【This is I】ネタバレ解説|実話が問いかける「命を救う」とは何か

映画
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Netflix映画『This is I』は、歌で生きようとした愛の半生を描く物語です。しかし本作は、単なる成長譚ではありません。物語のもう一つの軸には、彼女と向き合いながら自らの問いと格闘した医師・和田耕治の葛藤があります。

「命を救う」とは、肉体のことなのか。それとも心のことなのか。外科医として違和感を抱えていた和田は、愛との出会いを通じて、その問いに向き合うことになります。

本記事では、物語の流れを整理しながら、愛と和田それぞれの選択が何を意味していたのかを読み解いていきます。

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3行まとめ

  • 『This is I』は、性別違和に向き合いながら生きた愛と、彼女を支えた医師・和田の物語である。
  • 本作が問いかけるのは、「命を救う」とは、何を意味するのかというテーマだ。
  • 二人の選択は代償を伴いながらも、その問いを次の世代へと受け継いでいく。
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あらすじ

幼少期から歌うことが好きだったケンジは、周囲から「オトコ女」と揶揄されながらも、自分の違和感と向き合い続けてきた。

やがてニューハーフショークラブ「冗談酒場」で“愛”として歌い始めた彼女は、美容整形医・和田耕治と出会う。

外科医として「命を救う」ことに疑問を抱いていた和田は、愛の真摯な願いを受け止め、除睾手術、そして性別適合手術を引き受ける。しかし医療行為を巡る社会的圧力や死亡事故をきっかけに、和田は追い詰められていく。

やがて彼は命を落とすが、愛は彼の選択を胸に、自らの道を歩み続け、世界大会の舞台へと立つ。

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物語の流れ(要点整理)

  • 幼少期から性別への違和感を抱えていたケンジは、“愛”として舞台に立ち始める。
  • 美容整形医・和田耕治と出会い、除睾手術を決断。
  • さらに性別適合手術を受け、自分として生きる道を選ぶ。
  • 医療行為を巡る社会的摩擦と死亡事故が起こり、和田は追い詰められていく。
  • 和田の死後も、愛は舞台に立ち続け、世界大会へと進む。
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主な登場人物

愛(ケンジ)/望月春希
性別違和を抱えながら歌で生きようとする本作の表の主人公。幼少期から「男らしさ」を求められることに違和感を抱き続ける。和田との出会いを通して除睾手術・性別適合手術を決断し、自らの人生を切り開いていく存在であり、同時に和田の問いを引き受ける存在でもある。

和田耕治/斎藤工
美容整形医。外科医時代に「命を救うとは何か」という疑問を抱き、美容医療の道へ進む。愛の願いと向き合う中で医療の意味を問い直し、性別適合手術に踏み出す。本作の思想的中心人物であり、その選択は大きな代償を伴う。

母(初恵)/木村多江
愛の母。長く娘の苦悩に向き合えず、見て見ぬふりをしてきたが、物語終盤で初めて真正面から向き合う。家族という最も身近な社会の象徴であり、愛を「そのまま」受け入れる存在へと変化していく。

鶴久/中村獅童
行政・制度側の立場から和田を追及する存在。医療の正当性を「法」によって測ろうとする象徴的役割を担う。

アキ/中村中
「冗談酒場」の先達。愛に現実を教えながらも、彼女を受け入れる存在。愛が自分の立ち位置を理解するうえで重要な役割を果たす。

裕子/MEGUMI
和田の看護師。医療現場の内側から和田を支える存在であり、葛藤を静かに見守る立場にある。

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本作は愛の物語であり、和田の物語でもある

『This is I』は、表向きには愛の成長物語として進んでいく。
幼少期から違和感を抱え、「オトコ女」と嘲笑されながらも歌い続けた彼女が、やがて“愛”として舞台に立ち、自らの体と向き合い、世界大会の舞台へと進む。その流れだけを追えば、自己実現の物語として成立している。

