【相棒シーズン23】13話「レジリエンス」のネタバレと感想をまとめています。
5年前に息子を殺した犯人を捜している母親の支援をしていた元警察官の男が、突然自分が殺したと告白する。怪しむ右京だが男は凶器のある場所を言い、そこにはさらに3人の死に顔の写真があり……。
【相棒23】13話のあらすじ
平井葉一(和泉元彌)と和田彩子(赤間麻里子)が冷たい風の吹き抜ける街角で、道行く人々にチラシを配っていた。5年前の事件について、犯人の情報を求めるチラシだった。
事件を取材していた亀山美和子(鈴木砂羽)は夫の薫(寺脇康文)に頼み、杉下右京(水谷豊)と一緒に彩子の家を訪ねる。
彩子の息子である為永祐希(今井公平)が殺害され、犯人は未だに捕まらず未解決事件のままだった。そんな彼女を支えていたのが、元警察官の平井だった。
右京たちが彼女たちの話を聞いていると、突然平井は「私が、為永祐希君を殺しました」と告白し……。
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【相棒23】13話の見逃し配信
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【相棒23】13話のネタバレ要約
平井葉一(和泉元彌)と和田彩子(赤間麻里子)が冷たい風の吹き抜ける街角で、道行く人々にチラシを配っていた。5年前の事件について、犯人の情報を求めるチラシだった。
事件を取材していた亀山美和子(鈴木砂羽)は夫の薫(寺脇康文)に頼み、杉下右京(水谷豊)と一緒に彩子の家を訪ねる。
彩子の息子である為永祐希(今井公平)が殺害され、犯人は未だに捕まらず未解決事件のままだった。そんな彼女を支えていたのが、元警察官の平井だった。
右京たちが彼女たちの話を聞いていると、突然平井は「私が、為永祐希君を殺しました」と告白し……。
【相棒23】13話の詳細なネタバレ
殺人の告白
冬の冷たい風が吹き抜ける街角で、平井葉一(和泉元彌)と和田彩子(赤間麻里子)が道行く人々にチラシを配っていた。その手には、5年前に殺害された為永祐希(今井公平)の事件について記された紙が握られている。犯人は未だ捕まっておらず、事件は未解決のままだった。
その様子を、少し離れた場所からじっと見つめる女性がいた。亀山美和子(鈴木砂羽)だ。彼女は記者としてこの事件を取材していた。この事件の真相を知りたい、その思いで彼女は見守っていた。
後日、美和子は夫の亀山薫(寺脇康文)と杉下右京(水谷豊)を連れて彩子の家を訪ねた。応対したのは、彩子と、彼女を支援しているミヨという女性だった。部屋に入ると、右京はミヨに紅茶の淹れ方を指南し始めた。彼は優しく手ほどきをしながら、香りの違いや味わいについて説明する。その穏やかな光景に、わずかの間だけ空気が和らいだ。
しかし、そのひとときは長くは続かなかった。
「右京さん、こっちに来てくれ」
亀山に呼ばれ、右京は席を立つ。そして彩子から、祐希の事件について話を聞くことになった。
祐希は当時、大手企業に就職したばかりだった。社会人生活に慣れないながらも、仕事に励みつつ、フットサルの社会人サークルにも所属していた。仕事が終わると、夜遅くまで近所の公園で練習を続けるのが彼の日課だった。
しかし、その日、彼は帰宅しなかった。
心配した母・彩子が公園に向かうと、そこにはすでに息を引き取った祐希の姿があった。
「祐希くんは練習中に何者かに襲われたと考えられます」
そう語るのは、当時の捜査に関わっていた平井だった。彼は当時、事件が起こった管轄の少年係に在籍しており、捜査にも協力していた。しかし、唯一の目撃情報は、「公園から立ち去る羽根のついた帽子をかぶった女性」の姿があったという証言のみ。それ以上の有力な手がかりはなく、事件は未解決のままとなっていた。
右京は平井に問いかける。
「なぜ、警察を辞めたのですか?」
しばらく沈黙が流れたあと、平井は静かに答えた。
「児童福祉に関わりたかったんです」
祐希の事件を追い続ける彩子は、深く息を吐いた。
「生きているうちに、犯人を捕まえたいんです」
その言葉に、美和子はふと彩子の体調を気にかけた。彼女の顔には、どこか病の影が見え隠れしている。
「彩子さん……もしかして、体調を崩されているんですか?」
