【シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~】のキャストとネタバレ感想

スペシャルドラマ
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NHK総合で2025年8月16日と17日の2夜に分けて、前編・後編で放送されたNHKスペシャル終戦80年ドラマ【シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~】のキャストとネタバレ感想をまとめています。

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【シミュレーション】のキャストとスタッフ

主要人物

  • 宇治田洋一(うじた よういち)…池松壮亮
    産業組合中央金庫調査課長。東京帝国大学出身 首席で卒業
    模擬内閣では「内閣総理大臣」を担当

総力戦研究所・研究員

  • 樺島茂雄(かばしま しげお)…仲野太賀
    同盟通信社政治部記者
    模擬内閣では「内閣書記官長兼情報局総裁」を担当
  • 村井和正(むらい かずまさ)…岩田剛典
    海軍少佐。海軍大学校を首席で卒業
    模擬内閣では「海軍大臣」を担当
  • 高城源一(たかしろ げんいち)…中村蒼
    陸軍少佐。模擬内閣では「陸軍大臣」を担当
  • 峯岸草一(みねぎし そういち) …三浦貴大
    企画院物価局事務官。模擬内閣では「企画院総裁」を担当
  • 宮本達夫(みやもと たつお)…笠原秀幸
    日本製鉄から参加。研究所では「企画院次長」を担当
  • 前島俊樹(まえじま としき)…前野朋哉
    日本郵船勤務。模擬内閣では「企画院次長」を担当
  • 田中耕(たなか こう)…堀家一希
    模擬内閣では「陸軍大臣次官」を担当
  • 久保廉太郎(くぼれ んたろう)…
    満州から来た
  • 甲斐田悟…
    模擬内閣では「大蔵大臣」を担当
  • 住吉進…
  • 安西博…
    模擬内閣では「外務大臣」を担当
  • 野島光男…
    模擬内閣では「商工大臣」を担当
  • 木村…
    模擬内閣では「内務大臣」を担当

総力戦研究所・幹部

  • 板倉大道(いたくら だいどう)…國村隼
    陸軍少将。総力戦研究所の所長
  • 瀬古明(せこ あきら) …佐藤隆太
    陸軍中佐。機密情報を駆使し、戦況や内外情勢の近未来を予測する特殊研究を考案

宇治田洋一の関係者

  • 宇治田小百合(うじた さゆり) …二階堂ふみ
    洋一の妹。夫は日中戦争で戦死。娘の初子と実家に戻る
  • 宇治田英二(うじた えいじ) …杉田雷麟
    洋一と小百合の弟。作家志望
  • 初子…浅利香那芽
    洋一の姪っ子。小百合の娘
  • 井川忠雄(いかわ ただお) …別所哲也
    宇治田が勤める産業組合中央金庫の理事
    宇治田を研究所に推薦した

内閣関係者

  • 近衛文麿(このえ ふみまろ) …北村有起哉
    内閣総理大臣時に、総力戦研究所を直属機関として設立
  • 鈴木貞一(すずき ていいち) …嶋田久作
    企画院総裁。日本開戦には消極的
  • 富田健治…
    内閣書記官長
  • 東條英機(とうじょう ひでき) …佐藤浩市
    陸軍大臣のち総理大臣
    開戦強硬派だったが、首相就任後は天皇の意向で和平交渉を模索

宮中

  • 昭和天皇(しょうわてんのう) …松田龍平
    和平交渉による戦争回避を求める
  • 木戸幸一(きど こういち) …奥田瑛二
    天皇最側近の内大臣として、首相指名に影響力を持つ

陸軍省

  • 武藤章(むとう あきら) …中野英雄
    陸軍少将。軍務局長として陸軍省の軍略・政略の実務責任者だった
  • 西村良穂(にしむら よしほ) …江口洋介
    陸軍中佐。陸軍省軍務局高級課員
    総力戦研究所を作ったメンバーの一人

脚本・編集・演出:石井裕也
原案:猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』
題字:赤松陽構造
音楽:岩代太郎
公式HP

