【横溝正史短編集4】3話『湖泥』のネタバレと感想

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NHKで放送されたドラマ【横溝正史短編集Ⅳ 金田一耕助悔やむ】3話『湖泥』のネタバレと感想をまとめています。

北神家と西神家――僻村で長らく争っていた両家があった。そのうちの北神家に嫁ぐ予定の娘の遺体が発見される。やがて新たな遺体が発見され、連続殺人事件の可能性が出てくるが……。

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『湖泥』のあらすじ

北神家と西神家――僻村で長らく争っていた両家があった。北神家の跡取り・北神浩一郎(井之脇海)は、御子柴由紀子(ジュリアンヌ)と結納を済ませ、式を挙げようとしたところ、西神家の跡取り・西神康雄(こだまたいち)の横槍が入った。すると由紀子は失踪し、騒ぎが大きくなった。

金田一耕助(池松壮亮)は岡山県警の磯川警部(くっきー!)と一緒に湖を調べていた。行方知らずとなった由紀子の帯が、湖水から発見されていたからだった。

湖のほとりに一軒だけぽつんとある家が気になった金田一は、皆でその家に行ってみるとそこに由紀子の遺体が見つかる。しかし、遺体は異様な状態で、家主の北神九十郎(宇野祥平)が逮捕されるが……。

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『湖泥』のネタバレ

九十郎は村長の妻である秋子から、由紀子を呼び出すための嘘の手紙を持って行くよう命じられる。途中で中身を開けてみた九十郎は、秋子が西神康雄に由紀子を襲わせようとしている計画を知り、自分の計画に振り替える絶好のチャンスだと思った。

九十郎は由紀子に手紙を渡すと隣村に行き、康雄の飲む酒に睡眠薬を混ぜて眠らせる。そして水車小屋に行き、浩一郎が秋子に呼び出されて不在の隙に中で由紀子を待ち伏せて殺害した。

異様な輝きを放つ義眼を抜き取り、村長の家に忍んで行く。浩一郎が立ち去るのを待ち、秋子をおびき出すと殺害して穴を掘って埋めた。そして義眼を持っていることに気付き、穴を掘って埋めた。

そして村長のポケットに密告状を入れ、村長を怒らせることによって、事件をできるだけ紛糾させようとした。

仕事を終えて戻ってきた九十郎は、自分の家の前に流れ着いた由紀子の遺体を引き上げ、死姦の罪で捕まることにする。そうすれば容疑者から外れるとの算段だった。しかし、眼がない由紀子に耐えられず、埋めた義眼を掘り起こしに行く。

義眼を持っている人物こそ犯人と思っていた金田一は、義眼の隠し場所を見つけたと言い、義眼を見せる。すると九十郎は暴れ出し、自分の存在を無視し続ける村に、復讐をするためにしたことだと恨みを叫んだ。

しかしその義眼は実際は九十郎の隠していた義眼ではなく、医大から借りてきたものだった。金田一は九十郎にカマをかけ、自供を引き出した。

争う両家

磯川警部(くっきー!)は船上で語った。都会では一日一日が慌ただしく過ぎていくため、憎悪も怨恨も嫉妬も反目も長く燃え続ける余地がない。しかし田舎では何代にもわたり同じ土地に住み続けるため、10年20年前の恨みがいまも鮮烈に生きている。本人同士が忘れようとしても、周囲の人間が決して忘れさせないのだ──金田一耕助(池松壮亮)は静かに頷きながら、その言葉を胸に刻んだ。

話題は北神家と西神家の確執へ移った。原因はもはや誰にもわけがわからないほど複雑に絡み合っているが、その中心には御子柴由紀子(ジュリアンヌ)という娘の婚礼騒動があった。

祖先から受け継いだ意地とプライドが事態を大きくこじらせ、結局北神家の息子・浩一郎(井之脇海)が勝利を収める。浩一郎は村で模範青年と評され、結納も済んで挙式が取り決められていた。しかし西神家は「戦後、着の身着のままで上海から引き揚げた御子柴家の面倒を見たのに、なぜ袖にするのか」と横槍を入れた

