI検事との対局、79手でこちらの勝ちとなりました」
幹本はその言葉に呆気に取られた。竜美は静かに続ける。
「将棋の対局には、使われない駒が存在することがあります。例えば9一の香車が不動駒として動かないまま、残されることがあります。その駒こそ、松篠幸彦さんだったのです」
その言葉を聞いた虎太郎が冷静に言った。
「幹本さん、嘘はもう結構です」虎太郎が続けて言う。
「栄田さんの所持品の中に、場違いなチラシが1枚ありました。それは、アトリエ シラナミという場所のものでした」
竜美はその情報を聞いて、すぐに場所を訪れることに決める。
「そのチラシを持って、私たちも行ってみました」
海沿いの家に辿り着くと、幸彦がそこにいた。幸彦は全てを話してくれた。
「栄田を突き落としたのは私です」
幸彦は栄田が持っていたスマホを取り出して見せた。その中には、幸彦を隠し撮りした動画が何本も入っていた。
竜美は驚きながらも尋ねる。
「どうやって居場所がわかったんですか?」
幸彦は静かに答える。
「生徒の親がSNSに僕の写真を上げてしまったんです。それを栄田が嗅ぎつけて、幹本を脅すだけじゃ飽き足らず、あの夜、僕をあの公園に呼び出したんです」
その夜、栄田が幸彦を振り払おうとした瞬間、階段から転げ落ちるのを幹本が目撃してしまった。幹本は幸彦が警察を呼ぼうとするのを止め、こう言った。
「失踪宣告が認められれば、妙子さんも自由になり、あの家から出られる。幸彦が消えたせいで、妙子さんは逆にあの家に縛られ続けることになったんだ」
その言葉を聞いた幸彦は衝撃を受け、落ちていたスマホを手に取った。
「10月10日まで生きていることを知られちゃいけない。頼む、逃げてくれ。お前のためじゃない、妙子さんのために」
幹本は幸彦にそう促した。
幸彦はその場を離れる決意を固め、ゆっくりと姿を消した。
依頼の決着
竜美は冷静に語りながら、幹本の心に触れた。
「あなたが試みたこと、そしてなぜそうしたのか、全てはもう明らかです。10月10日より前に、幸彦さんが生きていると分かれば、失踪宣告は認められず、妙子さんも遺産を受け取ることができない。それを恐れたあなたは、幸彦さんの存在を隠そうと必死だった。それが、私たちが読み切った手筋です」
虎太郎がその言葉を受けて、冷たく問いかける。
「どうしてそこまで?あなた、殺人罪で起訴されたんですよ?」
幹本は涙をこらえきれずに、震える声で答えた。
「妙子さんは、幸せになっていい人です。そのためには、こうするしか……」
竜美はその言葉に静かに反応した。
「妙子さんは、それで本当に幸せになれるのでしょうか?彼女は幸彦さんの失踪宣告を申請していません」
竜美の言葉に、幹本は答えることができなかった。竜美はさらに続けた。
「幸彦さんの遺産を受け取って家を出るのが、妙子さんにとって幸せでもなんでもなかったからだと思います」
その言葉に、幹本は深く沈黙した。
「依頼人が望まない弁護は行えません。だから、幸彦さんのことを法廷で話すことはできません」
虎太郎は言い切った。
竜美は最後に、静かに告げた。
「最終陳述で何を述べるか…最後の一手は幹本さんご自身で決めていただけますね?」
幹本はしばらく考え込んだ。彼の表情に迷いが浮かび、そして深い苦しみの色が見て取れた。
ドラマの結末
竜美と虎太郎は、妙子の元に向かった。二人が座ると、竜美が静かに尋ねる。
「幸彦さんが生きていたこと、栄田さんを突き落としたことを知っていたんですね?」
妙子は静かに頷いた。「はい、あの夜、幹本さんから電話がかかってきて、幸彦さんが栄田さんを突き落としたと聞きました」
しかし、幹本は一方的に電話を切ってしまう。
