2020年12月20日にNHK BSで放送されたドラマ【うつ病九段】のネタバレと感想をまとめています。
キャストとあらすじの他、ドラマ最後の試合結果まで、調べて補足しています。
【うつ病九段】のキャストとスタッフ
キャスト
- 先崎学…安田顕
プロ将棋棋士九段。将棋連盟の広報担当 - 先崎繭…内田有紀
先崎の妻で囲碁棋士 - 先崎春香…南沙良
先崎の娘で高校生 - 先崎章…高橋克実
先崎の兄で精神科医 - 中村太地…渡部豪太
プロ将棋棋士七段。先崎と兄弟弟子 - 鈴木大介…宇梶剛士
プロ将棋棋士九段。将棋連盟常任理事 - 佐藤康光…前川泰之
プロ将棋棋士九段。将棋連盟会長 - 羽生善治…土屋伸之
プロ将棋棋士九段。国民栄誉章棋士 - 藤井聡太…鈴木福
プロ将棋棋士七段。数々の記録を塗り替える天才棋士 - 田中悠一…永嶋柊吾
プロ将棋棋士五段。先崎の後輩 - 米長明子…高畑淳子
先崎の師匠、米長邦雄永世棋聖の妻 - 佐々木寛治…寺島進
同じ病室の患者 - めぐみ…福地桃子
同じ病院の患者 - 山崎…野口かおる
看護師 - 大久保医師…湯江タケユキ
先崎の主治医 - 水野サキ…ついひじ杏奈
春香の友人 - 加藤桃子…伊藤梨沙子
- 渡辺和史…きづき
奨励会会員 - 村中秀史…石田亮介
- イベント司会者…宇賀なつみ
スタッフ
- 原作:先崎学『うつ病九段』
- 作:小松與志子
- 演出:吉田浩樹
【うつ病九段】のあらすじ
2017年、将棋連盟の広報担当だった先崎学(安田顕)は、将棋界で起きた問題の対応に追われていた。
対局の日、先崎は盤面を見ても手が思いつかなくなってしまう。そして、その勝負は先崎が投了して終わった。
自宅に戻り妻の繭(内田有紀)は具合の悪そうな夫に、映画のイベントに行くことをやめるよう告げる。しかし、先崎は将棋界のイメージアップのため無理を押して参加する。
壇上でマイクを向けられても先崎はぼーっとして頭が回らない。隣で一緒に参加していた兄弟弟子の中村太地(渡部豪太)七段が心配そうに彼を見ていた。
先崎は自宅で「死にたい」と言いながらうろうろ歩き回り、外へ出て踏み切りを越えて電車に飛び込みたい衝動に駆られてしまう。
心配した妻は義兄の先崎章(高橋克実)に相談し、兄が自宅へやってきて下した診断は“うつ病”だった。すぐに入院を勧める兄に、先崎は不戦敗をするのは嫌だと拒む。だが、うつ病を甘く見ないほうがいいとの助言に従い入院を決意する。
花の色も分からない様子の先崎。看護師の山崎(野口かおる)が繭に、彼の目にはモノクロの世界に見えていると言う。同じ部屋の佐々木寛治(寺島進)はうなされている先崎を見て同情し、自分のいきさつを語る。
ある日、将棋連盟の鈴木大介(宇梶剛士)九段と、佐藤康光(前川泰之)九段が病室に見舞いにやってくる。9月には復帰したいと語る先崎だが、変わり果てた姿を見て、復帰の日取りの返事の猶予を与える。兄の章も見舞いに来るが、復帰を急ぐ先崎に無理だと告げた。
しかたなく先崎は休場届に3月31日まで休むと書き、それを鈴木九段に渡した。
どこか地方で将棋教室でもやろうかと語る先崎。繭は勝負師の夫が将棋を指せないことを悲しむ。
やがて繭も疲弊し始めていた時、娘の春香(南沙良)が励ます。そして、自分が母の代わりに見舞いに行くと言い出すが……。
【うつ病九段】のネタバレ
ネタバレは5つになります。
- 復帰までの時系列
- 退院前
- 退院後
- リハビリ
- ドラマの結末
結論から言うと、先崎九段は2018年7月に公式戦に復帰します。
ドラマでは対局の結果が描かれませんが、調べて結果も記載しました。
1.復帰までの時系列
先崎九段が入院から復帰までの時系列を簡単にまとめました。
ドラマ内での日付を元に構成し、段位は当時のものになります。
- 2017年