彩子は目を伏せ、小さく頷いた。
「……胃がんなんです」
その告白に、場の空気が凍りついた。さらに、彼女は淡々と語る。
「夫は、事件に関わることに嫌気が差して、離婚しました。もう私しかいないんです。私が死んだら、この事件は本当に終わってしまう……どうか、どうか、犯人を」
そう言って、彩子は深々と頭を下げた。その必死の願いに、部屋の中の空気が張り詰めた。その沈黙を破ったのは、意外な人物だった。
「杉下さん……自首します」
突如として、平井が静かに言った。部屋の空気が一変する。
「私が……為永祐希くんを殺しました」
その言葉が落ちると、沈黙だけが部屋を支配した。
一冊の漫画
取調室の中、平井葉一は落ち着いた表情で椅子に座っていた。彼の前には、捜査官が並び、冷静な口調で事件について尋ねる。
「平井さん、本当にあなたが祐希くんを殺害したのですか?」
「ええ、そうです」
静かに答える平井。その語り口は妙に理路整然としていた。
彼が女装の世界を知ったのは、生活安全課時代のことだった。あるとき、彼は管轄内の女装カフェの認可を担当することになった。そこで初めて、自由に自分を表現する人々と出会った。
「理屈じゃなく、いいなと思ったんです」
彼はふと目を細める。それからというもの、自分でレディースの服を買い、メイクをするようになった。誰に強制されたわけでもない。ただ、それが心地よかった。
しかし、そのささやかな幸福は、祐希に踏みにじられたのだという。
ある日、女性の服をまとい、ただ街を歩いていた平井を、祐希は嘲笑った。
「それが動機ですか?」
呆れたように問いかける芹沢慶二(山中崇史)。しかし、平井の表情は真剣だった。
「ええ、そうです」
平井は憤りを露わにしながら語る。祐希に侮辱され、どうしても許せなかった。そして、怒りに任せて彼の首を締め、命を奪ったのだと。
「そんなことで……」
芹沢は愕然とした表情を見せたが、平井は淡々としている。それが彼の真実なのだとでも言うように。
取調室の外でその様子を見ていた杉下右京は、彼の供述に違和感を覚えていた。もし本当に平井が祐希を殺したのなら、なぜ彩子を支援し続けていたのか。殺した相手の母親を、どうしてここまで支えられるのか。
――何かが、おかしい。
右京と亀山は再び彩子のもとを訪れ、話を聞くことにした。
「彼は、私に約束してくれたんです。私が生きているうちに、必ず犯人を見つけると」
彩子の声には強い信念があった。
「……つまり、約束を守るために、自らを犯人に仕立て上げた?」
右京が静かに問いかけると、彩子はすぐさま首を横に振った。
「とにかく葉一さんが犯人なんて、ありえないですから!」
彼女の目には涙が浮かんでいた。それほどまでに、彼女は平井を信じていた。
――だとすれば、平井の告白は虚偽の可能性がある。右京たちは平井の自宅を調べることにした。
部屋を見渡すと、確かに女性ものの服がクローゼットに揃えられていた。しかし、右京はそれを見ても揺るがない。
「こんなもの、いくらでも偽装できます」
問題はそこではない。もっと決定的な証拠が必要だった。右京は本棚に目を向ける。慎重に指先で一冊の本を取り出した。それは『約束のヘブンズドア』という漫画だった。
――そのタイトルを見つめる右京の目が、鋭く光った。
殺人の証拠はタイムカプセル
取調室の中、右京と亀山は平井と向き合った。
「本当にあなたがやったのですか?」
静かな声で右京が問いかけると、平井はわずかに眉を上げ、皮肉げに笑った。
「疑ってるんですか?」
「彩子さんが納得していません」と亀山が答えた。
その言葉に、平井は一瞬目を伏せる。そして、穏やかな口調で言った。
「善きことをなす人が罪を犯すこともある。それは刑事なら経験があるでしょう?」
右京はじっと彼を見つめ、話題を変えた。
「あなたの本棚にある時代小説、なかなかの品揃えですね。しかし、あなたの本棚にある唯一の漫画についても聞かせてもらえますか?」
平井の表情がわずかに硬くなる。
「『約束のヘブンズドア』ですね」
「……なんとなくですよ」
「なるほど」
右京はその本を手に取り、ページをめくる。繰り返し読まれた跡があった。紙の端がすり減り、色褪せている。他の本にはそのような跡はない。
「指紋を照合しましたが、これに付着していたのはあなたのものだけでした」