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前編のネタバレ

アメリカとの総力戦になった場合、どうなるのかを研究する組織・総力戦研究所に呼ばれた宇治田洋一は、模擬内閣で総理大臣を担当する。

両親は満州で国に逆らったとみなされて葬られたと、洋一は思っていた。そのことを憲兵に言うが、彼らは何も教えないどころか、腕を折る暴行を加えた。

以来、洋一は国に対して牙を抜かれたよう大人しくなっていた。今回の研究も何事もなく流すつもりだった。

集められた自分と同世代のエリートたちが、それぞれ模擬内閣で役目を担い、自由闊達に議論を交わす。日本の資源不足を補うため、南方へ軍を進める計画を立てる陸軍大臣の高城。それを真っ向から否定する企画院の宮本や峯岸。洋一は場の空気に応じて、机上で開戦を許した。

2回目の会議でアメリカとの国力を比較し、さらに石油を手に入れたとしても運ぶ船がないという結論に至る。そもそも戦争できると考えるほうがおかしいと宮本はいう。だが、所長の板倉は軍部の方針は変わらないと言って先を促す。

当初波風立てずに過ごそうと思っていた洋一だが、西村から亡くなった父母の情報を探るから、本当のことを教えて欲しいといわれ本腰を入れる。みなが集めたデータに基づき計算をした洋一の導き出した答えは、日本は必ず負けるという結論だった。

しかし、戦争に反対していた宮本のもとに赤紙が届き、研究所の面々はこれ以上踏み込むのは危険だと恐れ始める。

日本は南部仏印進駐に踏み切り、予想どおりアメリカは即座に対日経済制裁を発動した。世間の反米感情が高まり、戦争を望む声が市民からも上がり出す。西村は戦争にならないように、研究所に望みを繋いだ。

研究所発足

1941年(昭和16年)。軍と政府は日米開戦の前から、アメリカとの戦争の行方を秘密裏に研究していた。宇治田洋一(池松壮亮)のもとに、近衛文麿(北村有起哉)からの封筒を携えた男たちが現れ、「宇治田洋一さん、あなたは選ばれた。これからお国のために仕事をしていただく」と告げる。

宇治田は意味をつかめず混乱するが、そこへ井川忠雄(別所哲也)が来て呼び出す。アメリカとの開戦を回避するべく動いていた井川は、「ここから誰か出すならお前しかいない。俺が是非にと首相に推薦した。愚かな戦争を阻止しろ」と言い残し、アメリカへ向かった。

自宅で洋一が妹の小百合(二階堂ふみ)と話す。小百合は「父さんと母さんはお国に裏切られて死んだのに、偉い人たちは勝手だ。今度は兄さんの力を借りようなんて」とぼやいた。

アメリカとの戦争が始まる8か月前、日本最高の頭脳を持つ若き精鋭が密かに内閣総力戦研究所に集められた

部屋のカーテンが閉められ、所長の板倉大道(國村隼)が説明する。ここは内閣直属の研究所で、国家の命運を占う総力戦を研究する。総力戦とは、軍事のみならず経済、思想、外交を含め国民総力を結集する戦いであり、たとえアメリカ、イギリスと事を構えることになっても我が国が総力で勝てる道を、あらゆる可能性から探るという。

そのために官僚、軍人、民間から優秀な頭脳を選抜し、ここにいる者は我が国最高峰の精鋭集団だと告げた。近衛らが退室すると、樺島茂雄(仲野太賀)が挙手して「理想は高いが実態は伴っていない。こんな粗末な場所に集められている」と嫌味を述べる。

研究期間は1年だと瀬古明(佐藤隆太)が補足する。続いて村井和正(岩田剛典)が挙手し、「あらゆる方面の正確なデータが必須だ。国が隠している真の情報はすべて提供されるのか」と質すと、板倉は「通常は閲覧できない国家機密を含め、あらゆる情報を提供する」と答えた。

映写機が用意され、「これから世界の現実を見る。外部に漏らせば死刑もあり得る」との前置きののち、上映が始まる。支那での武力衝突から4年、すでに多数の戦死者が出ており、戦線は膠着、日本は泥沼にはまり解決の糸口もない。その理由は英米の後方支援にあり、支那はアメリカとイギリスに支えられている。

満州で死んだ日本人の遺体が映し出され、久保廉太郎は「ゲリラにやられた。女や子どものゲリラもいる」と説明する。久保自身も満州から来た者で、同僚が抗日ゲリラに殺されたと語る。

