【横溝正史短編集4】2話『鏡の中の女』のネタバレと感想

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NHKで放送されたドラマ【横溝正史短編集Ⅳ 金田一耕助悔やむ】2話『鏡の中の女』のネタバレと感想をまとめています。

鏡に映る女性の読唇術をした聾唖学校の教師は、彼女が殺人計画を立てていることに気付き、金田一にそのことを伝える。やがて彼女の言った通りに事件が起きた。ただし、被害者は計画を立てていた女性で……。

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『鏡の中の女』のあらすじ

金田一耕助(池松壮亮)は『アリバイ』という変わった名前のカフェに、聾唖学校の教師・増本克子(中嶋朋子)と一緒に行く。ふと増本は金田一の後ろにある大きな鏡を見ていた。そこには中年の男と若い女性が映り込んでいる。

増本は唇の動きを読むリップ・リーディングができる。鏡の女性の唇の動きをメモすると、「ストリキニーネ」と言っていた。どうやら彼女は殺害計画を立てているようだった。

金田一は半信半疑でいたが、二週間後、増本の言っていたことが現実になる。ただし、被害者は殺害計画を立てていたあの女性で……。

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『鏡の中の女』のネタバレ

金田一は始めから増本に疑いを持っていた。増本のリップ・リーディングに絶対の信頼を置いているが、彼女は最近ひどい近眼を隠していたからだ。

カフェでタマ子の唇は金田一さえはっきり見えなかった。近眼の増本ではなおさら、唇の動きを読めるはずがなかった。ただ、何か重要な相談をしているのは分かった。そして河田夫人が監視していることも知っていた。

増本は探偵である金田一を少しからかってみようと思っていた。なのでタマ子が喋りもしないことを、メニューに書き留めた。しかし、金田一はあまり乗らずにいた。

河田夫人がカフェに引き返してくるのを金田一は窓の外から見ていた。そんな金田一を増本は見ていた。そして店から出てきた夫人を増本が尾行すると、河田家のスキャンダルを知った。

河田家には犯罪を構成する条件が、揃いすぎていた。増本はそれに誘惑され、自分の筋書きどおりの殺人を運ぶことにする。

河田家と未知の間柄という隠れ蓑も増本を刺激し、別荘に行くとメイドに扮して飲み物にストリキニーネを入れて二人を殺害した。

増本は信用しない金田一を見返そうと、自分の技術を過小評価されたくなくて、リップ・リーディングどおりの事件を起こした。

白昼の殺害計画

金田一耕助(池松壮亮)と増本克子(中嶋朋子)は、『アリバイ』という変わった名のカフェへ向かった。増本は金田一の背後にある大きな鏡に映る、二人の男女に視線を走らせた。女は二十代で、指にはダイヤが煌めいている。男は好色そうな重役タイプで、年齢は五十五、六といったところだ。増本は「あ…」と小さく呟くと、手にしていたメニューを裏返し、「ストリキニーネ」と走り書きした

聾唖学校の教師である増本は、リップ・リーディングで鏡の中の女の会話を読み取る。女が「ピストル、だめよ。音が出るから」と囁き、続いて「やっぱり、ストリキニーネね」と口元を動かしたのがはっきり見えた。増本は金田一に「こんなことを言っている」と伝えた。さらに唇が動いて「トランク、三鷹駅がいいわ」と続き、増本はヒステリックな声で「もういや! もうやめよ、こんなこと!」と叫び、手を止めた。思わず隣の女が振り返る。

金田一は気づいていた。隣の席の女もずっと鏡の中の二人を盗み見ていたのだ。やがて男女は立ち上がり、店を出ていった。金田一が隣の女の様子をうかがうと、彼女も立ち上がって後を追った。増本は「彼女はあの二人を尾行しているのではないか」と呟き、金田一も頷いた。