7月第76期順位戦B級2組対局中に頭が冴えず敗北
- 7月26日聖都大学病院に入院
2018年3月31日まで休場届を提出
- 9月退院
- 10月囲碁・将棋スペース「棋楽」オープン
田中悠一五段と将棋を指すリハビリ
- 10月11日中村太地七段が、第65期王座戦にてタイトル獲得
- 2018年
1月師匠の故・米長邦雄永世棋聖宅へ挨拶- 夫人から駒を預かる
- その駒を使用して中村太地七段と指し勝利
- 7月第77期順位戦B級2組
中村太地七段との対局
2.退院前
退院する前に起きた出来事をいくつかまとめます。
娘の春香が母の代わりに見舞いに来ますが、父のあまりにも変わり果てた姿を見てショックを受けます。
娘は父に声をかけられず、そのまま遠くから見ているだけでした。そしてそのまま帰ってしまいます。
中村・田中両氏が見舞いにやってきますが、先崎は2人に「もう少し小さい声で話して。明るい話題で無理に盛り上げようとしないで」と頼みます。
その後、兄にメッセージで2人が見舞いに来てくれて嬉しい反面、どんどん疲れていくと送りました。すると兄は「必ず治ります」と猫のスタンプつきで返信をくれます。
同じ病院に入院するめぐみと話す機会があり、先崎は彼女が入退院を繰り返していることを聞きます。
なぜなら、彼女は不安になると肉体を傷つけたくなる発作が起きるといい、自傷を繰り返していたのです。
先崎はそうならない?と聞かれ、以前はなったけど今はそうならないと答えます。
やがて、主治医から退院の時期を探るという話になります。先崎に自殺の心配はないと判断されたからです。
しかし、家に戻ってからが大変だと兄は言います。感情のコントロールができず、家族に当たることがあるからです。
ある日、神宮外苑での花火大会があり、同室の佐々木に誘われ談話室から花火を見ます。
最初はモノクロにしか見えなかった花火。突然色つきに見えるようになり、やってきた妻はそれを聞いて涙しました。
自殺の心配がなくなり、世界が再びカラーで見えるようになった。
3.退院後
規則正しい生活をするよう言われて退院したものの、朝が起きられず繭に注意されます。
先崎が研究会用に借りた部屋は、繭が囲碁・将棋サロンとしてオープンさせることになりました。
ようやく起きた先崎は外に行き、繭も夫と離れるためサロンオープンの準備に向かいます。
そうしてオープンしたサロンに、先崎は代表挨拶をしに行きます。しかし、まだ本来の調子は取り戻せていません。
来た客に指導をして欲しいと言われて盤面を見ますが、まったく何が何だか分からない状態です。
そこで鈴木大介九段が代わりに指導をしてくれますが、先崎はショックからかふらふらとどこかへ行ってしまいます。
心配した妻が先崎を責めると、彼はキレて繭に当たります。サロンを作ってくれなんて頼んでいないと怒る先崎に、繭はショックを受けて涙を流します。
行き場の無い苛立ちと不安から、先崎は自分の部屋にある本などを投げ捨てて物に当たります。将棋の駒も投げ捨てようとしますが、思いとどまって駒を握り締めたまま泣き出しました。
繭は義兄に話すと、本当は感謝している、将棋ができない辛さをぶつける相手が繭しかいないんだと慰めます。
繭は落ち着きを取り戻し、かつて先崎が元気だった頃、一度だけ対局の内容を自分に語ってくれた話をします。
それは、素人の自分でも分かるような“美しい手”だった。あの人がまた美しい手を指すのが見たい、繭はそう願います。
しかし義兄はまだまだ時間がかかるだろうと言い、失ったものの大きさに負けなければいいんだがと心配しました。
将棋を指せない苛立ちから妻に当たる
4.リハビリ
妻に当たっていた先崎ですが、一人で散らかした本を片付けていくと、ある一冊の本に目を留めます。
それは初心者向けの詰め将棋の本で、先崎は散歩がてら本を読み始めました。
