子供を置き去りにした誤解をなんとか解きたい里沙子だったが、夫陽一郎の返答は疲れているのはわかるが、夜に道路に置いていくのはやめてくれというものだった。納得出来ない里沙子だったが、それ以上は言わずにいた。娘は食べ物を床に落として遊び、それを咎めてもいうことをきかない。夫が優しく娘に言うと、いう事をきく娘。その二人の関係をどこか妬ましく見る里沙子だった。
義母の家に娘を預ける里沙子に、今日泊まっていったらと声をかける義母。夫に頼まれたんですよね、私は大丈夫ですと答える里沙子だった。裁判を辞めさせてもらったらと助言する義母に、里沙子は自分を否定されている気がしていた。
誰にも相談できないため、友人の南美に「裁判員に選ばれた、無理かな」と里沙子はメッセージを送った。
第4回公判
夫・寿士の証人喚問が続いていた。まずは検事から子供が産まれる前から、結婚生活はうまくいっていたかを問われる。正直うまくいっていないし、働いて帰りが遅いので擦れ違っていたと夫は答えた。次は弁護人からの質問で、子供を作ることになって妻に仕事を辞めるようにいったのはあなたか?と問われる。夫は二人で話し合って決めたという。弁護人はさらに仕事を辞めて子作りに専念しろといわなかったかと問う。それに対して夫は言っていないと否定をする。
当時の収入は妻と夫、どちらが多かったかを問われると、妻であると返答した。そのことについてどう思っていたかをきかれ、別にどうも思っていないと夫は答えた。そして不妊治療を始めたのは二人だけの意思かと問う弁護人、夫は元々周囲から子供は早く作ったほうがいいといわれてたという。具体的には誰か?と問われ、自分の母だと寿士は答える。
今度は義母・安藤邦枝が証言台に立った。最初から二人の結婚に賛成ではなかったという義母、子供が産まれても抱こうともしないし、とても愛情があるように見えなかったと証言する。検事から息子に頼まれて子育てを手伝ったことはあるかを問われ、もちろん、自宅で書道教室をしていて忙しかったけど、喜んで行った。でも水穂が頼むのが恥に思っていたようで強情張っていたという。具体的にはどんなことがあったのかときく検事、義母は赤ん坊にテレビばかりを見せていた、自分が下手だからテレビにお守りをさせていたという。
義母の主張はこうだった。
家に来た義母は水穂が子供にテレビばかりを見せていることに不満があった。水穂は知育用のDVDを子供に見せていたのだが、義母は子供と直接触れ合わない水穂の育児方法に納得がいってない様子だった。あまり笑わない子供が、テレビばかりを見ているからだと、義母の中では考えていた。それを注意すると、水穂は凄い剣幕で食ってかかってきたという。自分の子供が他の子供に比べて劣っているというのか、そういうことを外で言いふらすなといわれたという。
弁護人は水穂は慣れない子育てで自信をなくしていた。義母のそういった言動に追い詰められていたとは思わないのかと問う。弁護人の主張する話だと、二人のやりとりはこうだった。
義母は子供が笑わないことが気になり、最近表情が乏しい子供が増えてるという。水穂はテレビを見せることで泣き止むから見せていたのだが、義母は抱っこしてあやせばいいといって認めない。水穂の育児を認めず、こんなやりかたしているから、子供もまともに育てられないという。不安に思った水穂は自分の子供が他の子と比べておかしいのかと問う。そんなこと言っていないといいながら、乳を飲むのが下手だ、六ヶ月の割りに小さいなど義母は言うのだった。
義母の言葉で他と比べて子供と自分が劣っていると水穂は思った
義母の言動でますます子供が他の子に比べて劣っていると水穂は思った。辛くて協力を頼めなくなったと思わないかと義母に問う。しかし義母はそんなのは言い訳だといって取り合わない。息子が収入少なくて妬んでいたというが、水穂こそ家庭に一銭も入れないという。そこで弁護人は将来のために貯金をしていたと主張する。だが義母は嘘だという。ブランド物だか何だか買い物をしまくっていたと息子が言っていたという。そもそも息子が忙しくなったのは、水穂のせいだとまで主張する。
水穂は家庭に金を入れず、ブランド品を買いまくっていた
そんな義母の主張はこうだった。
今のままでは子供が産めないという水穂は、旦那の給料の安さを指摘する。不妊治療や教育費もかかるのにどうやってやっていくのかと。夫は贅沢をしなければやっていけると思う、会社にも子供がいて生活している人もいるのだからと。家はどうするのかときく水穂。この辺りは環境も悪いし、良い学校もない。仕事を辞めて子供を作れというなら、もっと給料のいい会社へ移れという。