金田一はひとり苦笑し、「ロマンス・グレーの重役と愛人、嫉妬に狂う妻――月並みな三角関係か」と呟いた。増本はメニューに記した「ストリキニーネ」の意味を問いかけ、金田一は「銀座の真ん中で相談する話じゃない、人殺しの話だ」と呆れ返った。しかし増本は確かに彼女はそう言っていたと譲らず、不機嫌に「もう店を出よう」と言って席を立った。

被害者は計画者

二週間後、金田一は等々力警部(ヤン・イクチュン)や、三鷹署の古谷警部補(福地桃子)らとともに遺体を確認した。三鷹駅の宿直室で発見されたトランクの中身は、かつて鏡の中に映っていたあの女だった。キャバレーのダンサーか何かと思わせる容貌は、断末魔の苦悶を表現するかのように歪んでいた

金田一は彼女の名前も素性も知らず、ただの行きずりの女だと説明する。にもかかわらず、人殺しの相談をしていたはずの同じ女が、死体となって現れたのだ。出血の痕はなく、金田一は「毒殺だろう。ストリキニーネに違いない」と呟いたが、その不可解さに困惑を隠せなかった。

なぜこのトランクが開けられることになったのか。駅員の答えはこうだった。荷物は「牟礼・山口良雄行き」となっていたものの、宛先の番地に該当者はいない。配達も返送もできず様子を見ていると、二、三日前から異臭が漂い始めたため、交番に届けて立ち会いのもと開封したという。発送地は逗子だった

遺体のポケットからは名刺が一枚見つかり、古谷警部補はその番号へ連絡するよう指示した。現場にはほかに現金が残されていた。金田一は鏡の女が指にはめていたはずの、ダイヤの指輪が消えていることに気づいた。装身具は一切紛失していた。

遺体をトランクから取り出す際、等々力が皮肉交じりに言った。「もしストリキニーネだったら、先生ただでは済みませんぜ」。その言葉が、なおいっそう事件の闇を深めているようだった。

女の正体

30分ほど後、電話を受けた河田家から一人の婦人が駆けつけた。その姿は、先刻カフェ『アリバイ』で見かけたあの女だった検視の結果、死因はやはりストリキニーネ中毒と判明する。遺体を目にした河田登喜子(高畑遊)は「タマ子!」と叫び声をあげる。

倉持タマ子(中村ゆりか)はかつて登喜子の屋敷に奉公していた遠縁の娘で、一昨年の秋まで仕えていた。その後はキャバレーのダンサーなどをしていたらしい。夫との様子がおかしいと感じ、こちらから暇を出したという。

だが、家を出て以来、タマ子に会ったことも見たこともないと、なぜか婦人は嘘をついた。実際には夫が五日ほど前から帰宅せず、その日あたりに捜索願いを出すつもりでいたのだという。

金田一らは河田家へ赴き、聞き取りを開始した。五日前の朝、運転手の杉田豊彦(倉悠貴)が夫を会社へ送り届け、夕刻に迎えに行くと「帰りました」と伝えられた。昨春から夫が自ら車を運転するようになり、妻は杉田に尾行を命じていた。杉田は夫があの女と落ち合う場面を目撃し、報告したという。

娘の由美(中島セナ)は高校三年生だったが、昨秋に不行跡で退学処分を受けていた。以前は優等生だったものの、すべてタマ子のせいだと杉田は断言した。

金田一は一人の女が家族を崩壊へと追い込む、典型を目の当たりにした思いがした。河田家は逗子に別荘を構えている。金田一が「アリバイというカフェを知っているか」と問いかけると、登喜子は驚きの叫びをあげ、そのまま気を失った

新たな遺体

逗子の河田家別荘が捜索された。庭に積もった落ち葉の下を掘り返すと、ストリキニーネ中毒で死んだ河田重人(田中要次)の遺体が姿を現した。逗子警察の調べで、この別荘は背中合わせにあるホテルが管理を一任されており、宿泊客は事前に電話を入れれば、夜具の用意や食事の手配を受けられる仕組みだった。