洋一は自宅に戻り、父母の遺影を前に思いを巡らせる。「国の仕事は順調か」と問われると、「お国のことに関わるだけ損だ。目立たず、適当にやり過ごすだけだ」と吐き出す。

模擬内閣

氏名標が配られ、そこには名前と役職が記されていた。村井の役職は海軍大臣。村井はそれを見て「くだらん」と鼻白み、樺島も子どものごっこ遊びかとさらに呆れる。

瀬古が趣旨を説明する。将来を担う優秀な若者を集め、この研究所内に実物より優れた架空の内閣を作る。配布した氏名標どおりに各自が我が国の閣僚に扮し、宇治田洋一を内閣総理大臣として模擬内閣を編成する。

所員は統監部として軍の作戦をつかさどり、幹部が提示する想定を前提に、今後取るべき国策を研究する。たとえば石油資源確保のために軍を南方へ進めた場合、世界はどう動き、何が起こるかを徹底的に検討する。結論は8月末、首相官邸で実際の閣僚の前に提出する手はずである。

これは遊戯ではない。瀬古と陸軍の西村良穂(江口洋介)中佐が考案した特殊研究であり、イギリスの国防大学を手本としつつ、それ以上の水準を目指す。官・民・軍の各所からあらゆる情報を持ち寄り、模擬実験で世界情勢を正確に予測する、世界に先駆ける画期的な取り組みだ。参加者は先駆者としてこの世界の未来を知る者となる。研究所内では自由闊達な議論を許可する、と板倉は告げた。

洋一が総理役に選ばれたのは民間出身だからで、板倉は彼に大きな期待をかけていた。そこへ東條英機(佐藤浩市)の車が通りかかり、軍人たちが一斉に敬礼する中、洋一は動じず敬礼しなかった。東條は首相官邸で車を降り、西村と言葉を交わす。西村はこの研究機関の設立に関わり、若いエリートに日米戦の研究を担わせる構想を推し進めていた。

机上演習

第1回机上演習が始まる。樺島が説明に立とうとした瞬間、田中耕(堀家一希)が割って入り、地図上に兵の駒を置く。村井が引き継ぎ、ABCD包囲網は一段と強化され、石油輸入の8割以上を米国に依存する現状は極めて不安定だと指摘する。自存自衛のためには南方を武力占領する他ないと主張し、賛同の声が続く

宮本達夫(笠原秀幸)が反論する。ドイツの快進撃で欧州は混乱しており、米国は現状中立だが、軍を南へ進めれば英米が黙認するはずがない。南部仏印までなら問題なしというのが陸軍の見立てだが、問題がないからとさらに南へ進めば、盗人の魂胆は誰の目にも明らかだと切り返す。

峯岸草一(三浦貴大)は経済の観点から情勢を捉えるとして、陸軍大臣とは全く異なる見解を示す。東南アジアの資源は油のみならずボーキサイト、錫、ゴムに至るまで豊富で、ここに日本が割って入れば列強は権益防衛のため必ず反発する。世界は権益と利権で動く。ゆえに軍を南進させれば米国との衝突は不可避で、必然的に戦争になると断言する。

高城源一(中村蒼)は逆に論じる。欧米はアジアを長らく搾取し続け、日本も恫喝され屈辱的譲歩を重ねてきた。このまま手をこまねけば、いずれ日本も欧米の植民地になる。戦うなら米国の準備が整っていない今しかない。現実的に見て、勝機は今しかないと結ぶ。

白熱する議論

議論は久保に移る。中国に大量の兵士と物資を注ぎ込み疲弊が進み、4年間で戦費はすでに220億円を超え、日露戦争の10倍に達しているという。さらにアメリカと戦えるのか、金がないだろうと指摘する。

やがて一同が総理の見解を求め、洋一は一度は流そうとするが、板倉と目が合い発言を決める。計数ののち、財政的には戦争は可能、アメリカとの戦争になってもしばらくは、国債発行と増税で戦費を賄えると結論づける。場がざわつき、洋一は明確な判断を避けて大蔵大臣の甲斐田に話を振る。甲斐田も物品税を幅広く徴収すれば財政上の問題はないと応じる。

反戦派は強く反対するが、住吉は戦争は経済的利益を生むと主張し、4年前に始まった支那事変の影響で軍需が拡大し経済が上向いたというデータを提示する。鉄鋼をはじめ重工業の発展は近年目覚ましく、満州も飛躍的に発展して人々に利益をもたらしていると述べる。

宮本は詭弁だと退け、戦争で金を稼ごうなど正気とは思えないと反論。ここで高城が割って入り、住吉の論を補強する。戦争に必要なものは戦争で養える、深刻なコメ不足も解消される、日本を中心にアジア経済を強くして欧米列強に対抗すべきだと主張する。