「……」
右京は本の内容を語り始めた。
「地獄のような環境で生まれ育った2人が、いつか2人で天国に辿り着こうと約束する話ですね」
平井は無言のまま聞いている。
「そしてその約束は非常に苛烈なものでした。『君を守る、君を傷つける奴は絶対に許さない』……2人はそう誓い、それを愚直に守ろうとする」
本は何度も何度も読まれた痕跡がある。まるで、そこに何かを刻みつけるように。
「彩子さんは言っていました。あなたは約束を守るために犯人として自首した、と」
「……だから?」
「あなたが本当に犯人だとするならば、なぜ被害者の母親にそこまで信頼された上で自首するのでしょう?」
平井は微笑し、ゆっくりと首を振った。
「あなたには隠し事ができないようですね」
「どういう意味です?」
「簡単に言えば、罪悪感ですよ」
「罪悪感?」
「連続殺人犯が罪にも問われずに野放しになっている。それが許せなかった」
「……」
「私が殺したのは為永祐希だけではありません」
室内の空気が張り詰めた。
「彼を殺す前に私は、三人殺しています」
亀山が息をのんだ。
「証拠を提示しましょう」
平井は穏やかに言った。
「施設の子供たちと埋めたタイムカプセルがあります。その中に証拠が入っています」
右京たちは、すぐにカプセルの埋められた場所へ向かうことになった。
――これは段階的に伝えられている。右京はそう感じていた。警察がどこまで動くのかを見極めながら、平井は少しずつ真実を明かしているのだ。
掘り起こされたタイムカプセルの蓋を開けると、そこから白い布が出てきた。
「これは……凶器ですね」
右京が静かに告げる。さらに、カプセルの中には三枚の写真が入っていた。為永祐希以外の、三人の死に顔の写真だった。
4人の死因
捜査本部の会議室では、伊丹憲一(川原和久)が資料を片手に、今回の事件について説明していた。
「被害者4名の遺体の写真を見てもらえば分かるが、これらは全て殺害直後のものだ」
机の上には4枚の写真が並べられている。それぞれ、石田浩介(塚本淳也)、中山葉月(北川雅)、岸本理子(高山夏姫)、そして為永祐希。
「平井の供述によれば、殺害の動機はすべて『女装を笑われたこと』にあったという」
しかし、伊丹は次の言葉を強調した。
「ただし、最初の3名の死因は、いずれも事故として処理されている」
彼は一枚の写真を指差した。
「石田浩介。事件当時42歳の会社員だ。散歩をしていた際に川に転落し、溺死体として発見された。当時の捜査では事件性なしと判断されていた」
次に、中山葉月と岸本理子の写真に目を向ける。
「この2人は同じ造園業者の見習いで、同居していた。死因は一酸化炭素中毒。深夜、2人が住んでいた部屋で事故が発生し、就寝中に死亡したとされている」
一連の説明を聞いていた右京は、伊丹の話を遮るように口を開いた。
「つまり、平井は元警察官であり、犯行のたびに巧みに偽装工作を施していたということになりますね」
右京の言葉に、中園照生(小野了)参事官が顔をしかめる。
「しかし、為永祐希だけは違う。彼は人気のない夜の公園で殺害されたのです」
「……何が言いたい?」
参事官が訝しげに問い返すと、右京は続けた。
「もし平井が、事件が起こるより前に為永祐希を知っていたとしたら、彼への犯行動機は他の3人とは異なるのではありませんか?」
伊丹は腕を組みながら答えた。
「そこは、もう平井にも聞いている。先の3人は、女装を笑われた後に尾行し、すぐに殺害できなかったため、準備をして犯行に及んだと供述している」
「しかし、為永祐希は違う」
「彼だけは、夜の公園で誰にも目撃されずに即座に殺せたということですか」
右京が静かに確認すると、伊丹は無言のまま頷いた。
「よし、これでいいだろう。特命係はここまでだ出て行け!」
参事官の指示で、右京たちは会議室を追い出されることになった。
特命係の部屋に戻ると、右京は椅子に腰掛け、考え込むように指を組んだ。
「衝動的な犯行であるにもかかわらず、為永祐希の殺害は、他の3人と同じように捜査線上に浮上しなかった。これは偶然だと思いますか?」
「つまり……為永祐希についても、事前に調べていた?」
亀山が考え込みながら答えた。
「ええ。そして、その前提に立つならば『女装を笑われたことが動機』という平井の供述は崩れることになります」
