26年間続いた『科捜研の女』が、ついに2026年1月23日の放送で最終回を迎えました。
スマートゴミ箱の爆発事故、IoTの脆弱性を突いた犯行、そしてDNAフェノタイピングという“禁断の鑑定”。物語としては一つの事件を解決しながらも、この最終回が真正面から描いたのは、「科学は、どこまで正義になり得るのか」という問いでした。
榊マリコは、救えたかもしれない命を前に、警察組織のルールを越えてでも科学者であることを選びます。その選択は正しかったのか、それとも危うかったのか。そして土門薫は、その決断を前に何を守ろうとしたのか。
本記事では、事件の流れを簡潔に整理したうえで、ファイナルに込められたテーマと、榊マリコと土門薫が最後に選んだ関係の形を掘り下げていきます。
結論(先出し)
本作の最終回では、IoTの脆弱性を突いた事件が解決する一方で、榊マリコはDNAフェノタイピングという禁止された鑑定を選び、その代償として科捜研を去る決断を下します。
犯人は特定され、事件は収束します。しかし描かれた結末は、単なる解決ではなく、科学と正義、そして組織と個人の責任をどう引き受けるのかという問いそのものでした。
時系列整理(要約)|最終回の事件は何が起きたのか
本作の最終回で描かれた事件は、スマートゴミ箱の爆発という一見すると単発の事故から始まり、IoT社会そのものが抱える脆弱性へと視野を広げていく構造を持っています。
以下では、犯人特定までの流れと、榊マリコが決断に至る経緯を、物語理解に必要な範囲に絞って整理しました。
① スマートモビリティ特区で異常発生、爆発事故が起きる
実証実験特区で、車や配達ロボットが同時に制御不能となり、混乱の中でスマートゴミ箱が爆発。開発部員・神崎郁夫が死亡する。偶然とは考えにくい同時多発の異常を受け、科捜研が呼ばれる。
② 爆薬ではない爆発、原因はシステム側に
現場から爆薬反応は出ず、司法解剖で死因は「爆発で飛んだ破片による出血多量」と判明する。だが破片からも爆薬成分は検出されず、事件は“物理的犯行”の枠に収まらない。
③ Doors19/20混在が生んだ脆弱性
解析により、不正アクセスで大量データが送り込まれ、バッテリー過充電による爆発が起きたことが分かる。特区内のIoT機器にはOS「Doors」の異なるバージョンが混在しており、そこに致命的な隙があった。
④ 共通指紋はあるが、顔が分からない
別メーカーの機器から共通指紋が出るが、前歴はなし。証拠はあるのに人物像が立ち上がらない“顔のない犯人”という壁に突き当たる。
⑤ 不正アクセスは尾道のフリーWi-Fiから
発信元は広島県尾道市のフリーWi-Fi。端末は飛ばしで、持ち主は特定できない。接続半径の狭さから、マリコはゲソ痕と防犯カメラの洗い直しを指示する。
⑥ 企業聞き込みで土門が覚える違和感
関係企業への聞き込みが進む中、土門は証言の端々に違和感を拾う。特区そのものを狙った“テロ”の可能性が浮上する。
⑦ 中津琉剛が浮上するが、無実と判明
DNAの特徴から中津琉剛が疑われるが、鑑定結果は不一致。妹の葵は兄の無実を信じ、「DNAで顔が分かれば」と口にする。この言葉が、後にマリコの判断を揺さぶる。
⑧ 犯人は西へ移動、顔が分からず追えない
犯罪予測AIで移動ルートは追えるが、防犯カメラで同一人物を特定できない。決定打がないまま時間だけが過ぎる。
⑨ 中津琉剛、遺体で発見される
犯人と接触しようとしたと見られる中津琉が、鳥取で遺体となって発見される。ここでマリコは「フェノタイピングしていれば」という後悔に囚われ、観測者でいられなくなる。
⑩ マリコ、禁断の選択へ
追い詰められたマリコは、土門の制止を振り切り、DNAフェノタイピングに踏み切る。「警察にいるより、私は科学者であることを選ぶ」土門は止めきれず、二人は覚悟を共有する。
⑪ 犯人特定、しかし高見は海外へ
DNAから割り出された人物は高見亘。だが彼はすでにロサンゼルスへ逃亡していた。フェノタイピングの是非が、事件解決以上に問題視され始める。