婚礼前に一波乱起こると誰もが思っていた矢先、由紀子は突如として姿を消し、騒動は思わぬ方向へ広がっていった。

謎の手紙

山陽線のK駅から一里ほど奥まった、山間の僻村だった。由紀子が失踪して今日で5日になる。地元の者たちに当時の状況を尋ねた。

3日に隣村の祭りがあり、由紀子はそのまま祭りに出かけて帰らなかった。時計の針は夜8時か9時頃を指していたと伝わる。由紀子が山裾の道を歩いて帰途につけば、必ず誰かと行き会ったはずだ。村一番の評判娘である彼女を見かければ、誰もが覚えているはずだったからだ。

金田一は西神康雄(こだまたいち)と北神浩一郎にその夜の行動を問いただした。康雄は隣村の親戚に呼ばれ、酔ってそのまま泊まり込んでいたという。浩一郎は祭りにも顔を出さず、水車小屋で夜中の1時まで米をついていた

自宅の庭で由紀子の弟が拾ったのは、浩一郎から由紀子宛の手紙だった。

「三日の晩、水車小屋で待っているから、九時ちょうどに来てくれ。ただし、このことは絶対に誰にも悟られぬように 北神浩一郎より」

しかし浩一郎はそんな手紙を書いた覚えはないと強く否定した。

いずれにせよ、由紀子はこの湖水のどこかに沈んでいると警察は疑っていた。なぜなら湖面から彼女の帯が見つかっていたからだった。

遺体発見

金田一はぽつんと建つ一軒家を見つめ、鳥が異様に騒いでいるあの家は誰のものかと清水(濱田龍臣)に問いかけた。清水は、北神九十郎(宇野祥平)の家だと答えた。

九十郎を一言で言うと、敗戦ボケというか、満州では相当にやっていたという話だった。敗戦で全財産を失い引き揚げる帰路で、妻は現地の連中に散々な酷い目に遭う。酷い病気をもらって帰り、体中吹き出物だらけという有様だった。村の者も気味悪がり、誰も相手にしなかった。それでボケてしまい、牛か馬みたいな生活をしているという。

3人は九十郎の小屋へ足を踏み入れた。牛小屋そっくりの粗末な木造建築で、むしろを引き剥がすと全裸の女が倒れていた間違いなく御子柴由紀子だったが、左目が抉り取られている。由紀子に義眼の話はなく、清水は「いつもあの瞳の奇妙さが、かえって可憐に見えた」と震え声で呟いた。

そこへ九十郎が現れた。口をぽかんと開けたまま、敗戦ボケそのものといった風情だ。遺体は自分が見つけたと言い張ったが、清水は納得していない。九十郎の供述によれば、湖面に浮かんでいた由紀子を引き上げると、体温を与えれば生き返るかもしれないと思い、自らも裸になって肌を重ね合わせたという。しかし由紀子はすでに息絶えていた。

警察が手錠をかけて逮捕し、九十郎は村人たちの罵詈雑言を背に受けながら連行されていった。

聴取

金田一は駐在所を訪れ、磯川と対面した。土間に足を踏み入れると、異様な臭気が立ち込め、匂いを消すために線香が激しく焚かれていた。線香の煙が揺れる隅には、死体が無造作に置かれていた。

金田一が「先ほど外へ出ていったのは誰か」と問いかけると、磯川は村長・志賀恭平(嶋田久作)だと告げた。恭平の後妻である秋子(夏帆)が行方不明となっていたという。

由紀子は上海滞在中に左目を失ったが、精巧な義眼をはめていたため、村人の誰もそれと気づいていなかった。

そこへ「由紀子は水車小屋で殺された」という証言を携えた村人が到着し、浩一郎の容疑が決定的であると磯川は断言した。まもなく浩一郎本人が到着し、磯川はその場で聴取を始めた。

浩一郎は3日の夜、一歩も水車小屋を出なかったと主張するが、半時間ほどうたた寝をしていたことを認めた。由紀子の姿を目撃した者がいると聞かれると、「奥で眠っていたため気づかなかった」と供述し、対面は否定した。水車小屋の扉を開けたかと問われても首を横に振り、義眼についても「知らなかった」と言い張った