病を発症する前は簡単に解けた詰め将棋が、今ではまったく分からない状態に。
そんな自分を「数学の先生が算数を解けなくなったようなもの」だと彼は言います。
苦悩する先崎を見た娘は、クラリネットを吹いて陰ながら応援をしました。
自宅に戻った先崎はソファで寝てしまい、持っていた本が落ちるとそこには“せんざきまなぶ”とひらがなで名前が書かれていたのです。
彼は一から将棋をやり直そうと思い、子供の時に読んでいた本を持ち出していたのでした。
ある日、家族で山登りをします。娘の春香は自分のやりたいことが見つからず進路に悩んでいました。
そんな娘に先崎は自分が棋士になった理由を話します。自分の場合はこれしかなかった、気がついたら将棋で勝つという道しかなかったと。ちょうど今の娘と同じ年齢くらいで、先崎はプロになりました。
また明日もやりたいと思うものを探せばいいと、先崎は娘にアドバイスを送ります。
テレビでは藤井聡太四段が最速50勝を達成したと放送していました。先崎は焦りを感じ、将棋がまた打ちたいと思い始めます。
しかし、リハビリに指すための相手がいないと悩んでいました。兄弟弟子の太地は王座戦に挑んでいるので呼べない。そこで繭が田中五段に電話をしてみたらどうかと勧めます。
快く応じてくれた田中五段と先崎は棋楽で対局を始めました。ですが、田中五段の指した手の読み筋が分からず、先崎はどうしたらいいのか悩みます。なので、自分の手だけを考えて打つと、案の定負けてしまいました。
手を抜かずに対局してくれた彼に感謝をする先崎。田中五段は先崎が相手で手を抜くはずがないと敬意を表しました。
自宅に戻り妻に今日の対局の話をする先崎ですが、彼女は頭を使い過ぎる夫を心配します。一度は寝てもまた起きて将棋盤に向かう夫。繭がやめてと頼んでも、また打てなくなる恐怖から先崎はやめません。
ならばと妻が自分と指そうと提案し、気が済むまで付き合うと言いました。妻の言葉に先崎の目からは涙が溢れます。
徐々に将棋を指し始める
5.ドラマの結末
兄弟弟子の中村七段が羽生善治九段の持つ王座に挑戦します。先崎と妻はテレビで対局を見て応援をし、その結果中村七段が勝利し初タイトルを獲得しました。
先崎は中村七段が指した手を見て、“美しい手”だと感心し、自分もあそこへ戻らなければと決意します。
奨励会の会員である渡辺和史氏と対局をしている時、「棋士になってから、こんなに一局一局しがみつくように指してきたことは、なかったような気がするよ」と先崎は言います。
兄と一緒に居酒屋に行く先崎は、将棋でうつ病を治したいんだと言い、強くなって戻らなければ意味がないと力説です。
中学生の時、先崎がいじめられていたことを兄は思い出します。自宅の壁に落書きをされ、母親はそれでも黙って消していたと。あの時、母が何も聞かないでいてくれたことが助かったと先崎は言います。
そして、あの日から学校に行かず将棋連盟に行くようになったと。教師でさえ将棋のプロになると言ったら偏見を持っていた時代、先崎はいじめも将棋で乗り越えて来たのです。
年が明けて2018年の1月。亡き師匠の米長邦雄永世棋聖の自宅へ挨拶しに、妻と一緒に向かいます。
迎えてくれた米長明子夫人は、夫がずっと使っていた将棋盤と駒を見せてくれました。駒が入る箱の蓋裏には四段に昇段した際に贈られた記念であるただし書きがされています。
駒に触れながら自分は弱くなってしまったと、心の中で師匠に詫びる先崎。明子夫人はその駒を持っていってくれと告げ、先崎は駒を預かることにしました。
帰り道できっと師匠は不甲斐ない弟子だと思っているだろうなと先崎は零します。しかし、繭は「私はあなたが一流の勝負師だって知ってる。勝負はこれからじゃないの」と励ましました。