⑫ 事件は解決、マリコは去り、土門は残る
高見は現地で拘束され、事件の全容が明らかになる。会見では鑑定結果は証拠から除外され、マリコは処分対象に。彼女は辞職を選び、土門は警察に残る。2人は別々の道を歩む。
事件の本質|これは“爆発事件”ではなく何だったのか
京都市内のスマートモビリティ特区で起きた複数の機器の暴走と爆発事件――その背後には不正アクセスとシステムの脆弱性がありました。
この事件の本質は、単なる事故でも無差別テロではありません。IoT社会そのものが抱える構造的な脆弱性を突いた告発でした。
犯人・高見亘が狙ったのは人ではなく、「条件が揃ったときに破綻するシステム」です。しかし想定外の死が起きた瞬間、この行為は告発から決して許されない犯罪へと変質しました。
そしてその転換点で、榊マリコもまた“当事者”に引きずり込まれることになったのです。
テーマ①|なぜDNAフェノタイピングは日本で禁止されているのか
DNAフェノタイピングとは、DNA情報から人種的特徴や顔の輪郭を推定する技術です。海外では補助的に用いられることもありますが、日本では原則禁止されています。
理由は明確です。
- 確率論に基づくため冤罪を生みやすい
- 特定の集団が捜査対象になりやすい
- 「顔」が先にある捜査は思い込みを加速させる
芝監察官の論理は一貫しています。たとえ正義のためであっても、禁止された手法を正当化すれば、警察という制度そのものが壊れる――それが警察側の正義です。
テーマ②|榊マリコは、正しかったのか?
マリコの選択を、作品は正解とも失敗とも断じません。描かれたのは、判断を下した人間が何を背負うのかという現実です。
中津琉剛は、科学の危険性を理解し、止めようとした側の人間でした。その彼が、救えたはずなのに命を落とした。この事実が、マリコから“待つ”という選択肢を奪います。
組織人として見れば、彼女は明確に間違っています。それでも作品は彼女を断罪しません。結果をすべて引き受け、自ら辞職を選んだからです。
「組織人としてはもちろん、科学者としても失格です」
この言葉は敗北ではなく、次に進むための誠実な自己評価でした。
テーマ③|土門薫が“止めなかった”という選択
土門は賛成していたわけではありません。危険性も処分も理解したうえで、それでも最後に“止め切らなかった”のです。
「お前が地獄へ行くなら、俺も一緒だ」
これは肯定ではなく、一人で背負わせないという覚悟です。彼が守ったのは正解ではなく、榊マリコが自分で選ぶ権利でした。
最後に残った人たち|それぞれの結末
- 榊マリコ:科捜研を去ってアメリカへ渡り、科学への責任と自己定義を再構築する道を選んだ
- 土門薫:警察に残り、不完全な現場を守る役割を背負い続ける
- 科捜研の仲間たち:処分なし。自浄のための鑑定書を作り、チームとしての誠実さを示す
- 中津琉葵:問いを受け継ぎ、次の世代へ進む
誰1人、元の場所には戻れません。しかしそれは、喪失ではなく選択の結果でした。
土門とマリコの関係は変わったのか?
2人は同じ場所に立たない未来を選びました。それは関係が壊れたからではありません。
「俺は俺の仕事をする。お前はお前の仕事をしろ」
この言葉は突き放しではなく、互いを対等な存在として認めた宣言です。一緒にいない未来を選んでも、互いの選択を否定しない。それが26年かけてたどり着いた、2人の答えでした。
まとめ|『科捜研の女』が26年かけて問い続けたもの
『科捜研の女』は、単なる事件解決のドラマではありません。科学は人を救えるのか、正義は誰のためにあるのかという問いを、26年間積み重ねてきました。
科学は万能ではない。それでも考え続けることをやめない。
榊マリコは答えではなく「問い」として物語を去ります。その問いを考え続ける限り、このドラマは終わらないでしょう。それが、『科捜研の女ファイナル』という最終回でした。