右京の指摘に、亀山はハッとした表情を浮かべた。
「じゃあ、他の3人と為永祐希には違う理由があったってことか?」
「そもそも、人を殺害し、それを隠すというのは相当大変なことです」
右京は続ける。
「偽装工作をするにしても、綿密な準備が必要でしょう。しかし、現時点では平井と4人の明確な接点は見つかっていません」
「……じゃあ、平井の単独犯行じゃなかったとしたら?」
亀山が言葉を絞り出すように尋ねる。
「ええ、その可能性は十分にあります」
右京の眼差しが鋭くなる。
「ただし、平井が事件に関与していること自体は間違いありません」
そう断言した右京の声が、部屋の中に静かに響いた。
『パパポリス』
彩子の案内で、右京と亀山は祐希の部屋を見せてもらった。机の上や本棚を見回しても、平井との接点を示すものは見当たらない。彩子も「関係はないと思います」と首を振る。
「祐希のことをずっと見てきましたけど、平井さんとは特に接点があったようには思えません」
しかし、何か手がかりがあるはずだと右京は部屋を細かく調べる。右京は部屋の中である封筒に目を留めた。封筒を手に取り、中を確認すると、そこには『パパポリス44』 というタイトルの漫画原稿が。作者は犬山犬彦とあった。
「マンガ?」
それは、出版されたものではなかった。8年前の出版社新人マンガコンクールで努力賞を受賞した作品だった。
「祐希くんが描いたものなんですか?」
亀山が彩子に尋ねると、彼女は首を振った。
「いえ……祐希は絵が得意ではなかったので、それは違うと思います」
友人にも確認したが、それらしい人物は思い当たらないという。
右京は原稿を慎重にめくり、マンガの内容を確認する。
「このマンガの主人公の少女は、警察官の養子になる話ですね」
「警察官の養子……?」
「普段は優しい父親が、マグナム44を手に巨悪と戦う物語です」
その説明を聞いた亀山はふとあることに気づく。
「……これ、平井さんに似てませんか?」
「ええ。そして、このパパポリスが所属するのは所轄の生活安全課少年係。つまり、平井さんと同じ部署ですね」
三人の接点
それ以上の手がかりを得るため、右京たちは美和子に協力を依頼し、「犬山犬彦」の正体を調べてもらうことにした。
その後、喫茶店で落ち合い、美和子から報告を受ける。
「調べてきたわよ。犬山犬彦の本名は北原莉央っていう女性だったわ」
美和子の言葉に、右京と亀山は頷く。
「8年前のコンクールで入賞したとき、彼女は21歳。つまり、今の年齢は29歳ですね。祐希くんと同じくらいの世代ということになります」
美和子はさらに調べた内容を伝える。
「彼女は当時、編集者とやり取りをしてデビューを目指していたみたい。でも、ある時期を境に音信不通になったのよ」
「デビューしたという話は?」
「それがね……その後、別の出版社からデビューした形跡もなかったのよ」
右京たちは、特命係の部屋に戻り、すぐに北原莉央の名前を調べ始めた。
「……ありましたよ」
名簿を見つめながら、右京が呟く。
「北原莉央の名前が、祐希くんが小学6年生の時の名簿に載っています。連絡先は児童養護施設『ポトス学園』になっていました」
その名前を聞いた瞬間、亀山の表情が変わる。
「ポトス学園って……平井さんが働いてる施設じゃないか!」
「ええ。つまり、北原莉央、平井葉一、そして為永祐希――この三人は、確かにどこかで繋がっているということです」
右京は静かにそう断言した。
自殺未遂
児童養護施設「ポトス学園」に到着した右京と亀山は、園長の藤本(西山水木)に話を聞いた。施設内は子どもたちの声が響き、穏やかな雰囲気が漂っている。しかし、右京たちが持ち込んだ話題は、それとは対照的に重いものだった。
右京は持参した封筒を開き、中から『パパポリス44』の原稿を取り出す。
「これは、北原莉央さんが描いた漫画ですね」
藤本は驚いた表情を見せたが、すぐに静かに頷いた。
「そうです。どうしてご存知なんですか?」
「この漫画のモデルは、平井さんではありませんか?」
右京が問いかけると、藤本は小さく笑った。
「よくわかりましたね。その通りです」
彼女は、右京たちに当時のことを語り始めた。
「莉央ちゃんは、平井さんに警察のことを取材しながら、この漫画を描きました。それで、新人マンガコンクールで努力賞をもらったんです」
