【テミスの不確かな法廷】第4話「伝説の反逆児」は、事故裁判の最終的な判決は描かれません。
しかしこの回で、裁判がどこへ向かい、何を「なかったことにしなかったのか」は、はっきりと示されます。
過積載は誰の判断だったのか。責任は、個人で止めるべきなのか。それとも、業界構造まで踏み込むべきなのか。
門倉が下したのは、結論を急ぐ判断ではなく、裁判の射程を広げるという決断でした。
本記事では、第3話から続く裁判の結末を整理しつつ、門倉が語る「三権分立の矛盾」と、「法廷は真実を語る場だ」という言葉の意味を掘り下げていきます。
※本記事は『テミスの不確かな法廷』第4話のネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
※本記事は第3話から続く裁判の完結編です。
前話の経緯は
→【テミスの不確かな法廷】第3話ネタバレ解説|裁判が「止まる理由」を描いた回
で整理しています。
結論|第4話の裁判は「判決」ではなく「射程」が確定した
『テミスの不確かな法廷』第4話では、事故裁判の最終的な判決は描かれずに終わります。
しかしこの回で、裁判の「結果」としてはっきりしたことがあります。
それは――責任を佐久間個人や、八御見運送一社に押し込める裁判にはならなかった、という点です。
裁判所は、
- 過積載が会社ぐるみで行われていたこと
- 検問回避とドラレコ欠落が偶然ではない可能性
- 八御見運送が、オールタイム急便との委託構造の中で追い詰められていた事実
を踏まえ、業界全体を視野に入れた証拠保全命令を出します。
これは、「この事故は個人の判断で、終わらせていい問題ではない」という、司法としての立場表明に等しいものでした。
つまり第4話の裁判は、
- 勝ち負けを決めたわけでも
- 責任を確定させたわけでもない
代わりにどこまでを裁判の対象として扱うのか ――その射程を、意図的に広げる決断が下された。という形で、ひとつの結末を迎えます。
判決はまだ先ですが、「なかったことにして終わらせない」という方向性だけは、この回ではっきりと示されて終わります。
登場人物(第4話)
レギュラー
- 安堂清春(松山ケンイチ):特別判事補。発達障害を抱える裁判官
- 門倉茂(遠藤憲一):部長判事
- 小野崎乃亜(鳴海唯):弁護士。今回は当事者ではない
- 穂積英子(山本未來):原告代理人
- 結城英俊(小木茂光):最高検察庁の次長検事。安堂の父
ゲスト
- 四宮絵里(伊東蒼):大学生。佐久間の娘(原告)
- 佐久間義之(清水伸):事故を起こし死亡したドライバー
- 八御見幸雄(川瀬陽太):八御見運送 社長
- 鳴子貴久(安井順平):被告代理人。大手法律事務所在籍
- 富樫和人(森岡龍):元八御見運送ドライバー
- 加賀美雄一郎(長谷川朝晴):オールタイム急便取締役。全国物流産業機構COO。
- 矢延昭介(矢島健一):最高裁事務総局事務総長。門倉と同期
今回の事件の整理
- 起きたこと:運送会社のドライバーが事故を起こし、本人と通行人が死亡。
事故は過重労働によるものではないかとして、娘・四宮絵里が会社を提訴。 - 原告:四宮絵里
- 被告:八御見幸雄(八御見運送)
- 争点:事故の原因は過重労働か、それともドライバー個人の過失か。さらに過積載の主導は会社か、それともドライバー個人か。
第4話の争点
第4話で争われているのは、事故の責任を「誰に・どこまで」帰属させるのかという一点です。
争点① 事故は「個人の判断」だったのか
- 被告側は、過積載は佐久間本人の申し出であり、会社の指示ではないと主張
- 原告側は、検問回避のための荷物差し替えや、ドラレコ映像欠落を根拠に、会社ぐるみの慣行だった可能性を指摘
→ 個人の過失か、組織の責任かが最初の争点。
争点② 「死人に口なし」をどう扱うか