数日前、河田重人から「一泊するので食事とウイスキーを用意してほしい」とホテルに注文が入っていた。翌晩、料理を運んだ従業員の藤本文雄(神谷圭介)が裏木戸を開けると、辺りは真っ暗でネッカチーフを巻き、マスクを装着した女が立っていた。女は黙って笑うだけで別荘のほうへ歩き去り、藤本は誰ともすれ違わなかったことを報告した。

翌朝、別荘へ向かった藤本は、河田重人はもちろん、かつて奉公していたタマ子の姿も見あたらないことに気づいたが、「たまにはあることだ」と特に問題視しなかった。登喜子もネッカチーフの女について、心当たりはなかった。タマ子に女中はいないはずで、その女だけが毒を盛る機会を得ていた

料理に混入されたストリキニーネによって二人は命を落とし、重人の遺体は庭の隅に、タマ子の遺体は大きなトランクに詰められた。運び出しを指示したのは、あの女自身だった。運転手(小出圭祐)も「ご主人が女を連れて来る」と聞かされ、玄関に置かれた巨大なトランクを目撃している。女はフードを深く被り、眼鏡とマスクで顔を隠していたため、正体は分からなかったという。トランクを積み込むと、彼女は運転手に逗子駅まで送るよう指図して立ち去った。

古谷警部補は首をひねった。なぜ重人と同様に、タマ子を庭に埋めずにわざわざ運び出したのか――同じ方法で隅に埋めておけば足跡も残らず簡単だったはずだが、それをしなかった理由が分からなかった。

狂ったバランス

三鷹署の捜査本部には張り詰めた空気が漂っていた。そこへ「重要な証人を連れて来る」という金田一からの連絡が古谷警部補のもとへ入る。五分後、金田一は増本を伴って捜査本部に姿を現した

古谷が「銀座で何を見たのか話してほしい」と促すと、増本はメニューの裏に書き留めた会話の一部始終を詳細に語った。河田登喜子は先に帰宅したはずだったが、忘れ物を取りに来たふりをして戻ってきた。そしてメニューに書きつけた会話の断片を読んでいた

古谷が「夫と情婦が自分を殺害しようと画策していたことを、登喜子は知っていたのか」と問うと、金田一は増本に向き直り「あなたはそれに気づいていなかったのか」と問いかけた。

そこへ等々力警部が入ってくる。金田一は肩をすくめ、「難しい事件だった」とだけ呟いた。

登喜子はついにメニューの裏を読んだことを認めた。夫と愛人が共謀して自分を葬ろうとしていると疑念を抱いたのも事実だが、自ら二人を毒殺するようなことはありえないと否定した。目撃された女については、ボーイも運転手も「同じ女性だったが、あの婦人ほど太っておらずまったくタイプが違った」と証言している。

一方、娘の由美にはしっかりしたアリバイがあった。ボーイフレンドと夜の街を飲み歩き、多くの証人がいたからだ。由美自身が「杉田さんは母上と忌まわしい関係にあった」と語っており、夫が親戚の娘に手を出し、それが母親の精神を壊したうえに、由美も杉田と関係を持っていたという。

「一家のバランスが崩れれば、何もかもがめちゃめちゃになる」──金田一はそう呟く。

やがて金田一は問いを投げかける。「この計画を知っていた人物は何人いる?」被害者である重人とタマ子を除き、容疑者から登喜子を外すと、残るのは――等々力が眉をひそめ、「君と増本女史か?」と口にする。金田一はゆっくりと視線を巡らせ、「では、その中から私を除外すると?」と返した。等々力は驚愕の表情を浮かべた。

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事件の真相

捜査本部に張りつめた空気のなか、金田一は増本への疑いを口にした。確かに増本のリップ・リーディング能力は優れていたが、ひどい近眼を隠していた。あの距離でタマ子の唇ははっきり読めるはずがない。古谷警部補が赴き、増本を逮捕した。