甲斐田はさらに熱を帯び、何もしなければ経済制裁で締め上げられ、いずれ国庫は枯渇する、日本がここで立たなければアジアは永久に欧米に隷従する、それでいいのかと訴える。

先んじて開戦

場が騒然となる中、板倉が「宇治田!」と一喝し、議論の取りまとめを命じる。洋一が口を開こうとした矢先、再び発言が割り込む。そこへ東條が様子見に現れる。

高城が村井に話を振り、開戦の場合の方策を問う。村井は奇襲以外に道なしと断じ、相手の準備が整う前に一気呵成に叩くべきで、天候条件から期限は今年の12月初旬だと示す。高城は黒板に「開戦12月1日」と書きつけ、「戦争を始めよう、宇治田総理大臣」と迫る。

洋一は「状況的にそうならざるを得ない」と応じる。宮本は外交による平和的解決を主張するが、高城はそれは対処療法にすぎず、いずれ対米衝突は不可避、やるなら今しかないと押し切る。

役割分担が決まる。村井は統監部とともに南方での具体的作戦を詰める。高城は陸軍として独ソを含む欧州動向の研究に当たる。峯岸は日米開戦後の物資動員、とりわけ輸入資源の調達計画を研究する。木村は内務省の資料を引き出し、今後採るべき国策を検討する。さらに戦時の国内経済統制、食料配給、法整備、各国との連携も課題に加える。こうして閣議は散会となる。

東條は一足先に退きながら「机上で日米開戦か」と呟き、西村に「面白い」と言い残して去る。板倉は、東條が日米戦の予測に関心を示したのは意外だが、ゆえに自分たちはその期待に応えねばならないと語る。意味は明白で、上層に不都合が生じてはならないということだ。

瀬古が「自由な研究は許されないのか」と探ると、板倉は「問題があれば宇治田を使え。あいつは陸軍に逆らえない。俺は憲兵隊長だったから、やつの過去を知っている」と応じる。当時の宇治田はかつて強情で手のかかる男だったが、今ではすっかり聞き分けが良くなった、と。扉の外では樺島がこのやり取りを盗み聞きしていた

過去の因縁

後ろを付ける人物に気づいた洋一は逃走に転じ、撒けたと思ったところで西村に呼び止められる。西村は「あの男は憲兵だ。歩き方でわかるはずだ」と告げ、自ら名乗ったうえで、研究は結果次第で闇に葬られる可能性があるが、それでも真実を知りたいと明言する。

無謀な戦争は避けるべきであり、アメリカで戦争回避の工作を行う洋一の上司とも通じている、と前置きし、どんな妨害があっても自分にだけは本当の情報を渡してほしいと求める。

洋一は自分は素人だし関わりたくないと拒み立ち去ろうとするが、西村は情報将校として満州で亡くなった両親の件を調べられると示し、「これは悪魔の誘惑ではなく公平な取引だ。断らないはずだ」と畳みかける。そして会った事実は内密に、と告げて西村は去る。

洋一は憲兵による尋問を回想する。父は農林省の技術者として満州に赴任し、現地労働者を守るため軍の方針に反対していた。軍は土地を収奪し、満州の人々から搾取して日本からの移民に還元している、そう訴えたが、憲兵は「あなたの両親は、満州で精神を病んで自殺した。それが真実だ」と突き放す。

洋一が「なぜ殺されたのか、誰に殺されたのか」と憤ると、憲兵の部下が腕をつかみ「ただ黙っていればいい。余計なことをするな」と押さえつける。受け入れを拒む洋一に対し、部下は突然殴打し、倒れた洋一の腕を踏みつけて骨折させた

日米の国力比

第2回議会。樺島が日米の国力比を確認する議論を提起する。経済研究班の資料では、控えめに見ても経済規模は日本:米国=1:12、悲観的には20倍の差がある。野島が産業力を示す。鉄鋼は20倍、航空機生産5倍、自動車生産50倍、石炭10倍、石油は桁違いの開き。戦争になれば米国はさらに生産力を引き上げ、差は拡大する

前島俊樹(前野朋哉)が南方油田の確保を前提に問う。高城は初年度40万トン、2年目240万トン、3年目470万トンと増える見込みを示す。だが峯岸は、どれほど石油が取れても運ぶ船がないと断じる。