- 佐久間本人は既に死亡しており、直接の証言は不可能
- 生きている側が、それぞれに都合のいい「佐久間像」を語っている
→ 裁判は、証言できない当事者の行為を、どう法的に評価するのかという難題に直面している。
争点③ 八御見運送だけの問題なのか
- 原告側は、八御見運送がオールタイム急便からの委託構造の中で、無理な運行を強いられていた点を問題視
- 被告側は、あくまで自社の管理責任にとどめ、大手企業の関与を否定
→ 責任を中小企業で止めるのか、業界構造まで踏み込むのかが焦点となる。
争点④ 真実の追及か、訴訟の早期終結か
- 被告側は、賠償額8割での和解を提示
- 原告は「真実を知りたい」として和解を拒否
- 裁判所は証拠保全を命じ、審理を継続する判断を下した
→ 裁判が解決を急ぐ場なのか、真実を追う場なのかという価値観の対立が浮き彫りになる。
争点⑤ なぜ、この回で判決は出なかったのか
第4話では、証拠と責任の射程が一企業から業界全体へ拡張した。
そのため裁判は、「結論を出す段階」ではなく、真実を見極めるための入り口に立ったところで止まっている。
法廷メモ(主張・証拠・矛盾点の整理)
【テミスの不確かな法廷】第4話での、本件裁判における主張・証拠関係は、以下の通りです。
原告側の主張(四宮・穂積)
- 過積載は日常的に行われていた会社ぐるみの慣行
- 検問を避けるため、パーキングで荷物を差し替えていた
- 過積載により事故直前に蛇行運転が発生した可能性が高い
- 検問が行われていた日に限って、ドラレコ映像が欠落している
- 八御見運送は、オールタイム急便からの委託構造の中で無理な運行を強いられていた
→ 事故を個人の過失ではなく、構造的・業界的問題として捉える立場。
被告側の主張(八御見運送・鳴子)
- 過積載は、佐久間本人の申し出によるもの
- 会社として過積載を強要した事実はない
- 法改正後は労働時間を順守しており、過重労働は存在しない
- 事故原因は、佐久間個人の判断・体調・事情によるもの
- 八御見運送に管理責任はあるとしても、オールタイム急便など上位企業の関与はない
→ 責任の範囲を「死亡した個人」または「中小企業一社」に限定しようとする主張。
争点のズレ(構造的な問題)
- 被告側:「佐久間が言い出したかどうか」を問題にする
- 原告側:「言い出さざるを得ない構造があったかどうか」を問題にする
つまり裁判は、行為の発端(誰が言い出したか)と行為を強いた背景(拒否できない環境)という、異なる次元の話がかみ合っていない状態にある。
証拠(強い順)
①防犯カメラ映像
- 検問前にトラックを止め、荷物を差し替えている様子
- 検問回避を前提とした行動であることがうかがえる
②ドラレコ映像の欠落
- 5月15日・6月10日という、検問が行われていた日に限って映像が残っていない
- 偶然とは考えにくく、意図的削除・非保存の疑いが生じる
③事故直前の走行状況
- 蛇行運転の痕跡
- 過積載によるハンドル操作不能の可能性
④八御見社長の認めた事実
- 過積載が会社ぐるみで行われていたこと自体は認めている
- ただし「佐久間の申し出だった」と責任転嫁
⑤佐久間の生前の訴え(証言)
- 加賀美(オールタイム急便)に対し、
運送料引き上げや改善を何度も訴えていた - 「このままでは事故が起きる」という具体的な警告
矛盾点・不自然な点
- 検問日とドラレコ欠落日が一致している点
- 過積載が「個人の判断」なら、なぜ会社として検問回避行動が常態化しているのか
- 過積載が常態化していたにもかかわらず、事故の責任だけが個人に帰されている点
- 大手企業が委託構造の利益を享受していながら、責任の所在から切り離されている点
これらは、偶発的な事故として処理するには無理がある要素として積み上がっている。
時系列(ネタバレあり)
① 父との再会と、安堂の限界