「そして幹本さんの無実を証明するために法廷に立ちました。しかし幸彦さんのことだけは言えなかった。申し訳ありませんでした」妙子は深く頭を下げる。
産目的ではなかった。失踪宣告をしなかったのは、妙子の希望だった。
「私にはそんな資格、ありませんから。少しずつ追い詰められていく幸彦さんのそばにたのに、なんの助けにもなれなくて」
涙ぐみながら話す妙子。
「贖罪と後悔のために、7年間ずっと松篠家にいました」妙子の言葉は深く響く。
「他にどうすることもできず、身動きもとれなかった……」
竜美は静かに言った。
「幸彦さんが言っていたことを伝えます。『この7年、松篠家のくびきから逃れて、つかの間の自由を謳歌することができた。妙子もとっくに忘れて幸せになっているものだと言い聞かせていた。でもそうじゃなかった』」
妙子は涙をこらえながら聞いていた。
「あの晩、それを幹本から知らされた」
竜美は幸彦から聞いた言葉を続けた。
「幹本が犯人と疑われながらも、失踪宣告を成立させようとしてるっていうことは、私もその覚悟をふいにすることはできない。それが妙子への償いにもなると、そう思ってました」
幸彦はさらに言葉を続ける。
「ですが、ようやくわかりました。私の犯した罪は、決して贖え無いと。私は愚かでした。私はただ、妙子に何があっても幸せであってほしかっただけなんだ。なのに私は、妙子を苦しめるめことばかり…」
幸彦は涙を流しながら告白した。
その言葉を聞き、妙子は涙を堪えていた。竜美は彼女に向かい、穏やかに諭すように話す。
「この7年間、どうすることもできず、身動きもとれなかったとおっしゃってましたね。でも…ようやく次の一手を指せるのではありませんか?」
「次?」妙子が問い返す。
竜美は優しく微笑んで答える。
「苦しい長考の中で、幸彦さんは自分自身と向き合い、前に進もうと闘っておられます。妙子さんも、御自分を解き放つ手を指す時が来たのだと私は思います」
その言葉に、妙子はうなずき、涙をこらえながら笑顔を見せた。
その後、虎太郎の代わりに感想戦に突き合わされる利江。彼女は静かに語った。
「幸彦さんが出頭したおかげで、検察は起訴を取り消し、裁判所は控訴棄却を決定したわよ」
竜美は盤面を見ながら、勝負を決めた一手について話す。
「検察が指した手は、一見強いように見えますが、実は悪手だった。この手はひとマスでも動けば、簡単に相手にとられてしまい、どこにも動くことができない。この駒こそ、資産家の松篠家の嫁であり、失踪した夫の妻というレッテルから逃げられなかった妙子さんそのものだったのかもしれません」
その直後、事務所のドアが開き、見るからに危険な雰囲気を漂わせている男が入ってきた。
「虎太郎を出せ」
男は冷たい声で言った。
←2話|4話→
【法廷のドラゴン】3話のまとめと感想
失踪した夫と夫の友人が、妻のためを思ってしたことが、結果的に妻を苦しめていたという話でした。
話が少々分かりづらいと言いますか、彼らがどうしてそういう選択をするのかが共感しづらいため困惑しました。
幸彦は失踪でなくちゃんと家を出ていけばよかったのではないか?とまず思いますし、幹本はなぜそこまで他人の妻である妙子に肩入れするのか謎です。
妙子と幹本の間で不倫関係はなかったはずですが、幹本は「あの人は幸せになっていい人だ」と惚れているのかと思うような発言をします。
男たちは勝手にそうすることで妙子が幸せになると思っていましたが、妙子はそんなことを別に望んでいませんでした。
しかし、今回裁判になったことで、皮肉にも妙子は幸せに向けて一歩踏み出せました。
前回が18年間縛られていた女性で、今回は7年間縛られていた女性でした。時間は何よりも取り返しがつかないので、一日でも早く一歩踏み出す必要があるのだなと思い知らされました。
←2話|4話→