2020年8月14日にNHK BSプレミアムで放送した、【あとかたの街】のネタバレと感想をまとめました。
マンガ×ドラマという試みのお陰で、戦争を知らない人たちにもわかりやすくなっていました。
【あとかたの街】のキャスト
ドラマパート
- おざわゆき…木村多江
初連載が決まった遅咲きの漫画家 - 小澤あい…吉行和子
ゆきの母。生粋の名古屋っ子 - 佐藤将太…桐山漣
憩談社の自称スーパー編集
マンガパート
- あい…花澤香菜
物語の主人公 - 洋三…花江夏樹
あいが思いを寄せる男の子 - 花…早見沙織
初等科時代の親友。家がお金持ち
スタッフ
- 原案・漫画提供:おざわゆき『あとかたの街』
- 脚本:政池洋佑
- 演出:小山靖史・伊東亜由美
【あとかたの街】のあらすじ
漫画家のおざわゆき(木村多江)は、母のあい(吉行和子)が12歳の時に体験した戦争の話を初の連載で描くことになった。
若い編集者の佐藤(桐山漣)は戦争に興味がそんなにはないが、今の若い人たちにも響く漫画を作ることに意気込む。
佐藤と一緒に母の話を聞きにいったゆきは、戦時中でも今の自分たちとは変わらない生活があったことを知る。
学校で勉強するのではなく、鋲を選別する仕事や、防空壕に入る演習。そんな中でも母は楽しみを見つけ、時には恋をしたりもしていた。
ある日、配給で出されたニンジンご飯が苦手だったあいは、食べることを戸惑っていると怒られてしまう。
洋三は「美味しくないものは美味しくないと思うぐらい自由だ」といい、あいをかばってくれた。その洋三があいの好きな人だった。
連載も好評だがゆきには少し気になることがあった。母は自分の描いた漫画を読んでくれていないことを。
やがて名古屋にも敵機が襲来し空襲が始まる。あいの親しかった花ちゃんが行っている工場が爆撃されたのではと思い、心配になったあいは花ちゃんの家に行く。
花ちゃんは無事だったが、いつ死んでしまうかもしれないという恐怖に怯えていた。そして、あいに代わって欲しいといい始め、2人は喧嘩になってしまう。
その3日後、花ちゃんの行っていた工場が空襲にあい、あいは再び花ちゃんの家に行く。中に通してくれたお母さんはどこか変な様子で、布団に横たわっている娘に話かけていた。
無残な遺体を見たあいは、その後熱を出しうなされるようになる。今でも花ちゃんが自分の腕を握った感触を覚えている、ゆきにそう話す母だった。
洋三は自宅を建物疎開になり、あいの家に居候するようになった。好きな人がそばにいる喜びと同時に、今後自分も死んでしまうのではないかという恐怖に駆られる。
そんなあいの腕を握り洋三は「あきらめるな」と言い聞かせる。洋三が握った感触もまた、あいにとっては今でも覚えているものだった。
しかし、ゆきは次第に自分の漫画のために、母親の思い出を利用しているような気がしてきて筆が止まってしまい……。
【あとかたの街】のネタバレ
1:タイトルに込められた思い
悩むゆきに佐藤は描かないと決めたならその思いを尊重するといいます。
しかし、『あとかたの街』というタイトルにした理由を聞きます。
“あとかた”といったら普通は“ない”になるのに、なぜ街なのか?佐藤の率直な疑問です。
するとゆきは“あとかた”は“ある”んだよ。といいます。
街は全部壊され生きていた人が死んでも、そこに確かに存在していた。
だから“あとかた”は“ある”。とゆきはタイトルに込めた思いを語ります。
それを聞いた佐藤は「もしかしたら、この作品も街が残したあとかたなのかもしれないっすね」と、口調は軽いながらもいいことをいいました。
言葉にはっとしたゆきは、その晩、母親に電話をしてお母さんの思い出を全て見せて欲しいと願います。
ゆきは再びペンを手に取ったのです。
確かにそこにあったという思いを込めてつけたタイトルだった。
2:名古屋大空襲
母に話を再び聞きにいくゆきですが、母は「知りたいなんて簡単にいわないで」といいます。
なぜなら人の生死が簡単に分けられてしまう、そんなことが許されるなんて自分が一番知りたいと。
そんなときに聞こえてくる雨音、この音が聞こえたら終わりっていっていたのに、と母が口を開き始めます。
昭和19年3月19日午前2時、ラジオから空襲が始まると放送が入ります。
サイレンが鳴り響き、みんな外へ避難が始まりました。
父は町内の誘導やらをしに行ってしまい、残されたあいや母、洋三たちが一緒に避難をします。
焼夷弾が落ちてきたのは、あいの家でした。すぐに飛び出し“火叩き”なるもので鎮火に向かいますが、爆撃は止まりません。
やがてあいの家は燃えてしまい、行き場を失ってしまいます。
辺りでも火の手が上がり、どこへ避難すればいいのか路頭に迷っていると、防空壕がありました。
入れて欲しいとお願いしても、いっぱいだと言われて入れてもらえません。
そうこうしているうちに火の手が迫り、あいたちはとにかく逃げていきます。
後で聞いた話だと、防空壕にいた人たちはみんな死んでしまったそうです。
自分の役目は死んでしまった人たちを思い出すこと、そう語る母は実はゆきの描いた漫画を読んでいました。
