坂の途中の家 1話ドラマ感想 不安が渦巻く初回

里沙子は夫である陽一郎と3歳になる娘の3人暮らしの専業主婦だった。ある日自宅の郵便受けに裁判所からの手紙が届く。内容は刑事事件の裁判員候補者の通知だった。育児を理由に拒否をすることはできず、50人近い人を呼んだ中で6人が抽選で選ばれる。

抽選の当日の日、場所に集められて結果が発表される。里沙子は裁判員の抽選は外れたが、補充裁判員として選ばれた。補充裁判員も他の裁判員と同様に公判を聞き、欠員が出た場合、裁判員として参加することになる。
その裁判はちまたで話題になっている、八ヶ月の子供を母親が風呂で殺したという刑事事件だった。

第一回公判

里沙子は補充裁判員として公判に参加する。席は裁判員とは違う隅のほうにある席だった。まず検察の主張として、被告人は子育てがうまくいかず、憎しみを覚え始めた。子供さえいなければと思い始め、やがて殺意に変わった。そして虐待を繰り返し、浴槽の湯の中に娘を落として殺害した。事件当日の精神状態には問題はなく、明確な殺意があるという。

弁護人の主張は殺意はない。当時極度の心神耗弱状態で、夫は仕事を言い訳に協力をしてくれず、精神的に追い詰められた状態だったという。当日娘を風呂に入れようとしたら、娘が泣くのでまた夫に叱られると思いパニックになった。その後の記憶はなく、気づいた時には夫に「子供を殺す気か」と強く揺さ振られていた。極めて限定的な責任能力しかなかったということを考慮して、量刑を審議して欲しいというものだった。
また、犯罪事実について被告人は子供にしたことは認めていて、そこを争うつもりはないという。

里沙子は娘を預けていた義母の家へと行く。連れて帰ろうとすると、娘が嫌がって帰ろうとしない。義母は泊めていってもいいといい、里沙子は困惑するが従って置いていく。しかし、自宅の駅へ到着した頃、義母から電話があって娘が泣いているというので、再び義母の家に戻るのだった。
連れて来た娘は抱っこをねだるので、買い物がロクにできない。自宅で食事を作ろうと思っていた里沙子だったが、時間も遅くなったこともあり、出来合いの惣菜を買って帰ることにするのだった。

自宅に戻って夫に今日の裁判の話をするが、あまり興味がない様子だった。惣菜であることにも文句を言わず、むしろ裁判中はそれで構わないし、外食するのでも良いといい「無理をするな」とさえ労ってくれた。そんな夫に里沙子はありがとうと素直に感謝するのだった。

テレビでは今回の事件の話がやっていた。安藤容疑者とはどんな人物かという内容だった。容疑者を知る人物は、挨拶もするし子供と公園で遊んでいたり、普通の主婦に見えたという。また、容疑者と出産後に出会っていた友人は、子育てで悩んでいる雰囲気は微塵も感じなかったという。だが、出演者の弁護士は、容疑者はセレブ願望が強く、子供は周りと張り合うための道具だったのではといっていた。

第二回公判

事件発生後の浴室の写真を見せられる。夫が発見した当時、蛇口から湯は流れたままで溢れていたという事実を説明する。
休憩中、里沙子は裁判員の六実と会話をする。公判を聞きに行くことで、周りに迷惑をかけて困っちゃうとぼやく六実、小さい子がいるとこの裁判辛いでしょうと里沙子にいう。里沙子は話に同意しながら、六実のところには子供がいないことを聞くのだった。

水穂の夫である寿士が証言が始まる。寿士がいうには、自分の協力が足りなかった、妻が疲れていたのはわかっていた。だから、母親に「妻がまいっているから助けて欲しい」とお願いをした。しかし、妻は義母にあれこれ言われるのが嫌で、助けてもらったのは1ヶ月ぐらいの期間だけだったという。
また、妻は娘が他の子に比べて発育が遅いと思っていたともいう。そう思うきっかけが何かあったのかと問われると、保健士から他の子ができる何かが、この子はできないと言われたという。それを改善する努力はしていたのかと弁護士が問うと、怒って育児を放棄するようになったという。泣いてる娘を放ってテレビを見たりしていたと。

