2024年5月4日に放送された【霊験お初~震える岩~】のネタバレと感想・キャストをまとめています。
ある日突然、見えないはずのものが見え、聞こえないはずのものが聞こえるようになったお初。奉行に頼まれて少し頼りないが頭は切れる右京之介と一緒に、一度死んだはずの男が蘇ったという死人憑きを調べることに。やがて連続殺人事件が発生し、『忠臣蔵』が関係している可能性が高まり……。
【霊験お初~震える岩~】のキャストとスタッフ
キャスト
主要人物
- お初…上白石萌音
日本橋通町で人気の一膳飯屋「姉妹屋」の看板娘
ある日火事に巻き込まれたのをきっかけに、突然不思議な力に目覚める
肥前守に見込まれて、右京之介と共に奇怪な事件を調べることになる
周辺人物
- 古沢右京之介…京本大我
与力見習い
世間知らずで少し頼りないが、算学が得意で頭が切れる
父は“赤鬼”と恐れられる吟味方与力の古沢武左衛門 - 根岸肥前守鎮衛…坂東彌十郎
南町奉行
不思議な話を集める事が好きで、それを集めた随筆集『耳袋』を編纂するためにお初に調査をするよう命じる - 六蔵…満島真之介
お初と血の繋がらない兄。岡っ引き
亡くなった父母の代わりにお初の面倒をみる - およし…野波麻帆
お初の兄・六蔵の妻
一膳飯屋「姉妹屋」の女将 - 古沢武左衛門重正…髙嶋政宏
右京之介の父。吟味方与力 - 小野重明…宮野真守
右京之介の叔父
算学研究をしながら諸国を旅している - 古沢松江…倉嶋かれん
右京之介の母
- 内藤安之介…味方良介
100年前の御家人。死霊として蘇った男 - 内藤りえ/大野屋りえ…倉科カナ
内藤安之介の妻
大野屋りえは彼女の子孫 - 吉田沢衛門兼貞…和田正人
100年前の赤穂浪士 - 桜蓮尼…坂本冬美(特別出演)
深川三好町にある尼僧庵 道光院の庵主
- 吉次…吉岡睦雄
深川三間町十間長屋住まい
使用済みのろうそくを集めて売る、流れ買いを生業としている - おくま…池谷のぶえ
十間長屋の住人 - 助五郎…上川周作
湯屋の窯焚き - 徳兵衛…木内義一
大野屋の主人
スタッフ
- 原作:宮部みゆき『新装版 震える岩 霊験お初捕物控』(講談社文庫)
- ナレーション:坂本冬美
- 脚本:浜田秀哉
- 演出:豊島圭介
- 音楽:中村佳紀
- 主題歌:坂本冬美『恋の予感』
- ゲキメーション(OPタイトル):宇治茶
- 題字:中塚翠涛
- 公式HP
- 公式X
- 公式Instagram
【霊験お初~震える岩~】のあらすじ
人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえる。火災に巻き込まれたことで、能力が開眼したお初(上白石萌音)は、ある日、南町奉行・根岸肥前守鎮衛(坂東彌十郎)に頼まれごとをする。
肥前守は不思議な話を集めているため、お初の力で奇妙な事件を探って欲しいという。それは死んだはずの人間が生き返り、悪行の限りを尽くすという噂の死人憑きについてだ。
肥前守はお初のお供として、与力見習いの古沢右京之介(京本大我)を同行させる。お初はたまたま手をついた壁の向こうに、女の子の遺体が荷物に紛れて遺棄されているのを感じ取る。
兄で岡っ引きの六蔵(満島真之介)の見立てでは、下手人は出入りの業者だろうと考える。お初たちは長屋に向かい、死人憑きの噂がある人物の部屋から下手人の痕跡を感じ取る。
さらに震える岩の噂を聞き、事件は意外な方向へと進み始める。あの忠臣蔵の赤穂浪士が、死人憑きの死霊に関係しているかもしれず……。
【霊験お初~震える岩~】のネタバレ
目覚め
享和2年(1802年)、お初(上白石萌音)らは宴会の仕出しに行った先、武家屋敷で火災に巻き込まれる。燃え盛る火事に逃げ惑うお初、兄の六蔵(満島真之介)とその妻・およし(野波麻帆)と共にどこへ逃げればいいのか迷っていた。