中村七段を棋楽に呼び、師匠の駒を使って対局を先崎は挑みます。タイトルも取って乗りに乗っている中村七段を相手に、先崎がどこまで指せるのか?王手をかけられた瞬間、もう駄目かと諦めそうになります。
うなりながら悩み考える先崎にある光景が見えます。それは、詰め将棋の本を持って散歩に行っていた神社の木々です。風の音や木々のざわめきを耳にし、キラキラ輝く光を美しいと眺める先崎。すると、20手先まで見えたのです。
このまま指していけば詰める。先崎は一気に形成逆転し、中村七段は投了を宣言して「今のは美しい一手でした」と告げました。
2018年7月第77期順位戦B級2組の対局の場に先崎はいました。対戦相手は中村七段で兄弟弟子対決です。先崎は公式戦に復帰することがようやくできました。
先崎は公式戦に復帰を果たす
【うつ病九段】の補足
ドラマ内に出て来たサロンや、現在の先崎九段についてこちらで補足します。
最後の対局の結果
ドラマでは対局をするというところまでしか描かれておらず、勝負はどちらが勝ったのか気になったので調べました。
中村七段とのあの対局は先崎九段の負けでした。先崎九段の順位戦は最終的に1勝9敗で終えて、C級へ降格が決定します。
2020年度の第79期順位戦はC級1組で対局し、2020年12月現在2勝3敗で22位です。
ちなみに中村七段は藤井聡太二冠もいるB級2組で順位戦を行い、現在4勝3敗で16位という状況です。
順位戦とはいったい何なのか?よくわからないのでこちらも調べてみました。
- A級・B級1組・B級2組・C級1組・C級2組の5つのクラスがある
- 6月から翌年の3月までにかけて行うリーグ戦
- A級の優勝者が名人戦の挑戦者となる
そしてそれぞれに定員が決まっていて、降級昇級があります。
第79期より
- 名人:1名
- A級:10名(成績下位の2名が降級)
- B級1組:13名(成績上位2名が昇級・下位3名が降級)
- B級2組:不定(成績上位3名・降級点が累積2点)
- C級1組:不定(成績上位3名・降級点が累積2点)
- C級2組:不定(成績上位3名・降級点が累積3点)
これ以外にフリークラスといって、順位戦の対局がないクラスがあります。
詳しくは将棋連盟のHPに記載されています。
囲碁・将棋スペース棋樂について
ドラマ内で妻の繭がオープンさせた囲碁・将棋スペースは実在します。
【うつ病九段】のまとめと感想
うつ病になってしまったプロ棋士が、闘病し復活するまでの過程を描いたドラマでした。
羽生世代と呼ばれ、かつて天才と言われていた棋士がなぜこんなことになってしまったのか?
それは、将棋連盟の広報として棋士の不正問題の対応に追われ、大きなストレスに晒され続けたため、うつ病が発症してしまったのです。
それからの先崎九段は将棋を初めて指す人のようになってしまいます。しかし、一からまたやり直し、将棋でうつ病を治すという選択をします。
そして最後には周囲の支えもあって、また公式戦に復帰することができました。
先崎九段の兄は精神科医ですし、妻は囲碁棋士です。病気に理解のある兄と、勝負の世界に理解のある妻。さらには、兄弟弟子の中村七段や後輩の田中五段といった棋士仲間たち。病気の治療やリハビリをする環境に恵まれているといえばそうでしょう。
ですが、やっぱり先崎九段が勝負の世界に戻るんだという、強い熱意と努力があったからこそ、復帰を果たせたのだろうと思います。
かつていじめを将棋で乗り越えたように、うつ病も将棋で乗り越えるんだと語る先崎九段の言葉が、将棋というものに対する絶対的な信頼と自信を感じさせます。
うつ病とは誰でもある日思いもがけず発症する病であること、そして治療には周りの助けが必要なこと、そういったことをドラマを見ていて感じ取れました。
将棋のためなら弱さをさらけ出すことも厭わない、先崎九段の今後を応援したいと思えるいいドラマでした。