その後の妻のはどのように変化したかの問いに、娘を虐待し始めたと寿士は答える。足やお尻に叩いたりつねったりした痕があったので、絶対にもうやめろと言ったらもうしないと言ったが、三週間後にまた爪の痕が見つけた。
それにどう対処したかを問われ、寿士は友人に相談して前に来てもらった保健士に、来てもらうことにしたという。しかし訪問日の2日前に事件は起きてしまう。その理由はなんだと思うかを問われると、娘を見られたくなかったのだと思う、子育てが下手な母親だと思われるのが嫌で、娘を殺したのだと思うと寿士は答えるのだった。

そこから裁判員の質問も始まる。不妊治療をして娘を授かったと聞いたが、誰が言い出したのかという問いに、寿士は妻が希望したと答える。実際娘の発育は遅かったのかという問いには、自分にはそう見えなかった、1人で医者にききに行ったが遅くないと言われたという。
被告人の言動がおかしくなった時、心療内科などの受診は勧めたかという問いには、そこまでのことではないと思っていたという。虐待を見つけてから児童相談所へ行かなかったのは、世間体を気にしたからではないか？と、問われると、どういう所にどういう相談を持ちかけたらいいのかわからなかった。自分がちゃんと判断できたら、こんなことにならなかったと思うと悔やむ寿士だった。

裁判員たちの議論が別室で始まる。年配の裁判員達は夫が立派だとか、夫があんなに気遣っているのに妻は駄目なのかなど、夫を擁護するようなことをいう。若い人は夫の話だけ聞いたのでは、判断ができないという。そんな中、里沙子は補充という立場に戸惑いながらも自分の意見を発言する。どんなに悩んでいたとしても、子供を虐待していい理由にはならないと。だが、別の人からは母親だって人間だから、もし弁護人が言うように夫に追い込まれたとしたら、人として悲劇だという意見だった。

再び寿士に質問が続く。育児で妻が疲れているのを知って、どんなことをしたのかと問われ、妻が息抜きできるように土日は自分が娘を預かったという。適切な対応だという弁護士に、寿士はわからなかったから友人に相談したと答えた。
平日はどうしていたのかと言われると、仕事が早くても10時とか11時に終わるのでと返答する。遅くなっても必ず帰宅するのかと問われれば、飲み会があったり終電逃した時はカプセルホテルに泊まっていたという。そこで弁護人はこう結論づける。1週間のうち平日5日は夜まであるいは翌朝まで、妻が面倒みていたと。

さらに調書に水穂に「母親として劣っている」と言ったことを指摘される。すると寿士はそれを認めつつ、やっと子供が産まれたのに、可愛いと思えないとか産まなければよかったなどいうので、娘の前でそんなことを言って欲しくなかったからだという。
そのことで育児ノイローゼだとは思わなかったのかと問われれば、考えたから励ますつもりで「みんな経験しているのだからできないはずはない、悲観しないで頑張れ」と言ったことで、妻に劣等感を抱かせたとしたら、妻にも娘にも可哀想なことをしたと答えた。

そこでさらに弁護人が追求するのは、しばしば登場する“友人”のことだった。その友人との関係を問われた寿士は、最初は濁すものの大学時代に付き合っていた彼女だと回答する。その答えにざわめく法廷、その後元恋人である穂高真琴への質問が始まる。
彼女いわく自分にも子供がいるので、他人事には思えなかったという。だから子育てブログや本など、寿士からということにして紹介していた。同じ悩みを持つ母親が他にもいると思ったら、安心してもらえると思ったからと答える。

里沙子は帰宅後、陽一郎と食事をしながら今日のことを話す。彼女に相談するフリをして浮気でもしていたのか？と陽一郎がきくと、そういうわけではないが、真琴は仕事も子育ても両立している良妻賢母という女性なので、水穂が劣等感を覚えるのは想像できるという。さらにもしかしたらテレビで言っているような、セレブ願望の強い妻ではなく夫に追い詰められた犠牲者なのかもしれないと推測する。
その話を聞いていた陽一郎は少し呆れた様子で、補欠なんだから張り切るな、知った風なことをいうのは恥ずかしいという。そしてビールを持って来てというついでに、「出来合いのおかずはしょっぱいから喉が渇く」など、悪びれずに里沙子にいうのだった。

