2025年5月31日にフジテレビ放送された【世にも奇妙な物語 35周年SP~伝説の名作 一夜限りの復活編~】の2話目、大杉漣さん主演の『夜汽車の男』ネタバレと感想をまとめています。
夜汽車で弁当を食べようとするハードボイルド風の男。彼にはこだわりの食べ方があった。だが、緻密に考え抜かれた流儀を狂わす、まさかの大誤算が……。
ネタバレ
順調に食べ進める男だが、弁当を落とした際に入っていたソースがあらぬ場所に見つかる。既に醤油をかけてしまっていた男は、大誤算に頭を悩ませる。このフライがカツならソースだが、もし白身魚だったら?キャベツにかけてしまったマヨネーズについても悩み始める。
男はこれがカツだと信じ、付属のレモンを絞りソースをかける。そして口にした瞬間、勝利を確信した。
なぜ男は最後にイカのリング揚げを食べると決めていたのか?その理由は幼少期の思い出にあった。
菜の花畑に学校遠足で行った時、他の子供たちはおかずの入った弁当を食べていた。だが、男の弁当箱には握り飯が2つ入っているだけだった。男はそれが恥ずかしく、1人で弁当を食べる。
そこにクラスの美少女が現れ、おかずのない自分にイカのリング揚げを差し出してくれた。男はその時のことを思い出し、涙を流しながら一口食べる。だがそれはオニオンリングだった。
弁当を食べる準備
列車に中折れ帽をかぶり、トレンチコートを着たハードボイルドな男(大杉漣)が乗ってくる。子供(三瓶義貴)にぶつかられて手にしていた袋を落とし、拾い上げてから席に腰を下ろす。車掌(小林隆)に乗車券を見せ終えると、「これでもう邪魔は入らない」と呟きながら、弁当の包みを解いた。
弁当の中身は、だし巻き卵とかまぼこ。煮物はしいたけ、にんじん、かぼちゃ、きんぴら。そしてブロッコリーの天ぷら。漬物にはしば漬け。うぐいす豆が入っているのが嬉しい。ご飯の上には黒ごまと梅干しがのっている。
メインのおかずは二つのフライで、レモン、千切りキャベツ、レタスが添えられている。男は中身を推測する。カツか白身魚か。白身魚ならタルタルソースがつくはずだと考え、これはカツだと判断する。もう一つのフライはイカのリング揚げだと目星をつけた。
食事のスタイル
食事のスタイルには大きく分けて、西洋式と東洋式がある。西洋式はメインのおかずに向かって一品ずつ順番に片付けていく方式であり、東洋式はメインのおかずを中心に据えつつ、他のおかずを交互に挟みながら進めていく形式である。
男には独自の食べ方があった。だし巻き卵を一口、柴漬けを一口、かまぼこを一口といった具合に、表面上は東洋式に見えるが、メインのフライには一切手を付けずに食事を進めていく。そして、フライ以外のおかずをすべて食べ終えてから、西洋式のようにメインディッシュをじっくり味わうというのが彼の流儀だった。
まずカツから口にし、最後にイカのリング揚げで締めくくる。男はそう心に決めていた。
ご飯の配分
おかずの攻略順が定まれば、次に考えるべきはご飯の食べ進め方である。鍵となるのはおかずに含まれる塩分と脂肪分。塩分や脂肪が多いおかずほど、ご飯の消費量が自然と増える。そのため、それぞれのおかずに対して必要となる、ご飯の量をあらかじめ計算しておくことで、食事の終わりにご飯だけ、あるいはおかずだけが残るといったバランスの崩壊を防ぐことができる。
男は帽子を脱ぎ、割り箸を手にすると、思わず「いただきます」と口にした。その瞬間、周囲の乗客たちが一斉にこちらを振り返った。気まずさに小さく身をすくめつつ箸を割るが、動揺のせいか、真っ直ぐに割ることができなかった。
実食
だし巻き卵を一口。予想通り、無難な味わい。可もなく不可もなく、安心感のある一品。続いてしば漬けを一口、これもまた無難。想定の範囲内で、特筆すべきものはない。
ごはんを一口。やわらかく炊かれており、黒ごまの量もちょうどよい。口の中でほどける食感に、自然と次の一口を誘われる。
かまぼこに箸を伸ばす。これが意外。見た目に反して、しっかりとした歯ごたえがある。単なる脇役ではない主張を感じる。
次のおかずへと進み、ブロッコリーの天ぷらを選ぶ。衣の中にほんのり塩気が効いており、素材の甘みを引き立てている。ただし、もう少し味が濃いほうが満足感は高かったかもしれない。
アクシデント
続いてきんぴらを口に運ぶ。だが、予想以上に塩気が強い。思わずご飯の量が増えそうになる衝動に駆られるが、そこで男はうぐいす豆に箸を伸ばす。程よい甘さが舌をなだめ、ご飯への欲望を落ち着かせてくれるからだ。