しかし弁護人の主張はこうだ。
このままじゃ産めないというのはどういう意味だときく夫。自分が会社を辞めてしまったら、貯金もできないし今後の計画を立てたほうがいいと思うと水穂はいう。すると夫は自分の稼ぎが悪いってことかという。水穂はそうではなくて、子供が産まれたら一戸建てが欲しいといっていたからと答える。しかし夫はキレてやりくりが下手なのを他人のせいにするな、そうしなきゃ生活できないというなら転職すると。家計について話し合いがしたいだけだという水穂の言葉は聞かず、給料のいい会社に移ればいいんだろ、といって話を一方的に切り上げてしまうのだった。
裁判員たちが集まって話し合いをする。検察側と弁護人側の言っていることが逆過ぎてわからない。家に帰るのが怖くなった。ますます結婚するのが嫌になった、などそれぞれ裁判に参加して感想を抱くのだった。
子供を迎えに義母の家に向かった里沙子に、夫に言われたからか自分の手料理のレシピを渡そうとする。里沙子は自分が否定されているように感じ、何とか理由をつけて断ろうとする。そうこうしている内に娘が食べ物でまた遊び始める。しかし義母は叱るでもなく、甘やかすばかりだった。家族のために一生懸命息子は働いているのだから、心配かけないでやってと義母に言われる里沙子だった。
自宅に戻るとお腹がすいたと言い出す娘、食べ物で遊んでいたせいだと里沙子はいう。あまりに駄々を捏ねる娘に苛立つ里沙子だったが、子供と一緒にいて産まれた時の話を聞かせると、やはり愛情が湧いてくるのだった。
その頃裁判官である松下朝子は、子供を保育園に迎えに行っていた。遅くに迎えに行ったことで、もう少し早く来てと注意をされていた。自宅に戻ると夫も戻ってきたが、早く戻れるなら迎えに行って欲しいと朝子はいう。そして来月の育休はいつになったかを問うが、夫は申請もしていない上に理由をつけて言い訳する。交代で育休を取る約束だったじゃないかという朝子に、義母に頼めばいいという。朝子はそれを拒否すると、子供が起きたらどうするといって話を濁す。二人で働いて二人で育てると決めたじゃないかと言う朝子に、夫はそうしないと産まないと言ったからだと人のせいにするのだった。
里沙子が送ったメッセージを心配して、南美は電話をかけてきた。変なメールを送ってごめんという里沙子に、旦那に誤解されたってどういうことと話を聞いてくれる南美。里沙子は戸惑いながらも子供がグズった時に、置いていってしまったところを見られた話をする。南美は笑って一緒に住んでいるなら、虐待していないことぐらいすぐわかるから大丈夫というのだった。
一方六実は仕事をしていたが、部下が子供のことでどうしてもその日早く帰りたいということを願い出る。その日は客先との会食という仕事だったが、部下に代わり自分が出ることを了承する。喜ぶ部下は感謝しながら、子供がいなければもっと働けるのに、子供を作らないのは正解だと六実にいうのだった。作りたいのに作れない六実、その言葉に悔しさを感じ、自宅マンションのエレベーターのボタンを激しく叩くのだった。
また裁判員である山田は相変わらず22時まで会社に残っていた。同僚がなぜいつも遅くまで残っているのかを問うと、妻がお嬢様育ちで同じ生活をさせてやれない自分の顔を見たくないからだと教える。女の人はよくわからない、裁判でもどこに地雷があるのかさっぱりだと零す山田、同僚はそんな山田に毎晩22時まではフリーということかと言い、付き合いますよと共に残るのだった。
南美との電話を終えた里沙子の家に夫が帰宅する。実家に泊まるかと思っていたせいか、残業をしていたという夫。里沙子が料理のことを断ったことで、義母が余計なことをしたかと気にしていると教える。本当にもう大丈夫だという里沙子、しかし夫は作った料理を見てあてつけでこんなご馳走を作っているのかと嫌味をいう。無理をしていない証明を料理でしようとしているんだろう、そんなこと考えること自体がおかしいとも指摘する。さらに義母は良かれと思ってしているのだから意地を張るな、最近酒ばっかり毎日飲んで前はそんなことなかったのにと、畳み掛けるのであった。
夫が眠った後、スマホに義母のレシピが届き見もせずすぐ削除し、一人キッチンでこっそりビールを里沙子は飲むのだった。
第5回公判
まずは義母に対する裁判員の質問から始まる。