一人はぐれてしまったお初が2人の姿を探していると、足元に黒い手が伸びてくる。「自分だけ逃げるな」「こっちに来い、お前も燃えろ」と焼死した人たちにお初は囲まれてしまった。
どこかからか「早く逃げなさい」という声が聞こえ、どこへ逃げればとお初が問い返すと子供が「向こうだよ」と指差して逃げる方向を示す。お初が戸惑いながら会話を続けていると、その様子を見た南町奉行・根岸肥前守鎮衛(坂東彌十郎)は、彼女に特別な力があることを察した。
兄夫婦と落ち合ったお初は、子供のいうことを信じてみんなを連れてくるよう頼む。そして自らが先導して案内した。こうして人々は助かった。お初の能力が目覚めた瞬間だった。
コンビ結成
お初が働く一膳飯屋「姉妹屋」に肥前守が奉行所を抜け出してやってくる。火事の時誰と話していたのか気になっていたからだった。
六蔵はお初が実は自分とは血の繋がっていない妹で、幼い頃から勘が強いところがあったと話す。人の複雑な思いを感じ取れる年頃になったから、能力が目覚めたのかもしれないと肥前守は考えた。
不思議な話を集める手伝いをして欲しいと頼むが、お初はまったく興味を示さない。兄にとりあえずやってみるよう言われ、渋々手伝いを始めることにした。まず始めに物語を集めた本のタイトルは何がいいかと訊かれ、『耳袋』が良いと選んだ。
死人憑きが現れたという情報を得て、肥前守はお初を呼んで調査するよう頼む。深川の長屋に住む吉次(吉岡睦雄)という男が亡くなったが、突然彼は生き返り住人たちは死人憑きだと騒いだ。
吉次は使用済みのろうそくを集めて売る流れ買いを生業とし、生き返った後も以前と変わらず働いていた。
死人憑きは本来魂の抜けた亡骸に入り込み、悪逆非道の限りを尽くし暴れまわる魔物のこと。亡骸が痛んでくると抜け出して消えるという。
乗り気でないお初に、頼もしい連れ合いを紹介するといってされたのは、古沢右京之介(京本大我)という2つ年上の与力見習いの青年だった。
町に出ると世間知らずな右京之介とお初は噛み合わず、思わずつまづいてしまう。壁に手をついた瞬間、お初には映像が見えてくる。
壁の向こうの中庭にある物入れの中に、女の子の遺体が入っているという映像だった。さらに魚油の匂いがした。そこで店の中に入って荷物を開けてみると、その中に女の子の遺体が入っていた。六蔵がやってきて聞き込みをしたところ、魚油はこの店では取り扱っていなかった。
状況を把握した右京之介は、外から入り込んだのかもしれないと推理する。頼りないと思っていた彼の推理が冴えていることから、お初は「おみそれしました…」と感服した。
死人憑き
亡くなった女の子の身元は、本所相生町のおせんという子だった。昨日の昼ごろから行方が分からなくなっていた。六蔵の関係者への聞き込みから、今朝方の七つ以降に起きたことだと判明する。月一回店では廃材を燃やすことを知っている出入り業者が下手人だろうと、あたりをつけていた。
その頃お初たちは吉次の長屋を訪ねるが、まだ帰っていなかった。部屋は魚油の匂いがし、髪の毛が落ちていた。怪しんでいると吉次が戻ってくる。お初は彼を見るなり、その後ろにいる人物が見え「あんたが、あの女の子を殺したの?」ときく。すると吉次は突然襲い掛かってきた。
右京之介が何とか助けようとし、長屋のみんなも驚いて逃げ惑っていた。お初の首に手をかけ絞め殺そうとする吉次、右京之介が再び助けに入った。逃げるお初を追いかける吉次と、出会いがしらで会ったおくま(池谷のぶえ)が、手桶で殴りお札を見せると動きが止まった。
そこに六蔵がやってきて十手でつつくと再び起き上がり、吉次は「りえ…」とつぶやく。六蔵がお湯を吉次にかけると倒れ、ようやく憑き物が落ちた。