だがその瞬間、箸から豆が滑り落ちた。反射的に弁当箱でそれを受け止める。うぐいす豆ひと粒の落下。それだけで、割り箸を慎重に割らなかったことを悔やんだ。
以後は慎重に、手を添えながら豆を口に運ぶことにした。
苦手なもの
そろそろ苦手な椎茸とカボチャに取りかかる時が来た。本来であれば濃い味のおかずで食材の癖を打ち消したいところだが、今回はそうもいかない。代わりに梅干しをひとつ口に含み、唾液の分泌を促して後味の不快感を和らげる。
二度目のかまぼこ。今度はすぐには飲み込まず、しばらく口の中で転がしてみる。飾り切りされたにんじんにも目が行く。こうした細かな工夫は、思いのほか嬉しいものだ。
ご飯としば漬けの相性は申し分ないが、しば漬けとお茶の組み合わせもまた捨てがたい。ここで初めてお茶に手を伸ばす。いよいよ、ここからが本番である。
まさかの誤算
いよいよメインディッシュに取りかかる時がやってきた。バランとアルミカップを取り除き、真正面からフライと向き合う。まずはマヨネーズをキャベツにかけ、続いてカツにしょうゆをかける。
だが、ここで違和感が走る。なぜソースではなくしょうゆなのか。予想外の調味料に一瞬戸惑う。思わずレタスの後ろを確認すると、そこに隠れるようにソースのパックが挟まっていた。なるほど、しょうゆはブロッコリーの天ぷら用だったのかもしれない。
そういえば、さきほど子供にぶつかられて弁当を落とした。あの時、調味料の配置が崩れてしまった可能性がある。思わぬ誤算だった。
さらに考えがめぐる。マヨネーズは、もしかするとタルタルソースの代用だったのではないか。つまりこれは白身魚フライだったのか。いや、あるいはマヨネーズは白身魚用で、ソースはキャベツ用という変則パターンかもしれない。
カツならソースをかけ、白身魚ならマヨネーズをかけるべき。だが、もし判断を誤れば、味の整合性が崩れる。男は、ソースとマヨネーズの両方を手にし、しばし思案に沈んだ。
勝負の結果
すでにカツに醤油をかけてしまったという事実がある。だが、ここにソースやマヨネーズを追加したところで、大きな問題にはならない。
たとえば冷奴に、うっかりソースやマヨネーズをかけてしまえば、それはもはや修復不能の失敗となる。しかし今回のケースは違う。カツか白身魚か、その見極めさえ誤らなければ挽回は可能だ。
思考を巡らせていたそのとき、おもちゃのパトカーが通路を走ってきた。サラリーマン(小原雅人)がそれを拾い上げ、「うるさいんだよ」と母親らしきケバイ女性(池津祥子)に苛立ちをぶつける。車内の空気がざわつきはじめ、あちこちで言い争いの声が響く。
男は心の中で「邪念、排除」と呟き、再び弁当に意識を集中させる。そして、カツにレモンをしぼり、ソースをかけた。
一口かじる。噛みしめた瞬間、男は小さく「勝った」と呟く。残るは、最後の一品――イカのリング揚げのみとなった。
ドラマの結末
菜の花が咲き誇る春の日、遠足の昼食時間。子どもたちは輪になって弁当を広げていた。みんなのお弁当はおかずとご飯が分かれている弁当だった。
幼少時の男(柿澤司)は恥ずかしさから一人で食べることにし、弁当箱を開ける。男の弁当箱には握り飯が2つ入っているだけだった。おにぎりを一口かじっていると、クラスの美少女(篠原愛美)がそっとイカのリング揚げを差し出してくれた。あの瞬間の温かさを、男は今も忘れていなかった。
その記憶がよみがえり、男の目からひとすじの涙がこぼれる。彼はそっとイカのリング揚げを口に運ぶ。そして箸を置いた。
かじった断面から現れたのは、衣に包まれた玉ねぎだった。思いがけない真実に、男は小さくつぶやく。
「タマネギ…」
『夜汽車の男』のまとめと感想
初回放送は2002年のどちらかというとシュール系の話です。いわゆる『孤独のグルメ』のような話です。それもそのはず、原作の泉昌之氏は泉晴紀氏と孤独のグルメの原作者である久住昌之氏のコンビです。
今は亡き大杉漣さんが一人語りで黙々と食べ、時には悩んだり喜んだりしながら、最後にはイカリングではなくオニオンリングだったという、落語のようなオチで終わります。大杉さんが演じていることで間延びせず、最後まで楽しく見れました。
なにげに若いカップルの男役で、今は色んなドラマに出演する、正名僕蔵さんが出演しているのに驚きました。久しぶりに大杉さんの姿が見れて嬉しかったです。