増本は近眼であることを、金田一が知らないと思っていた。初めは重要な相談が行われていることと、河田夫人が監視しているという事実だけをつかんだにすぎない。それでも金田一の職業を知る増本は、一種のいたずら心からタマ子が言ってもいない言葉を、メニューに書き留めてみせたのだという。カフェを出た河田夫人が戻ってくるのを、窓の外から金田一が見守っていたことも、増本は気づいていた。

その後、増本は婦人を尾行し、河田家のスキャンダルをあらためて確認した。愛人との情事、家庭崩壊、娘の退学――犯罪を構成する条件が揃いすぎていると感じた彼女は、自らの筋書きに従って行動を開始する。逗子の別荘に女中として潜入し、飲み物にストリキニーネを混入。重人とタマ子、二人を毒殺し、ひとりは庭に埋め、ひとりはトランクに詰めたのだった。

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『鏡の中の女』の結末

等々力は机を指さしながら言った。「増本の犯罪を証明する手がかりが何ひとつない」と。そのとき金田一の目に留まったのは、タマ子が身に着けていたはずのダイヤの指輪だった。それが決定打だった。

増本は本来あの指輪が目的ではなかった。けれど、いざとなったとき欲が出た。そしてタマ子と重人をこの世から消せば、増本のリップ・リーディングが嘘だと証明する者は誰もいない──そう確信していた。

等々力は眉をひそめ、問い返す。「まるで君が信用されなかったから犯罪に手を染めたようなものか。自分の技術を過小評価されたくないというプライドか?」と。金田一は小さく肩をすくめ、「私がもっと驚いてみせればよかったんです。増本女史のいたずらにのって、真剣に事件に乗り出せばよかったんです…。そうしたら、散々私に骨を折らせた挙げ句、『金田一先生。あのリップリーディングはうそだったんですのよ』と彼女は笑ったに違いない」と吐露した。

ところが金田一は信用したふりをしながらも、真実は疑い続けたせいで、増本のプライドを深く傷つけたのだ。事件の核心は、ただ自らの技術を証明したいという歪んだ動機にあった

面会室で増本が外界と隔てる、透明なパーテーションに手を当てる。しかし金田一は動かずにいた。すると彼女は何も語らずに去っていった。その後ろ姿が金田一の瞼に焼き付いた。

金田一は「人がなにをやらかすか、わからんというのは、毎日の新聞でいやというほど読んでらっしゃるでしょう。ストレス時代なんです…現代はそういう時代なんです」と倦怠感を滲ませた。

日が傾きかけたベンチに腰を下ろすと、金田一はそっと等々力にもたれかかった。等々力は気づくと金田一の肩を抱き寄せ、言葉少なにその肩を擦り慰めた。

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『鏡の中の女』のまとめと感想

ちょっとしたいたずらのつもりだったが、金田一にプライドを傷つけられた女が、筋書きとおりに殺害したという話でした。

金田一ができる探偵だからこそ、増本の近眼も知っていたし、その時の読唇術を信用できませんでした。増本は金田一をちょっとからかってあげようと思っただけでしたが、話に乗ってきてくれません。

ならば自分の言っていたことが本当だと、その通りの殺人事件を起こそうとムキになりました。そのせいで無関係の男女が殺害されます。とはいえ、この男女もまた問題のある2人でした。遅かれ早かれ登喜子を殺害していたかもしれません。

タマ子という女が来たことで夫は不倫をし、妻はその隙をつかれて運転手につけこまれます。運転手はそれだけでなく、娘にも手を出していました。河田家はバラバラだったのです。

金田一が女心を少しでも分かってあげたら、防げた事件かもしれません。見終えると少し物悲しい話でした。

ドラマの後に幕間として「金田一と増本女史のリップ・リーディング」というのが入ります。増本役の中嶋さんがなんて言っているのかを当てるゲームで、金田一役の池松さんが当てられずに苦戦する様子が面白かったです。

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