安堂は喫茶店で父と向き合う。「12歳までの君しか知らない」という言葉に、安堂は強い違和感を覚える。
発達特性を隠すよう助言したのは、自分のためだったのか、それとも父自身のためだったのか――問いかけに答えないまま、父は「人は信じたいものを信じる」と言い残して去っていく。
この出来事をきっかけに、安堂は翌日、仕事を休む。
② 門倉の過去と「悪目立ちするな」という忠告
裁判官任官37周年の集まりで、門倉は最高裁事務総局の矢延と再会する。定年後の進路の話題が出る中で、矢延は門倉に「二度と悪目立ちするな」と釘を刺す。
門倉は笑って受け流すが、その言葉は、司法の世界における“見えない序列”を強く意識させるものだった。
③ 安堂の辞表と、欠落したドラレコ映像
事務所では、安堂の机に辞表が置かれているのを門倉が見つける。問いただすことはできないまま、辞表は引き出しにしまわれた。
その後、被告側から提出された3か月分のドライブレコーダー映像を確認するが、佐久間が勤務していた日程のうち、5月15日と6月10日だけが欠落していることが判明する。
④ 門倉と穂積、過去の断絶
門倉は回想の中で、かつて原告代理人・穂積と交わした会話を思い出す。沖縄基地訴訟や原発訴訟で、真実を追った裁判官だった門倉。しかし今の姿を見た穂積は、「牙を折られた」と失望を口にする。
門倉は「裁判官はロックじゃ生きていけない」と語り、二人の間には埋めがたい溝が残ったまま別れる。
⑤ 第三回口頭弁論と、疑念の拡大
第三回口頭弁論で、安堂は欠落しているドラレコ映像について言及する。
原告側は、防犯カメラ映像を新証拠として提出。検問前にトラックを止め、荷物を差し替えていた事実が明らかになる。
さらに、事故直前の蛇行運転や、過積載が日常的に行われていた可能性が指摘され、裁判は八御見運送だけでなく、委託元であるオールタイム急便の関与へと広がっていく。
⑥ 政治と司法の圧力
報道は過熱し、オールタイム急便の加賀美、さらには法務大臣にまで影響が及ぶ。
門倉は矢延から呼び出され、「できれば一中小企業の問題にとどめてほしい」と暗に要請される。退官後の進路と引き換えに、裁判の行方を“うまくやる”ことを求められていることは明白だった。
⑦ 安堂の恐怖と、門倉の覚悟
夜遅くまで残る安堂は、「またミスをするのが怖い」と本音を漏らす。考えなければ楽になれるかもしれないが、それでも考えてしまう自分を止められない。
門倉は「わからないことがあっても、判決は下せる」と告げ、自分に任せろと安堂に言う。
その夜、門倉は家族の動画を見ながら、「まあ、無理だろうよ。うまくやるさ」と自嘲気味につぶやく。
⑧ 第四回口頭弁論と、門倉の反逆
第四回口頭弁論。八御見は過積載が会社ぐるみで行われていたことを認めるが、責任は佐久間個人にあると主張する。
被告側は賠償額8割での和解を提案するが、原告・四宮は「真実が知りたい」と拒否する。
反訴や忌避申し立てをちらつかせる被告代理人に対し、門倉は強く制止し、全下請け会社への証拠保全命令を出す。
「徹底的に真実を追求してジャッジを下す」それが裁判官の仕事だと、門倉は宣言した。
⑨ 明かされる佐久間の思い
裁判後、元同僚の富樫が証言を決意する。佐久間は生前、加賀美に何度も改善を訴えていた。「このままでは事故が起きる」「娘に胸を張って会いたい」その必死な言葉が、ようやく語られる。
四宮は、父が人の命を奪った事実と向き合いながらも、父の思いを知れたことに感謝する。
⑩ それぞれの「続ける理由」
門倉は所長に謝罪し、自分が“うまくやれなかった”ことを悔やむ。
一方、安堂は小野崎に、辞表をまだ捨てていないこと、迷いながらも裁判官を続けたい気持ちを打ち明ける。
「法廷から嘘がなくなる瞬間が好きなんです」その言葉に、小野崎は「迷ってよし」と応じる。