お初が肥前守に報告に行くと、事の経緯を予測する。吉次はおせんを菓子などで釣って自宅に連れ込み殺害。亡骸を行李に詰めて出かけようとした矢先、灯芯を倒してしまいその時に魚油が体についたのではないか。
経緯は分かったものの、死霊が何者なのかそして何のためにおせんを殺したのか、という謎は残った。
あんな恐ろしいのと今後も向き合うのかとぼやくお初に、肥前守は頼もしいのがいるだろうと右京之介の話をする。右京之介は“そろばん玉”と陰でそう揶揄されていた。父親の指先ひとつであっちへパチリ、こっちへパチリと動かされているという意味だった。
右京之介はそのまま町人として世間を見るよう肥前守から言われ、姉妹屋に身を寄せることになった。
ある日、戻ってきた右京之介にお初が声をかけるが、まるで上の空で通り過ぎる。自分の妙な力のせいで避けられているのではないか、お初がおよしに相談すると逆にからかわれた。
こっそり右京之介の後をつけていった時、偶然あった父親の古沢武左衛門重正(髙嶋政宏)に何も言い返せず、言いなりになっているのを見てお初は心配した。
震える岩
ある日、肥前守の使いが豪華な着物と共にやってきた。お初はおよしに着付けてもらい、見違えるような姿になった。それを見た右京之介は「とても…きれいです」と思わずつぶやいた。
お初は肥前守の縁続きの娘、右京之介は中間という設定で、陸奥一関藩・田村家へ向かう。そこは浅野内匠頭が切腹した庭があり、そこにある岩が討ち入りから百年経った今、夜毎震え始めたという。
待っていると突然岩が震え始める。お初は岩に呼ばれるように近づき、手を置くと映像が見え始める。内匠頭が切腹し、吉良邸に討ち入りが起きる。赤穂浪士のうちの一人と目が会い、彼が「りえ殿」とつぶやくと、もう一人の浪人と斬り合う。その相手の人物こそ、あの時見た死霊だった。
一連の不思議はお初の能力に導かれている気がすると右京之介は語る。震える岩も死人憑きも2つの不思議は繋がっていると。右京之介が中間部屋で訊いた話だと岩が震え始めたのは、吉次が一度死んで生き返ったのと同じ頃だという。
なぜ死霊の男は赤穂浪士の男に斬られたのか、なぜ「りえ」と同じ名をつぶやいたのか。お初が真相究明に駆り出されることとなった。
長屋に行って再びお初は話をきく。確かに吉次が生き返った時「りえ」と言っていたとおくまは証言した。しかし吉次の妻はおゆうといってりえではない。妻は10年前にお産の時に命を落とし、生まれた子もへその緒が首に絡まって亡くなった。吉次はいっぺんに大切なものを亡くし、それからは心が空っぽになったようだったという。
右京之介はもう一度赤穂事件を調べてみたらどうかと提言する。浅野家断絶と討ち入りまでの間に、死霊の男と何か関わりがあったに違いないからだ。当時の記録が評定所に残っているので、調べてみると右京之介は言う。
そもそもなぜ吉良に斬りかかったのだろうか、店に来ていた客に聞くとそれぞれ違う理由を述べる。実際の理由としては小さい気がするというお初におよしは「小さくないでしょうよ。色と欲よ。この世にこれほど大きいものはないわよ」と答えた。
ある日、右京之介が不在の時に、叔父の小野重明(宮野真守)がやってきた。小野が滞在する宿を言付け受けていたので、戻ってきた右京之介に教えた。また小野も忠臣蔵について調べてくれるという。
右京之介は神社に奉納されている、算学の算額を見に行っていた。それは算術の問いと答えを書いて、神社に奉納するものだった。右京之介はそれが大好きで、頭がいっぱいになってしまうという。お初の事を避けているのではなく、算術の事を考えていたから上の空だったのだ。それを聞いたお初はほっとした。