大西洋ではドイツ潜水艦により、英商船隊が多数撃沈されており、総力戦で狙われるのは船と物資だと前島も補足。ロイズ・レジスター統計を用いれば太平洋における日本商船隊の撃沈予測が可能で、日米開戦時の船舶損耗は月10万総トン、年120万総トンと算定できる。対して年間の造船量の限界はその半分。すなわち輸送船は毎年120万総トン沈み、純減は年60万総トンとなる

企画院の推計では、民間船舶の軍事運用の限界は300万総トン。いくら石油を確保しても、開戦後3年で日本の船の3分の2は撃沈され、石油を運ぶ船が消える。早ければ2年で同様の事態に至る。当然、他の物資輸送能力も失われる。

船がなければ戦争も何もない。峯岸はそう切って捨て、アメリカとの差はあまりに大きい、我が国の資源と工業力を熟知するテクノクラートなら、誰でも知る常識だと一刀両断。宮本も、戦争が可能だと考える方がおかしいと述べる。

瀬古が高城に反論を命じるが、田中はロイズの算定は極めて合理的で反駁の余地がないと認める。板倉は軍部の方針は不変だとして黙殺。宮本はその発言に激昂するも、瀬古に一喝されて自制する。その間、洋一は黙々と計算を続けていた。

恐るべき予測

板倉に呼ばれた洋一は、軍を実際に南方へ進める方針になりそうだと告げられる。以後は不都合な報告を上げないこと、「空気」に逆らって得はないことを念押しされる。板倉は宮本のような人物を警戒し、「ああいうのは赤紙が来るぞ。どこで誰が見ているかわからん」と笑った。

部屋へ戻った洋一は、机に向かいひたすら計算を続ける。樺島が急変を問うと、洋一は陸海軍それぞれの石油備蓄量を質す。何年分あるのか。樺島は極秘だと答えるが、洋一は「新聞記者なら手に入れてくれ。それで陸海軍の思惑が読める。ロイズの統計も持ってきてくれ」と畳みかける。呆れる樺島に対し、「首相を補佐するのがあなたの仕事だろう」と声を荒げる。

洋一は続ける。「樺島さん……俺は愚かだった。この戦争を本気でやれると信じる人間がいる。だが、ごく簡単な計算でわかる。開戦後2年で石炭が尽き、国民は風呂にも入れなくなる。この戦争、日本は必ず負ける。しかもただの敗北ではない。今、頭の中にある光景は、国が破滅するほどの敗北だ」彼は動揺を隠せなかった。

樺島は村井から、海軍の現時点の石油備蓄量を入手した。数値に村井自身も驚いたという。

警戒して歩く洋一と樺島は、角から現れた弟・英二(杉田雷麟)に出くわす。英二は小さな出版社への就職が決まったと告げ、続けて赤紙も来たと打ち明ける。就職でも兵隊でも、いずれにせよ少しは兄を助けられると言い、「俺で…よかったよ」と耳元でささやき、抱き返した。

洋一はなお計算を重ね、海軍の石油備蓄は約2年分にすぎないと見積もる。企画院に向かうと、宮本に赤紙が届いたとの報が入る。所長に盾突いたからだという噂もあったが、宮本が最も強く戦争に反対していたことが理由だと受け止め、これ以上の踏み込みは危ういと皆で話し合った。

7月24日の報告会まで、あと35日。

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前編の結末

再び会議。国家予算の7割が軍事費で、その半分以上を使う海軍に対し、高城がアメリカ相手の勝利想定を質す。村井は「海軍として勝てる見込みはない」と明言する。

7月28日、日本は南部仏印進駐に踏み切り、予想どおりアメリカは即座に対日経済制裁を発動、8月1日には対日石油全面禁輸が決まる。民衆は街頭のラジオでその報を聞き、樺島は洋一の手を引きながら、自分たちは被害者だという感情が膨れ上がっていく、アメリカ人もきっと同じ気持ちだろうと語る。報告会まであと27日。

陸軍省。武藤章(中野英雄)は世論が一気に反米へ傾いたと述べ、西村は日米交渉の頓挫と開戦の気配を告げる。武藤が打開策を問うと、西村は日米の国力比を具体的数値で示し、統帥部を抑えるしかないと答える。西村は例の研究所に望みをつなぐが、武藤は「小さすぎる希望だな」とつぶやいた。

後編へ続く→

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