しかし、その後の話は想像以上に深刻なものだった。
「でも……彼女は漫画を描くことをやめました。編集者とも連絡を絶ったんです」
「どうしてですか?」
「おそらく、描けなくなったのでしょう」
藤本は寂しげな表情を浮かべた。
「彼女は……自殺を図ったんです」
その言葉に、亀山は息をのんだ。
「……自殺?」
「幸いにも命は助かりました。でも、日常生活を送れるようになるまでには、3年もの時間がかかりました」
「3年……」
「なぜ彼女が自殺をしようとしたのか、その理由はわかりません。ただ、彼女が意識を取り戻した後も、以前のように漫画を描くことはなくなりました」
「平井さんは?」
「彼はずっと莉央ちゃんの見舞いを続けていました。けれど……莉央ちゃんが意識を取り戻すと、急に訪れなくなったんです」
「それはいつ頃のことですか?」
「……5年前です」
亀山が眉をひそめる。
「5年前って……祐希くんが殺された頃じゃないか」
右京は静かに考え込んだ。
「つまり、莉央さんの自殺未遂と、5年前に始まった一連の殺人事件には、何らかの関係がある可能性が高いということですね」
平井は、なぜ莉央が意識を取り戻した途端、彼女のもとを去ったのか。そして、なぜその時期に殺人が始まったのか。その答えを知るために、右京たちはさらに事件を掘り下げることにした。
莉央の正体
右京と亀山は、北原莉央の自宅を訪ねた。ドアをノックし、しばらく待つと、応対に出てきたのは意外な人物だった。
「……ミヨさん?」
そこにいたのは、彩子の支援活動を手伝っていたミヨこと北原莉央(御子柴彩里)だった。
「お2人が私に何の用ですか?」
警戒するような目で見つめる莉央に、右京は静かに口を開く。
「あなたと為永祐希さんの関係について、お聞きしたくて伺いました」
莉央は少し迷うような表情を見せた後、部屋へと招き入れた。
「祐希くんとは、小学校の同級生でした。でも、卒業してからは一度も会ってなかったんです」
テーブルに座りながら、莉央はぽつりぽつりと話し始めた。
「でも……二十歳ぐらいのときに偶然再会しました。そのとき、私がマンガを描いてるって話したら、読んでみたいって言われて。それで、マンガの原稿を貸しました」
「その後も、交流があったのですか?」
「いいえ……ほんの短い間、会っていただけです」
「では、あなたを通じて平井さんと為永さんが会っていたということは?」
「ないです」
莉央はきっぱりと答えた。
「事件のニュースを見て、初めて知りました。家族が犯人を探していることも。ちょうど仕事もしていなかったし、何か手伝えたらと思って、彩子さんの支援活動に加わったんです」
亀山が首を傾げる。
「でも、どうしてミヨなんて偽名を使ったんですか?」
莉央は苦笑し、少し目を伏せた。
「彩子さんは私のことを覚えてなかったし……私みたいな子、支援活動に入れたくないんじゃないかって思ったんです」
「なぜそう思ったんです?」
「……小学生のとき、祐希くんが、お母さんに言われたって話してたんです。『ああいう子とは付き合うのをやめなさい』って」
彼女は力なく笑った。
「それを思い出して……なんとなく偽名を使っちゃいました」
右京と亀山は、しばらく黙って彼女の言葉を噛みしめた。
「では、平井さんの事件については、本当に何も知らなかったのですね?」
「はい……」
静かに答える莉央の表情には、偽りの気配はなかった。
「ところで、『パパポリス』の続きを見てみたいのですが……もう漫画は描いていないのですか?」
右京が尋ねると、莉央は少しだけ寂しそうな顔をした。
「描いてません。もう……いろいろあって」
そう呟いた彼女の声は、どこか遠くを見つめるような響きを持っていた。
殺人の告白
右京と亀山が彩子にミヨの正体を伝えると、彼女は驚き、目を丸くした。
「……ミヨちゃんが、莉央ちゃん?」
小さく呟いた後、彩子の表情が少しずつ変わっていく。驚きから戸惑いへ、そしてどこか後悔の色が滲んだ。
「彩子さん……昔、祐希くんにこう言いましたか?『ああいう子とは付き合わないほうがいい』と」
右京の問いに、彩子はふと目を伏せた。そして、静かに息を吐きながら、ゆっくりと頷いた。
「……言ったことがあるかもしれません」