しかし、物語は最初から「特別性」を揺さぶる。

アキは愛にこう告げる。

「自分だけが特別と思ったら負けや」

それは突き放す言葉のようでいて、地に足をつけろという助言でもある。
“特別な悲劇の主人公”としてではなく、一人の人間として立て。
愛の物語はここから始まる。

そして本作を単なる成長譚にとどめないのが、医師・和田耕治の存在である。

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和田が抱えていた「命を救うとは何か」という違和感

和田の葛藤は、愛と出会う前から始まっている。

外科医として働いていた頃、手術は成功した。命は助かった。だが患者は泣きながら訴える。「これでは生きていけない」と。肉体は救われても、その人の人生は救われていない

このズレが、和田の中に残り続ける。

やがて彼は美容整形医となり、愛と出会う。

冗談酒場で、自らの過去を語る愛に、和田はこう語る。

「変っていうのは、誰も認めてくれないことじゃないかな?だから誰か一人でも認めてくれたら、それは変じゃない」

“変”は本質ではなく、孤立の状態である

この肯定は医療行為ではない。
だが、この瞬間から和田の問いは具体化する。

■ 出会いから決断までの流れ(整理)

  1. 愛と出会う
  2. 「輝いていた」と認める
  3. 除睾手術の依頼
  4. 両親への告白という条件
  5. 手術の実施
  6. 性別適合手術の決断

和田は軽率に踏み出したわけではない。
だが、愛の言葉は抽象的な倫理を現実の選択へと変える。

「麻酔から醒めんでもええよ。私は女になりたいんや」

和田にとって「命を救う」とは、肉体ではなく“その人がその人として生きられる状態”を守ることへと変わっていく。

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医療と制度の摩擦、そして代償

和田の医療は、制度との緊張の中に置かれる。

死亡事故が起き、世論は単純な構造を求める。
「闇医者」「危険な手術」というレッテルが飛び交う。

その中で、和田は取調べの場でこう語る。

「医者が患者を助けるんじゃない。その逆です。患者さんの生きたいという力をもらって、医者は生かされている」

これは彼の到達点である。

医療は上からの救済ではない。当事者の意思があって初めて成立する

しかし、その選択は代償を伴う。
書類送検、過労、そして死。

和田は英雄でも悪人でもない。
和田の選択は制度と衝突したが、それは医療の在り方を再定義しようとした結果でもあった。

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和田の死は終わりだったのか――継承という読解

死亡事故のあと、迷う和田に、今度は愛が言う。

「正しかったに決まってる。間違いやない。正しかったに決まってる!先生はやれる。私もまだまだ、もっともっともっとやれる!輝ける」

立場は逆転する。かつて肯定された側が、肯定する側になる。

医療の正しさは制度ではなく、当事者の生き方によって支え直される

和田はやがて命を落とす。だが映画は、そこで終わらない。

墓前で愛はこう語る。

「先生のために、歌って踊るわ。見たってな。先生の初めての女の、歌と踊りや」

それは感傷ではなく宣言だ。

和田が最初に応えた“生きたい”という意思が、世界の舞台で形を持った

和田が去った後も、問いは残る。

愛は医療を継ぐわけではないが、和田の問いを生き方で引き継ぐ。

和田の死は終わりではない。問いは愛に受け渡され、本作は「命を救うとは何か」という問いを次へと継承する物語として完結した。

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Q&A|『This is I』で気になるポイント

ここからは、作品を観た人が気になりやすい点を整理します。

Q1. 『This is I』は実話ですか?