ラスト、穂積の前に現れた女性は語る。「父は法律に殺された」真実が法廷で語られなかった人間が、まだこの社会に存在していることを示して、物語は幕を閉じる。
門倉が語る「三権分立」の矛盾点
――司法は本当に独立しているのか
第4話の中盤、立ち飲み屋で門倉が安堂に語る「三権分立」の話は、この回の思想的な核になっています。ここで描かれているのは、教科書的な三権分立と、現実の司法のズレです。
門倉はこう語ります。
裁判所は権力に弱い。表向きは三権分立だが、実際は行政府や立法府に人事権や予算査定権を握られている。
これは抽象論ではなく、門倉自身の人生そのものに結びついた実感です。
表向きの三権分立と、裏側の力関係
制度上、日本は
- 立法(国会)
- 行政(内閣・官庁)
- 司法(裁判所)
が互いを牽制し合う「三権分立」の国家です。
しかし門倉が問題にするのは、司法だけが“人事と予算”という生殺与奪を握られている構造です。
- 裁判官の人事は最高裁事務総局が事実上コントロール
- 最高裁事務総局は行政(法務省・内閣)と密接
- 予算も国会審議を経る
つまり、制度上は独立していても、運用上は「逆らい続けられない」。
門倉が言う
上に睨まれることなく、賢くやるヒラメ裁判官が出世する。
という言葉は、「忖度しない裁判官ほど、静かに干される」という現実を示しています。
門倉自身が“矛盾の証拠”であるという皮肉
この矛盾を、ドラマは説明ではなく人物の履歴で示します。
かつての門倉は、
- 沖縄軍事基地の環境汚染訴訟
- 北陸原発運転差止め訴訟
といった、明確に国策と衝突する裁判で、愚直に真実を追い、正しい判断を下してきた裁判官でした。
その結果どうなったか。
- 地裁の支部を延々と回る人事
- 最高裁や中央から遠ざけられる
- 定年後のポストすら“顔色をうかがう立場”になる
門倉が嘆く
俺が望まない地裁の支部めぐりなのは、誰の判断なんだろうな。
という言葉は、「正しい裁判官であったこと」への事後的な罰にも聞こえます。
三権分立が本当に機能しているなら、裁判内容によって裁判官の人生が左右されるはずがない。しかし、門倉の人生はその逆を証明しています。
「考えない裁判官」が生き残る構造
さらに重いのは、門倉が到達した“生存戦略”です。
裁判官に求められるのは処理件数を上げること。提出された証拠に基づいて、淡々とジャッジを下す。意識的に考えないようにする。
これは怠慢ではありません。組織に潰されないための適応です。
- 深く考えるほど矛盾に気づく
- 矛盾に気づけば、正義と組織が衝突する
- 衝突すれば、裁判官として生き残れない
だから「考えない」。
門倉のこの姿勢は、三権分立が形骸化した社会で、司法が自ら“無害化”していく過程を象徴しています。
なぜこの話を、安堂に語ったのか
この三権分立の話は、単なる愚痴ではありません。門倉は、安堂の未来を見ています。
- 安堂は考えてしまう裁判官
- わからないことを放置できない
- 真実が曖昧なまま、判決を出すことに耐えられない
つまり、門倉が若い頃に持っていた資質を、安堂はそのまま持っているわけです。
だから門倉は、
- 「考えないことで楽になる道」
- 「それでも辞めなかった理由」
を語りました。
それは忠告であり、同時に「それでも抗ってしまう自分自身への告白」でもありました。
「法廷は真実を語る場だ」――門倉の言葉が持つ重さ
第4話クライマックス、門倉は法廷でこう言い切ります。
法廷は真実を明らかにする。ここで明らかにならなかったときは、あったことは、なかったことになる。
この言葉は、一見すると理想論です。しかし、ここまでの門倉の歩みを踏まえると、これは理想ではなく、覚悟の宣言として響きます。
「真実」と「法的真実」は同じではない
門倉は、この場面で“万能な真実”を語っているわけではありません。むしろ彼は、裁判の限界を誰よりも理解しています。