その言葉には、過去の自分を責めるような響きがあった。
「若い頃は、条件だけで人を判断していたんです。自分は何の能力もないくせに、ちょっとモテていたから……調子に乗っていました」
自嘲気味に笑いながら、彼女は続けた。
「でも……息子がいなくなって、夫にも愛想を尽かされて離婚して、一人になって……そんなとき、支えてくれる人ができたんです。平井さんや、ミヨちゃんが」
その言葉に、亀山がそっと視線を向ける。
「こんなに優しい人っているんだな、って思ったんです。だから、私も人に優しくしなくちゃって……そう思い始めたんです」
彩子は、静かに引き出しから一枚の写真を取り出した。
「実は……犯人の目撃情報があったとき、少し遠出したことがあるんです。そのときに撮った写真なんですけど……」
そう言って差し出された写真には、彩子、平井、そして莉央の三人が写っていた。
「この日、一日中三人で一緒にいました。道行く人には、家族と間違えられたりもして……」
写真の中の三人は、確かに笑っていた。
「楽しかったんですよね……あのときは」
彩子の声がわずかに震えた。
「平井さんが犯人で……ミヨちゃんがミヨちゃんじゃなくて……私は何を見ていたんでしょうか?」
そう呟きながら、彼女は肩を落とした。
右京と亀山が彩子の家を出ようとしたとき、右京の携帯が突然鳴った。着信の表示を見ると、それは莉央からだった。 電話を取ると、低く静かな声が耳に届いた。
「……私がやりました」
「え?」
「私が主犯なんです」
莉央の言葉に、右京は思わず立ち止まった。
「証拠もあります」
静寂の中、彼女の声だけが響いていた。
レジリエンス
特命係の部屋で、右京は伊丹たちに『パパポリス 復讐編』の原稿を見せながら話し始めた。
「この事件、ひねくれてやがる……」
伊丹は漫画を手に取り、眉をひそめた。
「つまり、平井はこの漫画の内容に沿って、犯行を重ねていたというわけですか?」
「ええ。少なくとも、犯行の計画がこの作品によって形作られていたことは間違いありません」
伊丹が溜息をつく。
「漫画を復讐のシナリオにするとはな……とんだ脚本家気取りだ」
すると、亀山が一歩前に出て言った。
「俺たちも捜査に参加させてもらうぞ」
伊丹はちらりと彼を見たが、何も言わずに頷いた。
取調室では、出雲麗音(篠原ゆき子)が莉央に『パパポリス 復讐編』を見せていた。
「これは、あなたが描いたものですね?」
「……はい」
莉央は観念したように答えた。
「平井さんに、この漫画の通りに復讐してくれと頼んだんですか?」
麗音の問いに、彼女は静かに頷いた。
「そうです。そのために描きました」
一方、別の取調室では、平井が厳しい視線を向けられていた。
「彼女との接点は認めます。しかし、断じて私の単独犯行です」
平井の声は落ち着いていたが、伊丹は怯まない。
「動機について改めて聞かせてもらおうか」
すると、平井は小さく笑った。
「レジリエンスという言葉をご存知ですか?」
「……?」
「人間に自然に備わった回復力のことですね」
右京が答えると、平井はゆっくりと頷いた。
「私は少年係の立場で、多くの子どもたちを見てきました。見たくない現実ばかりでしたが……それでも、彼らが困難を乗り越えていく姿は、私自身の救いだったんです」
「北原莉央とは、どうやって知り合った?」
伊丹が問いかけると、平井は少し遠くを見るように言った。
「非番の時、児童養護施設に顔を出して、子どもたちと遊ぶボランティアをしていました。そのとき、彼女と出会いました」
莉央もまた、取調室で同じ記憶を語っていた。
「それから、たまに会って話を聞いてもらうようになったんです。平井さんと話す時間が、自分にとって大切なものでした」
彼女の言葉を聞きながら、麗音はゆっくりと質問を続ける。
「平井さんは、あなたに何か誓ったことがあったんですか?」
莉央は微かに笑った。
「『君を守る。君を傷つける奴は絶対に許さない』……そう誓ってくれました」
「為永祐希さんとは、どんな関係だったんですか?」
「……初恋の人でした」
莉央は静かに語る。
「でも、小学生のときに、祐希くんのお母さんに言われたんです。『ああいう子とは付き合わないほうがいい』って」
その言葉がどれだけ心をえぐったか、今でも忘れられない。
「それでも、再会したとき……祐希くんとは恋人関係になったんです」