本作は、実在の医師をモデルにした物語とされています。作中の和田耕治という人物はフィクションで、性別適合手術に尽力した医師の存在が背景にあります。

ただし映画としては脚色も含まれているため、ドキュメンタリーではなく「実話をベースにしたフィクション」と捉えるのが妥当でしょう。

Netflix映画『This is I』は、はるな愛『素晴らしき、この人生』(講談社)、和田耕治・深町公美子『ペニスカッター:性同一性障害を救った医師の物語』(方丈社)をもとに制作されています。

映画ではエンターテインメントとして再構成されていますが、当時タブー視されていた性別適合手術に挑んだ二人の歩みは、書籍でより詳細に知ることができます。物語の背景を深く理解したい方は、あわせて手に取ってみるのもよいでしょう。

📘 はるな愛『素晴らしき、この人生』
当事者としての葛藤と歩みを記した自伝的書籍。

📘 和田耕治・深町公美子『ペニスカッター』
医療現場から見た決断と葛藤を描くノンフィクション。

Q2. 和田はなぜ命を落としたのですか?

映画内では、死亡事故後の社会的圧力や過労が重なった末の死として描かれています。直接的な因果を断定する描写はありません、医療行為を巡る緊張状態が彼を追い詰めていった構図が示されています。

Q3. 和田の医療行為は違法だったのですか?

作中では、法的なグレーゾーンや制度との摩擦が描かれています。性別適合手術は当時十分に制度化されていない領域でもあり、行政との対立が生じていました。ただし映画は違法性を断罪する構図ではなく、「医療の正当性は誰が決めるのか」という問いを提示しています。

Q4. なぜ和田の死のあとに世界大会の場面が描かれるのですか?

物語構造として見ると、和田の死を終止符ではなく“継承”として描くためだと読めます。愛の舞台は、和田が応えた「生きたい」という意思が形を持った場面であり、問いが次へと受け渡されたことを示しています。

Q5. 本作は愛の成長物語ですか?それとも医療ドラマですか?

どちらか一方ではありません。表面上は愛の半生を描きますが、思想的中心には和田の葛藤があります。本作は「成長」と「医療倫理」が交差する地点に立つ物語だと言えるでしょう。

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この作品が向いている人/向いてない人

この作品が向いている人

  • 医療やジェンダーのテーマを、重すぎない形で観たい人
  • 実話ベースの物語に関心がある人
  • 人生の選択や「自分として生きること」を描く作品が好きな人
  • エンタメ性のある演出の中に、静かな問いがある作品を楽しめる人

本作はテーマ自体は重いですが、演出は比較的ポップで、歌やパフォーマンスの場面も多いです。重厚な社会派ドラマというよりは、エンターテインメントの形式を取りながら問いを投げかける作品です。

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向いていない人

  • 徹底した社会告発劇を期待している人
  • 医療制度を深く掘り下げたリアルな医療ドラマを求める人
  • 全編を通してシリアス一色の作品を観たい人

本作は医療倫理や制度との摩擦を描きますが、それを重厚なドキュメンタリー調で展開するわけではありません。ポップな演出や舞台的な高揚感が随所に挟まれるため、硬派な社会派作品を想定すると温度差を感じる可能性があります。

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まとめ|『This is I』が残した問い

『This is I』は、愛の半生を描いた物語だ。
歌い、踊り、自分として生きようとする姿は、確かに前向きで、時にポップでさえある。

だがその裏側には、医師・和田耕治の葛藤がある。

外科医として抱いた違和感。
「命を救う」とは何かという問い。
愛との出会いを通じて踏み出した決断。
そして、その選択が伴った代償。

和田の人生は、成功物語としては描かれない。
しかし彼の問いは、愛の生き方の中に受け継がれていく。

愛は医療を継ぐわけではない。
だが和田が応えた「生きたい」という意思を、自らの人生で体現し続ける。

世界の舞台に立つ姿は、単なる栄光ではない。
それは、「あなたの選択は間違いではなかった」という静かな証明にも見える。

『This is I』が問いかけるのは、命を救うとは何か、ということ。

肉体を救うことか。
心を救うことか。
それとも、誰かの生を前へ進めることか。

答えは示されない。
だが、愛と和田がそれぞれに選んだ道の中に、その手がかりは確かにあった。

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