- 証拠がなければ、事実でも認定されない
- 証言は立場によって歪む
- 死人に口なしという構造的な不利
それでも門倉は言います。
誰かにとって都合のいい真実じゃだめなんだ。
ここでいう「真実」とは、全てが解明された真実ではなく、少なくとも「見ようとした真実」です。
法廷で扱えるのは、あくまで「法的真実」。それでも、「見ない」「触れない」「型に収める」ことを選べば、法廷は簡単に“嘘を確定させる装置”になる。
門倉は、そのことを誰よりも知っているからこそ、「型にはまること」を拒否しました。
型を破るという“反逆”
鳴子が異議を唱えた場面は象徴的です。
型通りなら認める。だが、型にはまっていると見えない真実ってものもある。
ここで門倉がやったのは、単なる感情的な説教ではありません。
- スラップ訴訟の可能性を指摘
- 忌避申し立ての乱用を却下
- 下請け全体への証拠保全を命じる
すべて、法の枠内でできる最大限の「踏み込み」です。
つまり門倉は、「法を破った」のではなく、「法が持つ本来の射程を、最後まで使い切った」。
だからこそ、この行為は“暴走”ではなく、タイトル通りの「反逆」になります。
「なかったことになる」という残酷な現実
門倉の言葉の中で、最も重いのはここです。
ここで明らかにならなかったときは、あったことは、なかったことになる。
これは冷酷な現実です。
裁判は、「事実をすべて救う場所」ではありません。裁判が終われば、
- 記録に残らない事実
- 認定されなかった痛み
は、社会的には存在しないことになる。
だからこそ門倉は続けます。
今回のことをなかったことにしたら、また事故が起きるかもしれない
これは感情論ではなく、制度論です。
- 過積載を見逃せば、構造は続く
- 責任の所在を曖昧にすれば、再発する
- 「なかったこと」にすれば、次の犠牲者が生まれる
法廷で真実を追わないことは、未来の被害を許容することと同義だと、門倉は言っていたのです。
三権分立の矛盾を知った男が、それでも選んだ場所
重要なのは、この言葉を語っているのが「三権分立の欺瞞を知り尽くした門倉」だという点です。
- 裁判所は権力に弱い
- 正しい裁判官ほど排除される
- 自分も散々、牙を折られてきた
それでもなお、門倉は法廷に立ち、「真実を追う」と宣言しします。
これは、制度を信じているからではありません。制度が不完全だと知っているからこそ、 人が踏ん張らなければならない場所が“法廷”だと理解しているというこです。
だからこそ、退官後のポストを失うかもしれない状況で、門倉はあえて“悪目立ち”を選びました。
安堂へのバトンとしての言葉
この「法廷は真実を語る場だ」という言葉は、同時に安堂への引き継ぎでもあります。
安堂は後に言います。
法廷から嘘がなくなる瞬間が好きなんです
これは、門倉の言葉を受け取った結果です。
- 考えすぎてしまう
- 迷い続けてしまう
- それでも、嘘を確定させたくない
安堂の弱さは、このドラマではそのまま裁判官としての資質に転化されています。
門倉は「考えないことで生き延びた世代」。安堂は「考え続けることから逃げられない世代」。
だから門倉の反逆は、一度きりの英雄譚ではなく、次の裁判官に託すための最後の一歩として描かれているのだと思います。
刺さったセリフ
「司法の場をなめるな」
この言葉が出たのは、被告代理人・鳴子が反訴を持ち出し、原告である四宮を威圧しようとした場面です。
裁判の流れを見れば、和解案を提示し、それでも原告が引かないと分かると、今度は高額な反訴をちらつかせて訴訟自体を潰そうとする。典型的なスラップ訴訟の構図です。
門倉の「司法の場をなめるな」は、感情的な叱責ではなく、裁判を「交渉」や「圧力」の場に変えようとする姿勢そのものへの拒絶でした。
司法は、力の強い側が相手を黙らせるための道具ではない。この一言で門倉は、法廷の主導権を“当事者の覚悟”ではなく“司法の理念”に引き戻しました。