「彼も、何か誓ったんですか?」
「ええ……」
莉央の声が震えた。
「『君を守る。君を傷つける奴は絶対に許さない』って……」
まるで、平井と同じ言葉だった。
「彼女は美術専門学校に進学しました。コンクールにも入賞して、恋人もできた。初めて彼女の口から『幸せ』って言葉を聞いた」と平井は語った。
しかし、その直後に彼女は自殺を図った。
「理由がわからないまま、彼女を見舞い続けました」
平井は取調室で語っていた。
「そして、3年前に意識を取り戻したんです」
病院のベッドで目を覚ました莉央は、虚ろな目で天井を見上げていた。
「……なんで、こんな世界に戻ってきちゃったんだろう……」
それを聞いた平井は、そっと彼女に語りかける。
「何があったかわからないけど、人間には回復する力がある。きっと元気になるし、また漫画を描けばいい」
そう励ました平井の言葉に、莉央はただ、ぼんやり天井を見上げていた。
事件の真相
「私は怒りと恨みの中で漫画を描いたんです。平井さんに伝えるためだけに」
莉央はそう言った。
彼女の口から語られたのは、8年前のある晩の出来事だった。
その日、莉央と祐希は一緒に歩いていた。何気ない帰り道だった。そこへ、2人の女が絡んできた。中山葉月と岸本理子だった。2人は悪意に満ちた視線を向けながら、軽薄な口調で話しかけてくる。
そこへ、たまたま通りかかった石田に、軽い口調で言った。
「500円で2人と遊ばせてやるよ」
その瞬間、祐希の顔が強張った。莉央が驚いて振り向くと、彼は逃げ出した。莉央を置いて、ただ自分だけを守るために。
その結果、莉央は石田にレイプされた。
「それを、平井さんは漫画を読んで知ったんです」
莉央の声は静かだった。
「漫画の後半は、私が望んだことです」
「漫画によって加害者への復讐を教唆したと?」
麗音が鋭く問いかける。
「そうです。だから私が主犯なんです」
「莉央さんに殺人を教唆されたことを認めるか?」
伊丹が平井に問いかける。しかし、彼は静かに首を振った。
「それは断じて違います」
「あなたは警察官だった。なぜ、法の裁きに委ねなかったんですか?」
右京の問いに、平井は少し目を伏せ、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「最初から復讐に乗り気だったわけではありませんでした。まずは……加害者たちの調査から始めました」
石田は再就職し、スナックのママにプロポーズをしていた。中山と岸本は更生し、植木職人を目指していた。為永祐希は、新しい恋人を作っていた。
「私は、心底実感したんです。人間は、罪悪感からも回復してしまう……」
平井の目が鋭くなった。
「加害者たちを罪に問うことはできても、それに釣り合う罰はない。為永祐希については、法的に裁くことすらできません」
だから、4人に法を超えた裁定を与えた。警察官としての知識を使い、犯罪を巧妙に計画し、実行した。
「そして、漫画のラストシーンではこう描かれていましたね」
右京は続ける。
「母親に近づき、信頼を得た後で、自分が犯人だと告げる。そして、その母親の心は壊れ、彼女の復讐は結末を迎える」
亀山が莉央を見つめながら尋ねる。
「平井さんは君がきてどういう反応を?」
「事件のことを聞きましたが、平井さんは否定しました。支援者として彩子さんに協力しているだけだと」
「彩子さんは、三人で過ごした時間を大切に思っていたよ」
その言葉を聞いた莉央は、堪えきれず涙をこぼした。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
彼女は震える声で続けた。
「本当のことを言おうと思ったけど、3人の時間を壊す勇気がなくて。私にとっても居心地良かったんです……」
再び平井の聴取。
「すべて、私が一人でやったことです」
平井は静かにそう言った。
しかし、右京はさらに問いかける。
「ああいう子とは付き合わないほうがいい」
その言葉が引き金となり、息子は殺された。それを知った母親にすべてを告げることで、復讐は完結するはずだった。
「しかし、あなたは本当の犯行動機を隠そうとしていた。最後の最後で、彩子さんへの配慮をしていた」
「……」
「彩子さんは、死ぬ前に本当のことを知りたいと僕に言いました。何か、彼女に伝えたいことはありますか?」