小野も算学を生業として諸国を歩き回っている。その小野が言うには右京之介には才能があり、素質は自分よりも上だという。右京之介は小野のような暮らしがしたいのではとお初が訊くと、父親の後を継ぐのが自分の役目だと答えた。
新たな事件発生
男の子の遺体が池から上がる。菊川の煮しめ屋の子で、名は長一郎という。丸屋の時と同じ手口だった。死霊はいなくなったはずなのにどういうことなのか、六蔵は不思議に思っていた。
偶然ぶつかった男から、お初は死霊の存在を感じ取る。子供をかどわかして捨てた時の画が見え、再びあの死霊の顔も見えた。「一緒に連れて行く」と死霊はお初の耳元で囁く。湯屋の釜焚きの助五郎(上川周作)という男に今度は憑依したのだ。六蔵たちがすぐに追いかけると、助五郎は逃げ出した。
六蔵が戻ってくるがまだ助五郎は見つかっていなかった。死霊の思いが入ってきておかしくなりそうだったと語るお初に、もう十分だと六蔵はやめるよう進言する。
大丈夫だと意地を張るお初だが、ふと兄に見栄を張っても仕方ないといい、逃げ出したいと弱音を吐く。でも死霊が誰についているか、見分けられるのは自分しかいない。大丈夫じゃないから、助けて欲しいと頼んだ。六蔵は妹を守るのも兄貴の俺の役目だと言い、肩を抱き支えた。
忠臣蔵はうなぎ?
小野から知らせがあり、右京之介とお初はうなぎ屋に行く。そこでうなぎを食べながら話をすることになった。小野と右京之介が似ているとお初が言うと、どこかバツが悪そうな顔を右京之介はした。
「忠臣蔵はこれ、うなぎでしたよ」と語る小野だが、何なのことか全くお初たちは分からなかった。うなぎの旬はいつかと問われ、夏だと答えるお初に実は秋から冬が旬だと小野は教える。根拠がなくても世間で信じられていることが、思いのほかにあると説明する。
忠臣蔵も世間で言われているような遺恨など、実はなかったのではないかと右京之介が言い出す。当時の記録を書き写したものを見せると「浅野が乱心して斬り付けた。吉良殿は迷惑こうむった」とだけしか書いてない。具体的にどういう遺恨があったか、一切記されていなかった。
当時公儀がきちんと原因を究明せず、いい加減に裁いたということ。理由はどうあれ内匠頭は即日切腹、浅野家は断絶という結論ありきの裁きだった。
それがどういう影響を及ぼすか。場内で刃物を抜けば死罪なのに抜いたのだから、よっぽど腹に据えかねたことがるに違いないと、世間が勝手に考え始めた。むしろそのほうが面白いと。
「面白い話はたとえそれが嘘であっても流布しやすいもの。また嘘というのは、ときとして、真実よりもわかりやすく…美しい形を持っているもの」と小野は言う。
赤穂浪士は武士、忠義を果たすために当然討ち入りするはず。いや、しないわけがない。そういう立場に浪士たちは追い込まれてしまった。
忠臣蔵とはお上のいい加減な裁きが招いた悲劇。討たれた吉良も不幸なら、討つ浅野も不幸。運命に翻弄された者同士だったと小野は結論付けた。
死霊の正体
死霊に取り憑かれるた助五郎は以前、生きる気力を失って二度自分で命を絶とうとしたらしい。吉次もそんな感じだったことから、死霊はそういう心の隙間に入ってくるのかもしれなかった。
吉次はそもそもどこで取り憑かれたのか?ろうそくの流れ買いで死んだ人に縁のある場所、つまり墓だと思いお初たちは吉次が行った寺へ向かう。
道光院の庵主・桜蓮尼(坂本冬美)の話では、倒れた卒塔婆を直すのを吉次が手伝ってくれた際、墓を倒してしまった。しきりに悪寒がすると言っていたという。
倒した墓は100年前、深川西町で亡くなった家族が祭られているという。資料を見せてもらうと内藤安之介、りえ、せん、長一郎とあった。死人憑きに殺された子供2人と同じ名前、さらに死霊がつぶやいていた女性の名前が載っていた。