弁護人の話では心神耗弱状態ということだったが、育児以外の掃除とかはどうだったかと問う。いつ行ってもきちんと片付いていたと証言する。精神的にまいっている感じはあったかとの問いには、料理もイタリアだかなんだか難しいのを本を見ながら作っていた。普通子供がいたら散らかり、そんな余裕もないはずなのに見てくればっかり気にしてと非難する。
手伝いに行っていた頃、息子が帰っていないのは知っていたかと、裁判員が問う。給料のいい会社に移って仕事が忙しくなったからだと義母は主張する。そうでない日も帰って来ないのは、さすがに被告人もまいったのではと問うと、夜鳴きする子供がいて眠れないと仕事に支障が出る、だからビジネスホテルにでも泊まってゆっくり休めと言ってやったと答える。息子が帰らなかったのは、母が他に泊まれと言ったからか?と言われると、完全に肯定する義母。一家の大黒柱にそれぐらい気遣いするのは当然だという。その発言に驚く裁判員、しかし義母はさらに開き直る。専業主婦がいるのにどうして男が仕事を犠牲にするのかと。息子が病気にでもなったら、誰が子供と妻を養うのかと。
その発言に検事はそろそろ終わりにと切り出す。そして裁判官も他になければという。それを遮り義母は発言を続ける。いくら時代が変わったって、眠たいとか疲れたとかそれだけのことで、子供を産むんじゃなかったっておかしいでしょう。だから言ってやったんです、息子に心配かけるなと。質問は終わってるので発言はもう結構だという裁判官、だが義母の気持ちは治まらない。席を立ち子育てについてさらに続ける。子育てはどんな大変ことでも頑張るものだ、そんなのすぐ通り過ぎるし後で笑うこともできる、心神耗弱なんて嘘だと。水穂に近付く義母は自分は助けようとしたじゃないか、どうして子供を殺した、子供を返せ、この人殺しと叫ぶ。それを係員たちが駆けつけて引き離し、無理矢理退廷させるのだった。
裁判員たちが集まり議論をする。妙なことをきいてすまなかったと詫びる声に、言いたいこと言えて良かったんじゃないかという。ホテルに泊まれというのはさすがに酷いんじゃないかという声には、母親ってそういうこというものだという意見。そして姑のいうことも一理ある、被告人は子育てが下手だったわけだし、それを人のせいにして追い詰められたと言われてもという疑問の声が出る。里沙子は姑のいうことはわかるが、掃除は姑が来るからしていたのかもしれないし、息子の言うことばかりきいてかばって、二人で誤解していたとしたらと意見を言う。
しかし、別の裁判員は子育てに手が回らないから来てもらうわけであって、手が回らないなら回らないといえばいい、事前に掃除すること自体見得だと。困った里沙子は隣の六実を見る。すると心神耗弱状態だったとしても被害妄想すぎる、夫や姑は良かれと思ってしたことを悪く取りすぎていると答えるのだった。
義母の家に娘を迎えに行く里沙子、娘は相変わらず食べ物で遊んでいた。遊ばせないように注意をして欲しい、家ではやらなくなったのだからと義母にいう。しかし義母は疲れているのね、母親がイライラすると子供もわかるのよと、取り合ってもらえない。挙句、孫は家に来てのびのびしているから、里沙子も気を楽にしろという。そしてまた里沙子にレシピを渡す義母だった。
話をしても取り合って貰えず憤る里沙子は、自宅に戻るなりもらったレシピをすぐに破ってゴミ箱に捨てる。しかし夫から電話が入り、会社の人を今から連れて帰るから何か簡単なものを作ってくれという。急なことに困る里沙子、食材もないと言っても義母からもらったレシピがあるだろうという夫。急いで破ったレシピをテープで貼り繋ぎ、慌ててスーパーへ食材を買いに走る。
料理を作っているそばから娘は本を読んで欲しいと言い出すが、今は手が放せず後にしろという里沙子。テーブルの上に用意した料理をつかみ、床に投げていく娘を見て、とうとう里沙子はキレてしまう。「食べ物で遊ぶなって何回言えばわかる!」と怒鳴ってしまう。すると泣き喚く娘、タイミング悪く夫が帰宅するのだった。
自己嫌悪から暗い部屋で膝を抱える里沙子の元に夫が来る。君が平気だというからこれぐらい大丈夫だと思った、気づいてやれずに悪かったと詫びる夫だった。
次の日、朝から夫と娘は義母の家に向かう。里沙子は自宅で一人、悠々自適な時間を過ごす。買って来た惣菜を食べながらビールを飲む、そんな時間を過ごしていた。知らぬ間に眠ってしまう里沙子、不意に起きると慌てて家事をしようとするが、直ぐまた横になって時間を過ごすのだった。