しばらく沈黙が流れたあと、平井は静かに口を開いた。
「本当に……レジリエンスとは驚くべきものです」
その言葉には、痛みが滲んでいた。
「私は、彩子さんの息子を殺しておきながら……この人は傷つけてはいけない人だと思ったんです。傷つけるために近づいたにもかかわらず……」
彼の目に、かすかに涙が浮かぶ。
「一方的な思いですが……彼女を……愛してしまった……」
彩子を愛しながら、莉央のための復讐に生きる。
「私は……引き裂かれた」
「それでも自首をすることで復讐を完結させつつ、彩子さんとの約束も守ることになる」
「私には……こうするしか道がなかったんです……」
平井の声が震えた。
「言い訳です!」
右京の声が響いた。
「あなたは、追い詰められた自分から逃げただけです」
平井の肩がわずかに揺れる。
「もしあなたが復讐を実行しなければ、莉央さんが罪悪感を覚えることはなかった。彩子さんの心をもてあそび、傷つけることも」
右京は鋭く平井を見つめた。
「1人の男の身勝手な正義と倫理が、2人の女性の人生を破壊したんです。そしてそれはもう2度と、回復しませんよ」
その言葉に、平井は嗚咽を漏らし、肩を震わせながら泣き崩れた。
【相棒23】13話の結末
病室の窓から、淡い陽の光が差し込んでいた。病床に横たわる彩子のもとへ、美和子が静かに足を運ぶ。
彩子は穏やかに微笑みながら、美和子を見つめた。
「あの人とはたった一度だけ手が触れた…それだけ」
彼女は遠くを見るように、静かに語った。
それがすべてだった。和田彩子と平井葉一が再び会うことは、二度となかった。
こてまりの店内は、温かな灯りに包まれ、捜査を終えた特命係の面々が打ち上げをしていた。
「約束を守ることよりも、自分が約束を守ることに夢中になっちゃったんですかねえ」
小出茉梨(森口瑤子)がしみじみと呟くと、誰もがそれぞれの思いを巡らせた。
「もし、自分が同じ目にあったらどうするかな……」
美和子の言葉に、亀山は少し考え込む。
「俺は刑事だ。復讐はしない。絶対に駄目だ」
そう言い切ったあと、少し眉をひそめ、腕を組んだ。
「……うーん、でも……」
はっきりとした答えは出せなかった。
莉央は殺人教唆には問われず、釈放された。その後、右京は莉央に会い、紅茶をプレゼントする。
「初めて会った時に約束した紅茶です。漫画家さんは徹夜も多いと聞きますからね。そんなときは、紅茶を飲んで、筆を振るっていただければ……」右京は静かに言った。
莉央はその紅茶を受け取り、そして再びペンをとった。彼女はもう一度、漫画を描き始めた。
ある日、特命係に一つの封筒が届いた。中には、一冊の漫画の原稿が入っていた。タイトルは『歩いている』犬山犬彦とあった。
自らの足で歩き始めた女性が、歩み続け、やがて高い空を見上げる――そんな一編だった。
ページをめくるたびに、その静かな強さが伝わってくる。読み終えた2人はただ静かに、物語の余韻に浸っていた。
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【相棒23】13話のまとめと感想
自分が受けた屈辱を漫画で伝えて、代わりに復讐してもらったという話でした。
この悲劇の発端は何だったのか?考えてみると彩子が小学生の莉央に「こんな子と付き合っちゃ駄目」と言ったのが始まりだったのではないかと思います。莉央の心にはそれが生涯トラウマとして、深く心に突き刺さっていた気がします。
施設にいるのは莉央のせいでもないのに、彩子は後に自省しますが「若い頃は条件だけで人を判断していた」と言います。その結果、「こんな子と付き合っちゃ駄目」に繋がりました。
そんな親に育てられた息子なので、祐希は莉央を置いて逃げました。その結果、莉央だけが酷い目に遭います。
莉央は自殺未遂するほどまで追い込まれたのに、加害者はみな“レジリエンス”して人生を謳歌します。今回の話は自己再生を皮肉った話でした。つまり「悪いやつほどよく眠る」のです。
誰も救われない話ですが、最後に莉央がまた自分の足で一歩踏み出す、少し前向きな終わり方をしたのがせめてもの救いでした。
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