新たな遺体

磯川は、水車小屋を出ていったはずの浩一郎がなぜそれを証言しないのか不審に思い、由紀子の弟が拾ったという封筒を手に取った。封じめの「〆」という文字がわずかにずれており、筆跡の比較研究を急ぐ必要があると金田一は判断した。

翌日午後2時、再び村を訪れた金田一は、志賀恭平の後妻・秋子の遺体が発見されたとの報を受ける。秋子の遺体は湖の西側、ほとんど人が通らない山中で絞殺された状態で見つかり、死後は由紀子と同じ晩と推定された。現場の土に残された小さなくぼみは、義眼の跡そのものであり、秋子を殺害した者が義眼を持っていたことは確かだった。こうして、二つの事件は確実に結びついた。

村長は聴取室で眉をひそめ、自分が妻を殺したというのかと怒りをあらわにした。金田一が「いつ妻の失踪に気づいたのか」と問いただすと、村長は隣村の祭りの夜、12時ごろ自宅に戻ったが姿が見えず、家出したと思ったと語った。

磯川が「3日の夜の行動を詳しく」と重ねて尋ねる。村長は11時半ごろ突如帰宅し、そのときは顔色が青ざめていたと別の人の証言があった。すると村長はポケットから一通の封筒を取り出した。

封書の中には「今夜もお前の留守中に、間男引っ張り込んで楽しんでいるのを知らないか。阿房村長どの」と記された手紙が入っていた。村長は「向こうで酒を飲んでいて、何気なくポケットに手を入れたら出てきた」と告げた。

偽手紙の主

朝、木村(片岡哲也)が慌ただしく駐在所へ駆け込んできた。由紀子を呼び出す偽手紙の筆者が西神家の康雄であることが判明したという。警察は康雄を聴取した。

康雄は当初、そんなことをするつもりはなかったと主張したが、村長夫人に焚きつけられたと認めた

「北の浩一に女とられて、指くわえて黙っとるやつがあるもんか。それじゃ、ご先祖にたいしても申し訳があるまいがな。女っちゅうやつは、一度征服してしもたら、もうそれっきりや。なんでもええ、由紀子をものにしてしまえ…」

康雄はその言葉に従い、偽手紙をしたためて水車小屋へ由紀子を誘い出そうとした。しかし本来、そこには浩一郎がいるはずだった。浩一郎は夫人が呼び出す手はずだった

「あいつは、村長の奥さんと関係があった。間男をしていた」

秋子には目論見があった。康雄に由紀子を疵物にさせようというものだ。浩一郎が由紀子と結婚するというので、ヤケになっていた

康雄は祭りの夜、勇気を奮い起こそうと酒を二杯あおったものの、帰路で強い眠気に襲われ、木の根元に腰を下ろして寝込んでしまった。しかし目を覚ますと草むらの中だった

清水が連れてきたのは北神浩一郎だった。浩一郎は村長の後妻と姦通していたことを素直に認め、もう一度会ったらこれが最後だと言われ、その晩呼び出されたのだという。

8時40分に水車小屋を出て、9時40分に秋子と別れた。水車小屋に戻ると、御子柴由紀子の死体が転がっていた。最初はすぐに知らせるつもりだったが、自分に疑いがかかると直感して途方に暮れた。死体を小舟に隠したまま米をつき続け、やがて湖水に沈めた

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事件の真相

金田一は九十郎に話をきくことにした。誰も思いつかない安全な隠し場所こそ同じだと思った──と九十郎に語りかけた。九十郎は一瞬、瞳に生気を取り戻したが、すぐに敗戦ボケのふりをする。しかし、その動揺を誰ひとり見逃さなかった。

金田一は九十郎のように孤立していると、かえって村の隠し事がよくわかるという。

浩一郎と由紀子の婚約が発表されれば、ただではすまないだろうと九十郎は考えていた。九十郎は村長夫人と康雄の会話を立ち聞きし、あの日、村長の奥さんから、由紀子に宛てた手紙をことづかり、密かに封を開けて中身を読んだ

村長夫人と康雄の計画がわかると、好機だと判断して、自分の計画に振り替えた

あたかも浩一郎から頼まれたかのように由紀子にその手紙を手渡し、隣村へ向かった。康雄の酒に眠り薬を混ぜ、彼がうたた寝した隙に林の中へ運び込んでおいたのは、のちに水車小屋を訪れる由紀子に見つからぬよう配慮したためだった。