一方六実の家でも心境の変化が起きる。六実は体外受精をもう一度したいと、夫である直人に願う。「あんな夫婦にだって子供ができるのに、殺してからなんなの、二人揃って刑務所行けばいい」と憤る。しかし、何度も話し合った結果、これ以上体外受精をするのを諦めた経緯があったため、直人は乗り気ではなかった。だが六実は納得がいかず、話し合うのをやめてその場を離れるのだった。

その頃、同じく裁判員である山田和貴は誰もいない会社で一人、スマホのゲームをして時間を潰していた。そして22時近くになる頃に会社を出て帰宅する。家に帰ると妻の牧子が、娘の誕生会を中止にしたという話をする。なぜ中止にしたかといえば、恵比寿の店を貸切にできなかったからだという。自分の子供の頃はホテルのラウンジを貸切にしていたと、和貴に答えるのだった。

第3回公判

再び夫である寿士に質問が続く。水穂との馴れ初めを聞かれる中、結婚前に妻帯者と不倫していたことを知っていたかという質問がくる。寿士は今回初めて知ったといい、他に初めて知ったこととして、高価なブランドものの靴やバッグはその男性に買ってもらっていたことをいう。結納も五つ星レストランとかそういう所でするのでないなら、やらないほうがマシとも言われたと答える。そして子供が産まれたら幼稚園から芸能人の子供が通うような私立の学校に通わせたいと、セレブ志向があることを証言する。

里沙子は義母の家に娘を迎えに行き、一緒に帰ろうと娘に言うが娘は義母に買ってもらったおもちゃで遊んで無視をする。困っているところに義母が晩飯の惣菜を作っておいたといい、里沙子に持たせるのだった。娘を何とか連れて帰る途中、商店街でさかえと偶然出会う。祖母が孫を甘やかして物を与えてしまうことを相談すると、さかえも同意し、そういう時は天から物が降ってきたと思って忘れるようにしていると答えるのだった。そんな性格のさかえを羨む里沙子だったが、さかえもまた優しくて主婦業をちゃんとこなす里沙子を褒めるのだった。

坂を上っていく途中、とうとう娘がグズり出してしゃがみこむ。疲れたから抱っこをして欲しいというが、里沙子は義母がくれた惣菜を持っていてしてあげることができない。それでもいうことを聞いてくれない娘に、里沙子は少し行った先の角に姿を隠して娘の様子をうかがっていた。そこへ夫の陽一郎が通りかかり、一人取り残された娘を見て驚く。慌てて里沙子が駆け寄り事情を説明するが、聞く耳を持たない陽一郎、周囲に人がいるのを見てとにかく帰ろうと歩き出す。

帰宅後、陽一郎は娘に対していつもああいうことをしているのかを問う。里沙子は事情を説明するがやはり理解を示そうとはせず、「スーパーやパチンコ屋で連れ去りがあった時、その親も近くにいるし目を離してないと思ったんだろうな」と言い、置き去りは幼児虐待だと里沙子を責めるのだった。虐待という言葉に驚きながら否定をする里沙子だが、陽一郎はさらに里沙子に説教を始める。

裁判を引き受けたぐらいで重大任務やっているようなことをいうな、子育てと両立できないのだから無理するなといっただろうという。無理するなの意味がそういう意味だったと知る里沙子は愕然とし、子供がいる人でもやっているしと言う。しかし陽一郎は「みんながやってることができないって恥ずかしいことじゃない、能力以上のことをして取り返しのつかないことになったらどうするの？これは君が思っているよりずっと深刻なことだ」といって、里沙子を説き伏せようとする。

その後里沙子が廊下に行くと、陽一郎が義母に電話をしている声が漏れ聞こえてくる。スーパーの惣菜では味気ないから、義母に頼んで惣菜を作ってもらっていたことがわかるのだった。そして、娘と一緒に実家に泊まらせてやって欲しい、まいっているみたいだからと義母に頼む。その瞬間、里沙子の頭では裁判時の寿士の証言が浮かび上がる。「助けてやって欲しい」と寿士も義母に頼んでいたシーンが思い出された。
娘と陽一郎が一緒に眠る寝室で、里沙子はそのベッドには入らずにその場に立って見ていた。