「型にはまっていると見えない真実ってものもある」
鳴子の異議申し立てに対し、門倉は一度「異議を認める」と言いながら、すぐに「だが認めない」と続けます。
一見すると矛盾した対応ですが、ここで門倉が示しているのは、形式的な正しさと、裁判の目的は同一ではないという考え方です。
手続きは、裁判を公正に進めるための「枠」にすぎない。その枠を守ること自体が目的化した瞬間、裁判は真実から遠ざかる。
門倉のこの言葉は、型を壊す宣言ではなく、型に守られすぎた結果、見失われるものへの警告として響きます。
三権分立の矛盾を知り、「考えない裁判官」として生きることもできた門倉が、あえて型の限界を指摘した点に、この言葉の重さがあります。
「法廷から嘘がなくなる瞬間が好きなんです」
このセリフは、裁判の熱がすべて落ち着いたあと、安堂が小野崎に静かに打ち明ける本音です。
安堂はこの回を通して、ミスへの恐怖、迷い、自分に裁判官の資格があるのかという疑念に揺れ続けます。それでも彼は、「辞めたい」と言い切ることができません。
なぜなら安堂にとって法廷は、誰かを裁く場所である以前に、嘘が通用しなくなる瞬間を目撃できる場だから。
証拠と証言によって、取り繕っていた言葉が崩れ、本当の動機や事情がにじみ出る。その瞬間に立ち会えることこそが、安堂が裁判官を続けてしまう理由になっています。
このセリフは、門倉の「法廷は真実を語る場だ」という宣言を、次の世代の感覚で受け取った答えです。
伏線・違和感リスト
① ラストで穂積に話しかけた女性の存在
- 父は犯人ではないと訴えている
- 犯行時刻、3歳の自分は父と一緒にいた
- その証言は裁判で採用されなかった
→ 本件とは別に、冤罪を示唆する事件の存在が示される。
② 安堂の父が12歳で去った理由
- 発達特性を隠すよう助言
- 安堂は父が自分の病気を恥じていると思っている
- 「12歳までの君しか知らない」という離婚の理由は明言されていない
→ 安堂の自己否定の原点に関わる違和感。
③ オールタイム急便と政界の距離感
- 政界とのつながりが示唆される
- 天下りの可能性
- 法務大臣への波及
→ 司法にどこまで影響しているかは未描写。
④ 門倉の「反逆」の代償
- 証拠保全命令
- 忌避申し立て却下
- 大手企業への踏み込み
→ 組織からの評価・処遇は未描写。
まとめ|第4話は、司法が踏みとどまった「その瞬間」を描いた
テミスの不確かな法廷第4話は、事故裁判の是非や結論を描く回ではありませんでした。この回で描かれたのは、司法がどこまで踏み込み、どこで踏みとどまるのかという判断の瞬間です。
門倉は、三権分立が理想にすぎず、裁判所が人事や予算を通じて政治の影響下にあることを誰よりも理解している裁判官です。だからこそ、型通りに裁判を終わらせる選択肢も、彼の前にはありました。
それでも門倉は、法廷で起きていたことを「なかったこと」にしない道を選びます。その結果として描かれるのは、勝利でも爽快感でもなく、「うまくやれなかった」という静かな後悔でした。
一方で安堂は、迷い続ける裁判官として描かれます。自分に資格があるのかと怯えながらも、「法廷から嘘がなくなる瞬間」に惹かれてしまう。この揺らぎは欠点ではなく、このドラマが提示する司法に残された感受性のようにも見えます。
ラストで示された「法律に殺された」という言葉は、法廷ですべてが救われるわけではない現実を突きつけてきました。それでも、だからこそ法廷で何を見ようとするのかが、次の物語として問い直されます。
第4話は完結編でありながら、同時にこのドラマが描き続ける「司法とは何か」という問いの、はじまりでもありました。
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