内藤は自らの手で一家惨殺した。亡くなる前にりえは三人目の子を身篭っていた。生まれたのは女の子で、その子は奇跡的に助かり、ある浪人の侍によって道光院に託された。その後、駿河台の呉服問屋、大野屋に預けられた。今のお内儀がそのひ孫にあたり、しかも名前は同じ「りえ」だった。
死霊は百年前と同じことを繰り返そうとしているのではないか、桜蓮尼は心配する。次に狙われるとしたら大野屋りえに違いない。お初たちは急いで大野屋に行って主の徳兵衛に事情を説明する。にわかに信じがたいことだが、家内の病と関係あるのかもしれないと言い、お初たちをりえの寝所に通した。
りえはおよそ半月ほど前から夜毎、魂が擦り切れるかと思うような泣き声を上げて、しばらくすると元に戻るという。それは岩が震え始めた頃と一致していた。
悲劇の一家
りえが泣き出しているのを見ていたお初は、鏡越しに目が合うと突然内藤りえが見えた。お初はりえになぜそんな事になったのかを直接きいてみる。
内藤りえは駿河台の旗本の娘として生まれ、父親に仕える内藤に嫁いだ。内藤は実直で誇り高い人だった。ある日、内藤がよその子を守るため犬を斬ってしまう。生類憐みの令に反した内藤は捉えられ、その後浪人の身に落ちた。しかしりえはそんな内藤を誇りに思ってずっと付き添った。
内藤は新しい仕官先を必死に探すが、どこも受け入れてくれなかった。その頃から市中で、金品を奪う辻斬りの噂が流れ、内藤は暗い目を見せるようになった。
久しぶりに内藤が目を輝かせて仕官の道が拓けたと報告する。そこは吉良屋敷で赤穂浪士を警戒して、腕に覚えがある者を集めているという。しばらくして内藤を一目見たりえは、仕官の道が途絶えたことが分かった。
「おかしくない、俺は…。おかしいのは、この世…」とつぶやく内藤を見たりえは、初めてこの人の心が壊れていると知った。市中を騒がしている辻斬りが夫だと気づいた頃には遅過ぎた。
それから半月後、内藤は子供たちを刀で突き刺して殺し、りえを斬り捨てる。そこに謎の男が駆けつけて「この世が地獄だからだ」という内藤に対し「鬼…引導を渡してくれる!」と斬り合いになる。
最後は謎の男が内藤を刺殺した。息も絶え絶えなりえのそばに行き、男は夫が正気を失っていることに気づいていたが、覚悟が決まらずこんなことになってしまったと詫びる。りえはこの子は生きていると腹を擦り、子供を謎の男に託して息絶えた。
「どうか…どうか内藤の魂をお救いくださいまし」とお初に頼んで、内藤りえは消えた。そこに死霊に取り憑かれた助五郎が現れ、りえを襲おうとする。声を聞きつけてやってきた六蔵たちに捕らえられ、番所に連れて行かれた。
捕らえられた助五郎にお初は「あなたは、人の心をなくした鬼よ」と言うと、助五郎は唾を吐きかけ「りえ」と叫び続けた。
事件の真相
肥前守にお初は報告をする。大野屋の主人から預かった鎖帷子の頭巾を見せた。これは百年前、道光院に赤子を託した時に残していったものだという。大野屋では代々お守りとして引き継がれていった。恐らく幻の赤穂浪士のものと思われる。
内藤と幻の赤穂浪士は吉良邸で出会ったのではないか、右京之介はそう推理した。吉良が赤穂浪士を警戒していたように、赤穂浪士もまた吉良方の様子を探っていた。正体を隠して内偵で潜り込んでいたのかもしれない。
仕官を求めてやってきた浪人たち同士で戦い、内藤は勝つと執拗に相手を打ちのめした。そのため、吉良の者は内藤が危険な人物だと気づき、結局雇わなかった。幻の赤穂浪士も内藤の心の闇に気づき、辻斬りも内藤だろうと思った。
本来討ち入りを控えていた赤穂浪士は、見て見ぬふりをしていたはずだった。なぜなら下手に騒ぎになって身元がバレたら元も子もないからだ。しかし、幻の赤穂浪士はどうしても見ないふりができず、りえを助けに行ってしまう。