佐藤に言われてあいちゃんが過去に向き合っているように、ゆきも向き合っているのだから、一度漫画を読んで欲しいと言ってくれたのです。
漫画を見た母はみんな生き生きしていて、すごく懐かしかったと喜んでくれました。
あいの家が燃えてしまう
防空壕に入れずさまよう
3:洋三との別れ
橋の方へ逃げたあいたちですが、川には熱さに耐えられず飛び込んだ人がいっぱいです。
それも生きているのか死んでいるのか、重なっていてよくわからない状態でした。
また焼夷弾が落ちてきて、1つの弾が3つに分かれ、さらに9つに分かれていくのをあいは見ます。
雨のように落ちてくる焼夷弾、雨の音が聞こえたら終わりだといっていたのに、止まるどころか沢山降ってきます。
洋三が先導をするといって前を歩き、照明弾が上がった途端、辺りは昼間のように明るくなり、そのまぶしさに目がくらみます。
その瞬間、一本の焼夷弾が洋三の背中から腹にかけて貫きます。
洋三をなんとか助けたい、あいは必死に救護しようとしますが、洋三は「自分はもうだめだから逃げろ、生きろ」と告げます。
火に囲まれ始める中、あいはある声を聞きます。それは父の声です。
父はまだ生きていて「鶴舞公園へ逃げろ!」と叫びます。
しかし、鶴舞公園は高射砲があり、敵機に真っ先に狙われる場所です。
だからそんなところに逃げたらダメだという人の声も聞こえます。
母とあいは覚悟を決めます。父の言葉を信じると。
乳母車をしっかり握り、みんなで一つになりながら炎の中を公園に向かい爆走です。
そうしてついた公園にあった高射砲は、既にぺしゃんこになってました。
父はこれを知っていたから、もはや安全な公園へ逃げろと言ったに違いないとあいの母がいいました。
こうして名古屋大空襲は終わり、あいたちは何とか生き延びたのです。
洋三は焼夷弾が刺さって死んでしまう
あいたちは父の言葉を信じたお陰で助かった
4:ドラマの結末
話をし終えたあいはゆきにお願いがあるといいます。
それは現在の鶴舞公園に行ってみてという願いです。
もちろんゆきは公園へ向かい、現在に繋がる何かがあるのか見てくるといいます。
現在の鶴舞公園に高射砲はもちろんありません。しかし、公会堂は残っていました。
皮肉にも高射砲がぺちゃんこになったお陰で、それ以上爆撃を受けなかったので残ったのでしょう。
ゆきは漫画にしたことは良かったのか佐藤に聞き、佐藤はもちろんと答えます。
今自分が立っている場所、見ている空、風の音や匂い、それらを母も見ていたのかもしれない。
ゆきはそんなことを考えていました。
そしてナレーションでこう入ります。
昔、この場所に街がありました。その街で人々が暮らしていました。
街がなくなって新しい街がそこに作られても、残り続けるものがあるのです。きっと。
【あとかたの街】の補足
今回舞台になった鶴舞公園の情報や、実は起きていた地震について補足します。
1:鶴舞公園と名古屋市公会堂の情報
鶴舞公園
名古屋市公会堂
ドローンで撮影した動画
上からの動画があるので、高射砲がこの辺りにあったのかなと想像してみてください。
2:東南海地震について
1944年12月7日に起きた地震です。あいが戦中に地震があったというのですが、どうにも新聞記事とかでは小さい扱いでした。
実際は死者1200名という大地震で、戦時中に大変なことが起きていたとわかります。
調べたところ1945年の終戦前後にはこの地震の他にも、1943年9月10日に鳥取地震、1945年1月13日に三河地震、1946年12月21日に昭和南海地震という大地震が起きています。いずれの地震も1000人超えの死者が出ている大地震です。
なぜ新聞は大きく取り上げなかったのか?それは当時報道規制が敷かれていて、敵国に弱みを見せてはいけないとのことで、小さい記事になってしまったとのことです。
戦争の悲惨さを伝えるだけでなく、当時そこに生きていた人の日々を切り取ったドラマならではの話が盛り込まれています。
【あとかたの街】の感想とまとめ
NHKはこの時期になると、戦争のドラマやドキュメンタリーを放送します。
遠い過去の話といってしまえばそれまでですが、知ると知らないではやはり大違いです。
当たり前ですが戦中に生きた人の話を聞く機会が、年々減っています。
個人的にはよく亡き祖父母から話を聞いていました。
それこそこのあいのように、食べ物の好き嫌いの話や、本当は好きだった人の話など、生活に根付いたエピソードをいくつも聞きました。
そんな自分にとっては、今回のあいの話はどこか懐かしく、亡き祖父母を思い出すきっかけにもなりました。
このドラマの良いところは、戦争の悲惨さだけでなく生活についても話してくれるところです。
そして平和だ反戦だを押し付けるのではなく、経験した事実を当時抱いていた感情と共に伝えてくれます。
回想部分がすべて漫画になっているので、怖い映像を見るのが苦手な人でも安心して見れます。
ただ、実際の映像よりもある意味、印象に残るかもしれません。
特に花ちゃんが焼夷弾を見たときのシーンと、洋三の死のシーンは印象的な絵でした。