水車小屋へ行くと、そこには浩一郎もおらず、待ち構えていた由紀子だけがいた。九十郎はためらいなく彼女の首を絞め、左の義眼が不自然に光るのを見てすかさず引き抜いた

義眼を懐に隠しながら村長宅へ向かい、浩一郎が立ち去るのを待って、村長が浩一郎との関係を知って烈火のごとく怒って今帰ってくると秋子に話す。そして秋子が外に出ると背後から襲って首を絞めて殺し、穴の中に死体を押し込んだその時義眼を持っていることに気がついて、穴を掘って埋めておいた

その後、村長のポケットに、夫人と浩一郎の関係を暴く密告状を入れ、村長を怒らせることによって、事件をできるだけ紛糾させようとした。

ようやく仕事も終えて家に帰ってくると、浩一郎が湖水に沈め得た由紀子の死体が自分のところに流れよった。九十郎はその死体に対して、けがらわしい欲望を感じた。そしてそっちの罪でまずあげられておこうと考えた。そっちの罪の煙幕に隠れて、殺人の容疑から逃れようとこころみた

実際敗戦ボケでもなんでもない九十郎は、片目くり抜かれたあの顔には我慢ができかねた。そこで前の晩、埋めておいた義眼を掘り出しに行った

「栓を必要とするものは、その栓のしっくり合う容器の持ち主」という西洋の言葉を知っているかと金田一はたずねる。

「この場合、由紀子の義眼という栓を必要とした犯人は、すなわち、由紀子という容器の持ち主なんだ。そしてそれは君、九十郎君じゃないか」

義眼を持っている人物が犯人だと、金田一には確信があった。

「そこで小屋にいってみて、どこに隠すだろうかと考えてみた。そして発見することができた」

金田一は見つけた義眼を見せると、九十郎は暴れ出した

「俺は嫌いなんだ、この村が嫌いなんだ。村のやつら、どいつもこいつも嫌いなんだ」

狂気の叫びを上げる九十郎。

「俺は村に復讐してやったんだ。この村にできるかぎりの、汚い罪の烙印を焼き付けてやったんだ。姦通、暴行、殺人…それからもっともっと汚い、汚らわしい罪名を…村のやつらはもう、世間へ顔向けできなくなるだろう。世間の人はこの村の名を聞いただけでも、身震いをするだろう。ざまあみろ!ざまあみろ!」

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『湖泥』の結末

磯川は肩を震わせながら言った。

「今までこんな狡猾な犯人に会ったことがない」

金田一は静かに頷き、北神九十郎の立場があまりにも都合よかったのだと解説した。いわゆるインヴィジブル・マン――牛や馬以上に村人たちから無視され、どこで何をしても誰も気に留めなかった

「義眼はどこに隠してあった?」と磯川が問いただすと、金田一はため息まじりに答えた。

「卑怯なことです。フェヤーじゃない」

実は金田一は岡山の医大に行って、義眼を借りてきた。心配は九十郎がすでに義眼を始末してやしないかということだった。カマをかけてみたら、まだどこかに隠してあるらしいと分かった。

「そこでとうとう、ああいうインチキをやったんですが…」

その告白に磯川警部たちは唖然とし、空いた口が塞がらなかった。

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『湖泥』のまとめと感想

村八分にされていた男が、村の評判を下げるような犯罪をして、村に復讐したという話でした。

今回3話ある中で、この話が個人的に一番面白かったです。ザ・横溝な話の展開に、最後はブラフで犯人の自供を引き出させる金田一というオチが印象的です。

原作は未読なのですが調べたところ、九十郎の妻の病気というのが梅毒らしく、そうなるとどういう目に遭ったのかも想像がつきます。

また、秋子が康雄に焚きつけるセリフもなかなか凄いです。さらに九十郎のいうもっともっと汚い、汚らわしい罪名も恐らくそういうことかと想像がつきます。確かに村の評判は落ちそうです。

などなど、今では色々問題ありそうな話ですが、九十郎を演じた宇野さんの演技も良かったです。そして、灰色がかった画面やお経のような音楽といい、ドラマを盛り上げてくれる演出も良かったです。

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