内藤の人生が狂ったのは悪法のため、赤穂浪士も主君が正しく裁かれなかったため、討ち入りに追い込まれた。どちらもご政道の過ちに運命を翻弄された者同士だった。幻の赤穂浪士はそういう意味で、内藤に共感していたのかもしれない。
百年経った今、内藤の魂が蘇り呼び寄せられるかのように、りえの魂もこの世に舞い戻ってきた。内藤のさらなる悪行を危惧して、幻の赤穂浪士の思いがあの岩を震わせたのだろうと考えた。
「怖い…人の心って」とつぶやくお初。六蔵は「誰の心にも恐ろしい鬼が棲んでいるのかもしれねえ。でもな、鬼にならせるのも人の心なら、救うことができるのも、人の心じゃねえか?」と諭す。
「大切な人を優しく包み込む炎も、一歩間違えれば相手を焼き尽くす」今のお初なら内藤の心の思いが分かるのではないかと肥前守に言われ、お初は内藤は愛しているからこそ斬ったのかもしれないと理解を示す。
「正しいことをしても不幸になることがある。そうなればこの世は地獄。大切なものを守りたい。でも守りきれない。だから連れていきたい。この世の絶望から守りたい。守るためには…殺すしかない」お初は内藤の気持ちを考える。
そして内藤の魂が救えるのなら救いたい。自分にはその力があると、お初は覚悟を決めた。
親子の確執
番所に武左衛門がやってきて、助五郎を渡せと言ってきた。右京之介は言いがかりだといって反論すると、思いっきり武左衛門は殴った。それでも右京之介は引かず「言葉など通じない。あなたには、心というものがないからです」と反論した。
すると武左衛門は抜刀して刀を振り上げる。わなわなと震え鬼のような形相で右京之介を見下ろす。だが、斬ることはなく刀をしまうとそのまま番所を出て行った。
右京之介は七つのとき父親に殺されかけた話をお初にする。ある晩、父は母に右京之介が誰の子なのか問い詰め、暴力をふるっていた。刀を握り妻も右京之介も斬ろうとするが堪えた。
父は不義の相手が弟の小野重明だと思っていた。なぜなら右京之介と叔父が似ていたため、心の無い噂が立った。しかし右京之介は母が叔父とそんな関係だったとは思っていないが、父は疑いをどうしても解くことができなかった。誰よりも強く母を愛していたからだ。
お初は話を聞いて合点がいった。叔父と似ていると言った時、右京之介が浮かない顔をしていた理由を。さらに算学の道へ進みたいのに進まないのも、叔父と同じ道に進めばさらに疑いが強くなってしまうからだろうと。
右京之介の人生は右京之介のものなのにおかしいというお初。自分の生きる道は、父に殺されそうになったあの時に決まってしまった、あの恐怖が今も心に焼き付いてしまっていると右京之介は語り、番所を出て行った。
妙に静か過ぎることに気づいたお初は、助五郎の様子を六蔵に見てもらう。すると既に死んでいた。魂は抜け出てしまいどこへ行ったか分からない。お初は右京之介に乗り移ったのではないかと危惧する。死霊が乗り移ると最後には宿主を殺してしまう、そうはさせないとお初は急いで探しに行った。
まさかの憑依
大野屋に行くとお内儀は夏祭りに向かったという。お初は祭りに行って右京之介の姿を探していると、背後から右京之介に声を掛けられる。死霊には取り憑かれていなかった。ただならぬ様子の父を追って祭りに来たというが、途中で見失ってしまったという。
武左衛門も内藤と同じ思いに駆られて刀を振り上げた。その時、武左衛門にも強い恐怖が焼き付いた。愛する者の命を奪い奪われる恐ろしさを。先ほど番所でやりあった時、死霊につけこまれる隙を見せてしまい取り憑かれたに違いない。
お初は急いで武左衛門の姿を探すが、人が多すぎてどこにいるのか分からない。「きっとできる。私にはできる」お初がそう言い聞かせて集中すると、死霊の居場所が見えた。
忠臣蔵の劇ををしている舞台に上がり、向こう側にいるりえ目掛けて武左衛門が刀を抜いてやってくる。なんとか六蔵が取り押さえようとするが、全く歯が立たない。目を覚ますよう右京之介が呼びかけ、一瞬動きが止まるが再び暴れだす。
「りえ!」と叫びながら刀を振り下ろした瞬間、お初がりえとの間に割って入る。するとお初は別の世界へ行き、そこで幻の赤穂浪士こと吉田沢衛門兼貞(和田正人)が槍を渡しながら、「救ってやってくだされ…あの者の魂を」と頼んできた。
お初は槍を手にすると内藤に向かい「内藤様、ご最期を!」と言って突き刺した。その場に倒れた内藤の手をりえは握り「あなたがなさったことは、けして許されるものではありません。罰を、私も一緒に。あなたの妻ですから。何度生まれ変わっても、私はあなたを愛してます。安之介様…」と言って抱き締めた。子供たちも父親に抱きつき、家族みんなで笑い合った。
ドラマの結末
お初が目を覚ますと、肩に忍ばせた鎖帷子の頭巾が身を守ってくれていた。武左衛門も無事目を覚まし「声が聞こえた…心に、お前の声が」と右京之介に語った。
その後、肥前守のはからいで武左衛門はお咎めなしだった。りえも元気になり、岩も震えることはなくなった。幻の赤穂浪士の魂も成仏した。
『耳袋』には障りのあることはここだけの話にするつもりだと肥前守は言う。お初は「どんな思いであれ、それを受け止められる強い心を持つこと。それがわたしの役目のように思います」と語った。それを聞いた肥前守は「霊験お初、ここに誕生すだな」と笑った。
田村家の庭石の奇妙な出来事は『耳袋』に「奇石鳴動之事」と題して記されている。浅野家の菩提寺である赤穂市にある花岳寺には、赤穂浪士たちを描いた「義士出立の図」という掛け軸が残されている。その中になぜか一人だけ、背を向けている者がいた。彼はどうして晴れがましい場で背を向けたのか、それは今も謎のままだった。
右京之介はお初を呼び出し、算学の道を進むことにしたと報告する。お初はてっきり告白でもされるのかと思っていたため、拍子抜けして笑った。生きていくすべが固まったらその時、お初に伝えたい思いがあるという。それはいつかとお初が尋ねると、七年かもしれないという答えにそんなに待てないから今話して欲しいとせがむ。右京之介はとぼけて奉行所に戻ると言って帰った。
【霊験お初~震える岩~】のまとめと感想
不思議な力を持つお初が、死霊の思いを受け止めて成仏させたという話でした。
実際に存在した南町奉行の根岸肥前守鎮衛が書いた『耳袋』に、陰の協力者がいたかも知れないというところから話は始まります。お初には不思議な力があるため、死霊に襲われたりと散々な目に遭いますが、徐々に自分にしかない力の使い道を理解し覚悟を決めます。
忠臣蔵はうなぎと一緒だと例えるあたりの話は、現代の私たちにも通じるものがあります。面白いデマは真実よりも流布しやすく、分かりやすい上に美しいと言うので注意が必要です。
時代劇ホラーといっても残酷な場面や、驚かすような演出はあまりないので、怖いのが苦手な人でも見れる作りになっていました。
話も恋にアクション、ホラーに推理と盛りだくさんな内容を、うまくまとめているエンタメ作品です。時代劇なんて古臭いという人でも、楽しめそうな作りでした。分類的には怪談話というより、捕物話に分類されるのではないかと思います。
キャストも面白く、肥前守とお初のやり取りはほのぼのとし、お初と右京之介のやり取りは初心な感じがよく出てました。個人的には六蔵演じる満島さんの岡っ引き姿が、よく似合っていて良かったです。
どうやら原作はもう一作品あるようなので、ぜひこのキャストで引き続き映像化して欲しいものです。